第5話 モノクロームの写真

 新藤絵梨佳ちゃんと知り合ってから、何度かスマホに連絡がきていた。

 朝早く放送している時代劇を見るために早寝早起きしてるとか、全然女子高生っぽくない話題だけど、それはそれでおもしろい。

 六月に入ってすぐの土曜日、ショッピングモールの本屋さんに行ったらたまたま会えたので、併設されているカフェでお話をした。

 ちょうどボランティアの帰りだったらしい。

「また時代小説を買ったんだよ」

 テレビ時代劇の原作になった小説らしく、私も知っているシリーズだった。

 船宿に居候している浪人が主人公の人情話だ。

 本の話をしているときは楽しそうだったけど、一段落つくと、絵梨佳ちゃんの表情がさえなくなった。

 ふうとため息をつきながらわけを話してくれた。

「進路のことね、親に話してみたんだけど、やっぱり反対されちゃってね」

「ああ、そうなんだ」

 まあ、予想していたとおりのことだ。

 なかなか説得するのは難しいんだろう。

 明倫館高校だとなおさらだろうな。

 せっかくいい高校に合格したんだから、いい大学に進んで、いい会社に入る切符を手に入れたわけだもんね。

 それは誰にでも回ってくるチャンスではないし、介護の進路よりも安定した人生を歩める確率が高いはずだ。

 もったいないという意見は決して間違ってはいないと、私でも思う。

 というより、うらやましい。

 なんなら交替してあげたいくらいだ。

 人に自慢できるような有名会社に入って、おしゃれな仕事をしてたくさんお給料をもらえるなんて、勝ち組ってやつだよね。

 でも、ふと思う。

 もしも私が同じ事で悩んでいて、おばあちゃんに相談したら、なんて言ってくれただろうか。

『自分のやりたいことをやるのが一番だよ。それでみんなが喜んでくれるなら、あとはなんとでもなるものだよ』

 たぶんこんな感じだろうな。

 もちろんお金も大事だし、仕事で体を壊したりしたらいけないと思う。

 やりがいなんていうのもきれいごとかもしれない。

 でも、おばあちゃんなら、やってみたらいいよって背中を押してくれたと思う。

 私はふと疑問に思ったことを聞いてみた。

「ねえ、絵梨佳ちゃんはおじいちゃんおばあちゃんと一緒に住んでないの?」

「うん、うちはね、両方の祖父母がまだ健在だけど、どっちも遠くに住んでるから、二、三年に一回会うかどうかって感じかな」

「それだとやっぱり相談できないか」

「まあ、相談したとしても、やっぱりやめろって言うんじゃないかな」

「どうして?」

「お父さんの方のおじいちゃんおばあちゃんは昔パイロットと客室乗務員をやってたんだよね。で、今はハワイに住んでるのよ」

 なんだそれ、うらやましすぎる。

「いつでも遊びに来なさいなんて言うけど、そんなに簡単に行けるわけないよね」

 そりゃそうだ。

 私なんかパスポートも持っていない。

「で、二人とも英語が得意だから、小さい頃は英語で話しかけられたりしててね。今でもちょっと苦手なんだ」

 世の中にはいろんなおじいちゃんおばあちゃんがいるものだ。

「お母さんの方の実家もね、やっぱり遠いんだよね」

 絵梨佳ちゃんの言った県名はここからだと新幹線とか飛行機で行くようなところだった。

 うちもお父さんの方の実家がやっぱり遠いから、お正月とお盆休みのどちらかくらいしか会いに行くことがなかった。

 お母さんの方のおじいちゃん、つまりおばあちゃんの夫だった人には会ったことがない。

 ずいぶん若いときに亡くなってしまったということしか聞いたことがない。

 おばあちゃんの部屋に古いモノクロ写真が掲げてあったのを見たことがあるだけだ。

 思えばおかしなものだ。

 絵梨佳ちゃんはおじいちゃん達と同居しているわけではないのに老人ホームのボランティアをやっていて、私は兄弟がいないのに子供と触れ合うのが好き。

 身近にいないからこそ、逆にそうなるのかな。

 兄弟がいる人はケンカしちゃったりするんだろうな。

 進路に関しては私からアドバイスしてあげられることは特になかったから、結局、あまり話が弾まなかった。

 何となく会話が途切れたところで、テーブルの上に置いてあった絵梨佳ちゃんのスマホが震えた。

 見るつもりじゃなかったんだけど、通知画面が目に入ってしまった。

 翔弥さんからのメッセージだった。

「あ、あのね、先輩がよく相談に乗ってくれてね……」

 真っ赤な顔をしながらわざわざ自分から説明してくれる。

 べつにいいんじゃないかな。

 お似合いの二人だと思うし、もちろん翔弥さんだってちゃんとした人だ。

