2章-0 大山琢磨

2章-0大山琢磨


2019年11月29日 14:00


"大山琢磨"は隙のない黒のビジネス・スーツに身を包んで、とある霊園に来ていた。彼の頭は短髪、そして少量ながら無精髭を生やしている。

彼は片膝を付き、一基の墓石に向かって話しかけた。


「……あと少しだ。もう少しで、"お前"の側に逝ける。"こんな"俺と一緒にいてくれてありがとうな。」


それから彼は立ち上がり、墓石の頭に手を添えた。

スーツの懐から煙草の箱を取り出し、その一本の煙草にライターの火を付け、煙を吐く。


「"大山警部"!もーうそろそろ行く時間っす!」


彼は眉間にシワを寄せ、近くの霊園の駐車場で駐車してある黒光りしたクラウンのセダンを睨んだ。

そしてその車の脇には、彼と同じく黒のビジネススーツに身を包んでいた"小堀内啓太"が手を振って彼を呼んでいた。

啓太は二十代前半で大山の後輩であり部下にあたる。髪は七三で分けてあり、現代風の"若者"という感じであった。


「"コボ"おめぇ、霊園で大声出すなよ…ホトケさんが目ぇ覚ますぞ?」

「あ、すいません。でも今日の為に有給とってるんすから!なんせ、今日はウチの署の"看板"巡査部長の佐藤先輩の昇任祝いなんすから!」

「ああ、そうだったな。あの"アイドル"気取りのアマちゃんだった奴が…俺の階級に追い付けそうだ」


琢磨は呟き、煙草を咥えながら助手席に乗りドアを閉じる。


「あー!琢磨さん、このく・る・ま!禁煙!

奥さんの所に行く前にも注意したっすよ!?」

「はい、はい。わかりました!行くぞ…」


そして大山は横目で流し、懐から携帯灰皿を取り、吸っていた煙草を灰皿に入れる。

それを眺めていた小堀内は頷き、エンジンのセルを回し二人は霊園を後にする。

大山は助手席で左肘を付き流れる風景を眺めていた。


「そういえば、警部?佐藤先輩の"噂"聞きました?」

「ん。何だ?噂って。」


大山は運転中の小堀内の横顔に顔を向ける。


「あー。知らないんすか?!先輩…。自分達が今捜査しているあの"事件"終わったら辞職するみたいですよ?」

「『父母殺害事件』か。母親、父親、ごく希にガッコの教諭。こいつらが我が子、教え子を虐待、体罰してる行為を報いる為。そいつらに"制裁"を与える…。」

「そうっす!その事件っす!やっぱり、佐藤先輩と一緒に就くと頭の中その事件の話ばっかりで…先輩、あんな美人で可愛い顔してあの"事件マニア"っすからね?」


大山はため息をして、また車内から流れる風景に視線を送った。


「まぁ、アイツは"コボ"が俺らの署に来る前はずっと俺の相棒だったからな…。嫌でも頭の中に刷り込まれて覚えるわ。しかし佐藤の奴、警察辞めて女優かモデルに成るつもりかぁ?」


そんな大山の言葉を小堀内は苦笑いしながら聞き、目的地へ着いたのか、車のハザードランプを点けて停車させた。

ハザードランプの一定のリズムの音が車内に

響く。


「琢磨さん。"会場"に到着したんで先に降りてください!」

「ああ…わかった。」

「自分、先に駐車場に車停めてきますね!」


大山は背中で小堀内に返事をした。そして車内から外に出て店の看板を確認する。

彼は、店内に木製のドアを開き店内を見回した。

鐘の音が響き渡る店内。するとその音に気づいてかカウンターの中から白髪混じりの初老の男性が彼に近付き、微笑みながら目の前で一礼する。


「いらっしゃいませ。お客様…喫茶"KEy"へようこそ。」













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それは、大きな絆と一緒だと感じた 佐藤 文 @y1833686

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