16話『冷酷な男』たちの球技大会

「福森くん、体調はどう?」


「はい、バッチリです!」


 あれから1週間、昼休みと放課後に練習を行いついに迎えた球技大会の日。


「福森くん頑張ってね!」


「応援しているわ」


「福森くんはどうでもいいけど、財前先輩がんばってください!」


 朝倉さん、いつからそんな毒舌になったの…。こういう時くらいは応援してあげなよ。


「朝倉、こういう時くらい応援してくれよ…」


「嫌だ」


「朝倉さん、応援してあげなよ。福森くんも頑張ったんだから」


「先輩がそういうなら応援しますけど…」


 ぎこちない表情で「がんばれ」と言っていた。まあ、応援してあげただけマシか。


「じゃあみんな頑張ってねー」


「じゃあね友くん」


 女子はバスケなので体育館に行かないといけないので、手を振る笹木さんたちはこの場を後にする。

 球技大会は各学年の6クラスをAとBにわけ、トーナメントで各学年ごとの優勝チームを決める。決勝は昼食後に大々的に行われ、全学年の生徒が試合を観戦する。決勝試合の順番は女子の1年、2年、3年、男子の1年、2年、3年となっている。その後の表彰式でMVPと景品がもらえる。告白する奴は、そこで好きな女の子の名前を呼んで告白する。

 んっ、景品は何がもらえるかって? それは表彰式までのお楽しみということで。でも一つだけ言えることは…本当にいらないものだ。


「よし、じゃあ福森頑張れよ」


「はい! 頑張ってきます。西村先輩も財前先輩も頑張ってください!」


「ありがとう」


 走って、自分のチームへと合流していた。


「まぁ、俺たちも頑張るか」


「そうだね。MVPだけはいらないけどね」


「違いねぇ」


 2人で笑い合いチームへと合流した。


 ――しかし。


「おい、財前くんに挨拶してこいよ!」


「バカか! 挨拶なんてしたら殺されるぞ!」


「じゃあどうすんだよ…」


「土下座だ。土下座しかねぇ」


 最近、周りが優しいから元々の自分の扱いのことを忘れてた。久しぶりのこの対応は正直…。


「おい、お前たち。友明に殺されない方法を知ってるか?」


 おい彰文、お前もその対応か? なんだよ殺されない方法って、何をしなくても殺さないよ!


「西村、その方法って…?」


「簡単だ、チームが優勝して友明にMVP取らせればいいだけだ」


 彰文はこちらを向いて、片方の目をとじ、舌を出していた。

 そんなこと言ったら逆に萎縮するだけだろ。自分のプレーが出来なくなる……


「お前ら! 財前くんをMVPにするぞ!」


「やってやる…やってやるよ!」


「やるぞ、お前らー!」


「「「「「おぉー!」」」」


 逆にすごく団結した。


「共通の敵を目の前にすると、団結力が上がるって本当だったんだな」


「お前、そのために俺をだしにしたの?」


「友明、いたっ…痛いから! 肩が潰れるから!」



 最初の相手は、ほとんどがサッカー部のチームだった。一応、チーム全員に彰文がサッカー経験があるか聞いてみたけど、誰もいなかった。

 試合が始まると展開は一方的だった。

 ……俺たちの。未経験者とは言っていたが、気迫が違った。死に物狂いという言葉がぴったりだと思うほどに、相手がボールを持てば追い続ける。それを俺にパスし、彰文が走りこむところにピンポイントでパスを出す。

 試合は4-1で勝った。


「これは優勝できるな」


「だといいけどね」


 言葉とは裏腹に勝ち続けた。それも圧倒的に。準決勝も勝ち進んで、決勝の試合に出ることになった。


「やっと昼休憩だなー」


「そうだな。福森くんはどうだったんだろう?」


「先輩方ー!」


 向こう側から手を振り、こちらの方は駆け足で福森くんが向かってくる。


「どうでしたか?」


「俺たちは決勝行ったぞ」


「すごいですね!」


「福森くんは?」


「危なかったですけど…なんとかなりました!」


 親指を立て、誇らしげな表情をしていた。

 

「昼ごはん食べて栄養チャージしとけよ。食べ過ぎると動かなくなるから注意な」


「わかりました! 昼食は友達と食べる約束をしているのでこれで! 決勝、応援に来てくださいね!」


「頑張ってね」


「はい!」


 福森くんは「それじゃあ」といい、校舎の中に入っていった。


「彰文、決勝のことなんだけど、戦術は」


「その話は後でいいや。ほら、お前呼ばれてるぞ」


 呼ばれてる? 誰に?