 むしろ応援したいくらいだ。

「つきあってるの?」

 ストレートに聞いてしまった。

 だって、おもしろそうだもん。

「ま、まさか、ち、ちがうの……」

 両手を突き出して、残像で指が三十本ぐらいに見える勢いでぶんぶん手を振っている。

「ま、まだそういうんじゃないし……」

「まだそうじゃなくても、そうなるといいね」

「なるかなあ?」

 あら、やっぱり期待してるんじゃん。

 大丈夫でしょ。

 向こうだって、そうやってスマホに連絡くれるんだから。

「先輩、カノジョいるのかな?」

 やっぱり気にしてるじゃん。

「カノジョはいないって言ってたよ」

 初めて会ったときに、秀太君のお父さんと間違えそうになったときのやりとりを教えてあげた。

『結婚どころか、カノジョもいないよ』と言っていた話だ。

 絵梨佳ちゃんはうれしそうに笑いながら両手で真っ赤な頬を押さえていた。

「よかった。美森ちゃんと話してると安心するね」

 翔弥さんも女子慣れしてない感じだから、絵梨佳ちゃんとの仲をどう進展させていいのか迷ってるんじゃないかな。

 とは言っても、私だって、そっち方面のアドバイスなんて進路の話以上に苦手だから、今はそれ以上のツッコミはやめておいた。

「秀太君の新しい動画とか、あったら私の方にも送ってって伝えておいてよ」

「あ、うん、連絡しておくね」

 うまい口実を与えてあげた。

 これも人助けみたいなものだろう。

 応援してるからね。


   ◇


 私は弁天様から言われていたことを実行に移していた。

 おばあちゃんのお財布の中身を確かめることだ。

 でも、親には内緒にしておいた。

 べつに泥棒するわけじゃないから堂々としていればいいんだろうけど、なんか言いにくかった。

 お金が欲しいのかと誤解されたくないし、神様から言われたからなんて説明するわけにもいかない。

 土日はお父さんかお母さんのどちらかが家にいたし、平日は私も学校から帰ってくる時間が遅くなることも多かった。

 うまいタイミングを見つけるのに結構日数がかかってしまった。

 六月中旬に、学校行事の振替で月曜日に休みがあった。

 私は一人で留守番だったから、お財布を見に行ってみた。

 元々おばあちゃんの荷物はそんなに多くなかったし、部屋を使うあてもなかったから、二月に亡くなってからも整理しないでほぼそのままにしてあった。

 おばあちゃんの部屋は一階の西側隅にあって、台所から回っていく形になる。

 いつもはお母さんの目を気にしなければならないけど、今日は家に誰もいない。

 部屋の中は漢方薬の匂いがした。

 ずっとおばあちゃんが飲んでいた薬だ。

 懐かしい匂いだ。

 幼稚園の頃、おばあちゃんに迎えに来てもらって家に帰ってきたら、親が仕事から帰ってくるまで私はここで過ごしていたものだ。

 いつも西日がまぶしくて、畳がほかほか暖かかった。

 夏は簾をかけていて、おもしろい影ができていたのを思い出す。

 一緒に折り紙をしたり、お菓子を食べたり、懐かしい思い出が次から次へとよみがえってくる。

 おばあちゃんは昔話を語るのが上手で、私は同じ話を何度もせがんで聞いていたものだ。

 時代劇のテレビを見たのもこの部屋だった。

 おばあちゃんがいつも座っていた座布団に座ってみる。

 座布団はぺったんこだ。

 長い間私とおばあちゃん二人の体重が乗っかっていたからだろうか。

 今思えば、おばあちゃんだって重たくて膝が痛かったんじゃないかな。

 あの頃の私はそんなことにお構いなしでたまに跳びはねちゃったりしていた。

 そんなときでもいつも私の頭を撫でてくれていたんだ。

 この部屋にはいろんな思い出がつまっている。

 お母さんが仕事でいなくても、私はいつもおばあちゃんと一緒に過ごしていたから寂しくなかったんだ。

 こうして座布団の上に座っていると、今すぐにでもおばあちゃんがお買い物から帰ってくるような気がする。

『ほら、美森、栗饅頭食べるかい?』

 栗饅頭なんか大嫌いなんてわがまま言ってごめんね、おばあちゃん。

 おばあちゃん……。

 ふと、おばあちゃんにとって私はどんな孫だったんだろうかと考えでしまった。

 弁天様に気づかされたように、必ずしも私は良い孫だったわけではないんだろう。

 自分が忘れているだけで、わがままも言ったし、甘ったれてぐずることもあったんだろう。

 そういえば、お風呂でおばあちゃんに冷たい水をかけたことがあったっけ。

 小さい頃、いつも私はおばあちゃんとお風呂に入っていた。

