魔王さま、お祭りです

清泪(せいな)

わっしょいわっしょい

 祭りである。そう、祭りである。


 五百年に一度、先代から受け継いだ古から続く祭りである。


 日々行われる人間との熾烈なる争いに疲弊した魔物達を労うための祝祭である。


 日頃重要な拠点を防衛するために神経を磨り減らしてる幹部衆から、こん棒を振りかざす村人にもやられてしまうような新参まで、多くのモノを労うための祝祭である。


 その為に一年がかりで酒池肉林の準備をしてきたのである。


 配下のモノにある程度は任せたとはいえ、私自身結構頑張ったのである。


 弱味を握られない為と情報管理が厳しい幹部衆らや、階級の差で食とか欲の違いがどんなもんかとか、結構調べたんだよ。


 魔王権限でさぁ。


 我らが始祖の生誕を祝うという名目の為に五百年に一度行うこの祭りは魔王としての威厳も出さなきゃいけないってことでさぁ、めちゃめちゃ頑張ったんだよねー。


 はぁー。


 城じゃトラップとかあったり物騒だし面倒だからさぁ、わざわざ開催地として大きな館まで建てたんだよ。シンプルな来客用としてさー。


 はぁー。


 日頃夜型の魔物多いから朝からやるって申し訳ないなぁとか思ったけど、丸一日楽しみたいから朝八時集合にしてさー、皆ぞろぞろ来てくれたのはマジで嬉しかったんだけどなー。


 はぁー。


 この日の為に人間どもの希望、勇者?だっけか、それも育ちきる前にぶっ殺したんだよ?


 魔王としての矜持から反れるって確かに反発あったけど何とか皆に納得してもらえるよう説得したんだよ?


 なのにさー。


「クーデターって無いよねー」


「いえ、むしろ今こそチャンスでしょう」


 軽口風に文句を言えども、私の目の前で剣を構える緑色肌の魔物はにこりともせずにそう応える。


「ええ!? なんか不満あった? 結構頑張ってたよ、私。自分で言うのもなんだけどさ、良い魔王だと思うよ、ナイス当主!」


「ええ、良い当主でしたとも。だからこそ、こうやってクーデターを行われるわけです」


 緑色肌の魔物は剣先を私に向ける。理想的で禍禍しい歪な形の剣なのだが、突くタイプの剣なのか、これ?


 そもそも申し訳ないが彼の名前を覚えていないことにこうして面と向かってから気づいたので、当主として良かったのか不安に思えてきた。


「アナタは魔王としてぬるいんですよ」


「ええっ!?  何そのギラギラした感じ。若さ? 若さから来る何かなの? 敵対する人間に向けず内部に向けるその感じがまた若い!!」


 敵を倒すならまず味方から、とかなんとかそういうことわざ的なのがあったような無かったような。


「我らが魔物の始祖と呼ばれた初代魔王は、同族での殺戮の果て頂点となったと聞きます」


「有名な昔話だね」


「だがしかし、今の魔王は世襲制だ。血で魔王を名乗る。民の不平不満は政治とこんなご機嫌取りで誤魔化してきたんでしょう?」


 禍禍しい剣が禍禍しい紫のオーラを纏う。肌に合わせて緑色じゃないんだね。まぁ、オーラの色なんて個人の好みか。


 禍禍しいなんて例えてみたけれど、魔物としては畏怖よりもかっけぇーなーという感情が先なので、人間で言うと神々しいと例えるのかもしれない。


 人間の描く神像は大体人間と代わりない姿なので、神々しいという状態は人間らしいという状態なので──いや、ややこしいのでこの話はやめだ。


「──と、言うのがこの館に来るまでの考えでした」


 緑色肌の魔物は大きく息を吐いた。毒持ちだったらと少し警戒したが、彼はそういうタイプではないらしい。


「祭り開始から二時間。クーデターを企んだ者の八割が返り討ち、ですか」


「悲しいけどね」


「それは配下の不甲斐なさに対してですか?」


「いや、単純にお祭り用意したのに誰も楽しんでないからさー。見てよアレー、せっかく集めたのに誰も食べない」


 私が指差した先には円卓に並ぶ人間たちの死体の山。大食漢もいると聞いて何十と村を襲ったのだけど、無駄に終わってしまった。勿体ない。


「その周りに倒れる同胞たちの姿の方が気になりますが」


 円卓の周りに何百かの魔物が気絶している。


「殺さないんですか?」


「逆らう者への制裁って魔王としてやらなきゃならないんだろうけどさ、何度もいうけど今日お祭りなのね。はい逆らったー、はい殺したーじゃ冷めるじゃん。私は皆で騒ぎたいんだよ」


 どうして伝わらないのか、私の祭り魂。


「それで、自分は無傷のまま幹部衆を気絶まで追い込むわけですか」


 ははは、と緑色肌の魔物は乾いた笑い声を上げた。表情は崩さず、私をすんとした生気の無い顔で見ている。


「魔王さま、お祭りです」


「は?」


 急に何を言い出したのだろうか?


 祭りは当に開始して続行不可能なぐらい客人たちは倒れている。


「いえ、煽ったのですから自分が責任をとります。魔王さま、これは祭りです。喧嘩祭りなのです。人間にはあるらしいんですよ、闘神を奉る為のなんやかんやが。それだと思いましょう」


「いや、え、ここにきて人間から参考にしてみたよとか言っちゃうの?」


「言っちゃいましょう、言っちゃいましょう。いえね、このあとも各地方の若手が集まってくる段取りなんですよ、今回のクーデター。魔王倒して浮かれてる幹部衆を若手が狙う、二段階クーデターなんですよねー」


 緑色肌の魔物が目線を外し窓へと目をやる。気配からするに外は静かなものだが、言う通りそろそろ若手が駆けつけてくるのだろう。


「それ煽るってより、仕掛けてね?」


「魔王さまが一番強いと知らしめる、喧嘩祭り万歳ですね。そのあと皆で酒池肉林で大団円ですよ」


「そっか、最高のお祭りだなそれは。私、ワクワクしてきたぞ!」


 魔物として生まれたからには強さ談義は命のテーマであるから、それをハッキリと示すのは気持ちが盛り上がるところだ。


 では、ここからは気持ちを切り換えて喧嘩祭りといこうではないか!


「んじゃ、まずは──」


 そう言って私は拳を突きだし緑色肌の彼をぶん殴った。


 彼は錐揉み回転で宙へと吹っ飛び、ふぎゅあと変な声を上げたのち床に落ちた。


 あ、名前聞くの忘れた。


 


 

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