 彰文が指をさした方向を見ると、有元先輩が「ざ、い、ぜ、ん、く、ん」と口を動かし、手招きしていた。


「なんで俺なわけ?」


「しらねぇよ。先輩にお呼ばれされたら行く。ほら、早く」


 背中をドンっ押され、前のめりになった。何すんだよという顔で睨みつけると、ニヤニヤした笑みを浮かべ校舎に入っていった。

 有元先輩の方へ歩を進めると、後ろに隠し持っていたスポーツドリンクをくれた。


「疲れたでしょ? これあげるね」


「いいんですか?」


「先輩があげるって言ってるんだからありがとうでいいの」


 有元先輩は頬を膨らましむっとした表情だった。


「すいません。ありがとうございます」


「わかればよろしい」


 校舎の近くにあるベンチをポンポンと叩き、腰かけるように促してきた。


「それで、俺を呼んだのには理由が?」


「うん、球技大会どうだったのかなと思ってね」

 

「一応、決勝に行きましたよ」


「すごいね! よしよし…」


 妹に頭を撫でたことはあっても、撫でられることはなかったから気持ちいいな…。って、そうじゃない! 正気を保て俺!

 そう考えながら有元先輩の手を払いのける。


「な、何するんですか!?」


「なんか撫でたくなったの。それに、表情が変わらないってよく聞くから本当かなって。声が上ずるだけで、本当に表情変わらないんだね」


 クスッとバカにしたような笑みなのに、妙に色っぽい笑い方に見える。


「有元先輩はどうだったんですか」


「私も決勝行ったよ。ほら、ご褒美として頭撫でてくれてもいいんだよ?」


 この人はまた俺のことをバカにして。そんなに俺をいじるのが好きなのか?


「しませんよ」


「じゃあ、決勝は見にきてくれる?」


「はい、見に行きますよ」


「じゃあいいところ見せれるように頑張るね」


「福森くんの決勝も見てあげてくださいね」


「あぁ、あの子ね。わかった、財前くんのついでに見にいくね」


 ついでじゃなくて、そっちを本命で見に行ってあげて欲しいんですけど。



「先輩どこ行ってたんですか?」


「そうだよ、財前くん!」


「友くん…?」


 部室に戻ると、部員と朝倉さんが先に昼食をとっていた。


「友明は有元先輩とイチャイチャしてたぞー」


「イチャイチャなんてしてないから」


 こいつ俺を陥れようとしやがって…。試合中にボールと間違たって言って、全力で足を蹴ってやろうか。

 

「イチャイチャはしてないんですよね?」


「友くん? 有元先輩と会ってたことは否定しないの?」


「会ってはいたけど、ただ球技大会の報告をしてただけだよ」


「じゃあこの写真はなんですかね、友明くん?」


「お前…なんでその写真…」


「校舎の窓からお前らが見えたから、なんか面白そうなことになりそうだと思ってカメラ持ってたら」


 ニヤニヤどころか、悪魔みたいな笑い方をしている。

 それより…なんでよりによって、有元先輩が俺の頭を撫でてる写真なんだよ…。

 俺はゆーっくり教室を出ようとしたら、腕をガッと掴まれた。俺はなぜかわかっていた、後ろを振り向く時、それは死の宣告だということに。


 ――だが、俺は振り向いた。


 あぁー、全員の顔が満面の笑みになってるよ。


「どういうことですか?」


「説明してもらってもいいかしら?」


「財前くん…?」


 この後の球技大会でれるかな。

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笑わない男が笑うと惚れさせられるって本当ですか? 霜月悠仁 @shimotsuki08

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