サプライズニンジャ理論VSチート野郎

シャル青井

魔王城のサプライズ・ニンジャ

 かくして勇者は幾多の苦難を乗り越え、魔界城の一番最深部、魔王の間へとたどり着いたのである。


「クハハ、まさかここまで来るとはな。さすが勇者、褒めてやろう。どうだ?我が右腕として働くのなら、世界の半分をくれてやろう」

 玉座から魔王がそう語りかける。

 その時だった!


 魔王が語り終わるよりも早く、どこからか降ってきた黒い影が魔王の首を跳ね飛ばしたのだ。

 青黒い血煙が噴き上がり、悪趣味な玉座を染める。

 そしてそこに佇むのは、黒い装束に身を包んだ殺気そのものであった。

 その姿は、伝承に語られる東の果ての国の暗殺者『ニンジャ』に酷似していた。

 全身を包んだ黒装束姿は影のようで、右手の短刀と頭巾から覗く眼光だけがその存在を確かにしている。

 殺意の込められた視線が、次の獲物として勇者を射抜く。

 勇者も剣を構えるが、先程の奇襲のスピードを見る限りまともにやりあっては勝ち目はない。

 ニンジャがまさに動こうとした、その時だった!


「ようやく会えたな、サプライズ忍者さんよ」


 そんな声とともに赤い閃光がニンジャに向けて放たれる。

 ニンジャは咄嗟に高速三連続側転でこれを回避。

 ニンジャも、勇者も、その声の主へと視線を向ける。


「こういうベッタベタな王道ファンタジーどこにでもありふれすぎたお話で張っていたら、いつかは現れると思っていたんだよ」


 背後から現れた声の主を勇者は知っていた。

 魔王城の三階で、強敵である四邪獣を食い止めるために残った魔法使いの青年だ。

 彼の名前は、イフネ。

 突然の出来事に戸惑いながらも、ニンジャの殺意はその闖入者へと向けられる。


「……邪魔をするなら貴様から殺す」

「残念。お前さんは日本に帰るんだ」


 言い終わると同時にニンジャが翔ぶが、それに合わせてイフネも一瞬で魔法結界を張り巡らせる。

 力の差は歴然で、魔力の網が瞬く間にニンジャを捕らえる。


「き、貴様、何を……」

サプライズなし動きが丸見えでは忍者の強みも半減というわけだ。お前さんはもう物語に引きずり出されたんだただの登場人物なんだ。諦めな、毛利忍くん」

「な、なぜその名前を……」


 ニンジャは、イフネの言葉にひどく驚き、怯えているようでもあった。


「そんなわけで日常に帰ろうな。じゃあ、そういうことで」


 そうしてニンジャは魔法使いと共に光の中に消え、ただ死んだ魔王と血に染まった玉座がそこにあるばかりである。

 彼らの行方は、誰も知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サプライズニンジャ理論VSチート野郎 シャル青井 @aotetsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