 先に私の体を洗って湯船に入れてから、おばあちゃんは自分の体を洗う。

 そのときに、背中を向けていたおばあちゃんに、私は水道の冷たい水を両手ですくってかけたのだった。

『うわっ! ひゃっこい!』

 おばあちゃんは驚いて振り向きながら叫んでいた。

『いやだよう、美森。ひゃっこいよ』

 あんなに悲しそうな顔をしたおばあちゃんを見たことはなかった。

 もちろん私だってほんのちょっとしたイタズラのつもりだったから幼いなりに反省して二度とやらなかったし、いつもそんな悪い事ばかりしていたわけでもない。

 でも、水をかけてしまったことは事実だ。

 それでもおばあちゃんは私のことをかわいがってくれていたのだ。

 甘えるだけの私はいったいおばあちゃんにとって何だったんだろうか。

 おばあちゃんに恩返しをしたかった。

 でも、どうすることが恩返しなのか、結局分からないままおばあちゃんとのお別れを迎えてしまったのだ。

 いけない、また涙が出てきた。

 おばあちゃんのことを思い出すときは笑顔って自分に誓ったのに。

 やっぱりまだ気持ちの整理がつかない。

 でも、いつまでもこうしているわけにはいかないから、お財布を探してみることにした。

 おばあちゃんはいつもタンスの小物引き出しにしまっていた。

 タンスの上には小さな仏壇がのっている。

 位牌とおじいちゃんの写真が掲げてある。

 写真の中のおじいちゃんは翔弥さんと同じと言っていいくらいの若さだ。

 そういえば、思い出した。

 小さい頃はタンスの上のこの仏壇の奥が見えなくて、私はあんまりおじいちゃんの写真を見たことがなかったのだ。

 おばあちゃんの膝に座っていると、仏壇の奥に隠れて見えなかったからだ。

 だからあんまりふだんおじいちゃんのことを意識しなかったんだろうか。

 生まれてきたときにはもう亡くなっていたからという理由だけではなかったのかな。

 なんだかもやもやする。

 私はタンスの引き出しをそっと引いた。

 開けてみたら、お財布はそこにあった。

 茶色い皮の長財布だ。

 病院から帰ってから、お母さんがいつもの場所に戻しておいたんだろう。

 あっさり見つかったのは良かったけど、中を見ようとした時に手が震えた。

 とくん、と心臓が音を立てたような気がした。

 弁天様はいったい何を見るように言っていたんだろうか。

 本当に見ても大丈夫なんだろうか。

 急に迷いがわきおこってきて不安になる。

 おばあちゃんが私に見せなかった物なら、見てはいけないんじゃないだろうか。

 でも、弁天様はおばあちゃんに会うための条件として財布の中身を見るようにと言っていた。

 よし、覚悟を決めた。

 私は思いきって開けてみた。

 ファスナーを引いて中を見ると、千円札が何枚か入っていた。

 お札の間に写真が二枚挟まっている。

 モノクロとカラーの写真だ。

 モノクロの写真は古い木造校舎の前で撮影されたクラス写真だった。

 小さいサイズのプリントだけど、保存状態が良かったからか写真の陰影がくっきりしていて、細かな表情もよく見える。

 両側に教師らしい大人が立っていて、その間に二十人くらいの生徒達が並んでいる。

 前列にしゃがんだ女子生徒は三人しかいないけど、その中のおさげ髪の少女に目が釘付けになった。

 おばあちゃんだ。

 間違いない。

 制服がちょっと古い時代のスタイルだけど、清楚なおばあちゃんによく似合っている。

 でも、なんか表情が硬い。

 写真が嫌いだったのかな。

 おばあちゃんはあまり写真を撮る趣味のない人だった。

 カメラもスマホも持っていなかった。

 旅行とかお花見でも写真を撮っている姿を見たことがなかった。

 それなのに、お財布の中にこんな写真を入れて大事にしていたとは知らなかった。

 私は写真をスマホで撮影した。

 全体とおばあちゃんの拡大で二枚。

 裏側には昭和の年月日が書いてあった。

 おばあちゃんの字だった。

 それも撮影しておいた。

 スマホで昭和と西暦の換算を調べて計算してみたら、戦後間もない頃で、おばあちゃんが高校生の時の写真のようだった。

 私と同じくらいの年頃のおばあちゃんの写真を見たのは初めてだった。

 もう一枚の写真は私だった。

 生まれたばかりでしわくちゃな赤ちゃんだった頃の写真。

 そういえばこの写真には見覚えがあった。

 デジカメの写真をおばあちゃんのためにプリントしてまとめたアルバムがあって、よくこの部屋でめくって眺めていたものだ。

『おばあちゃん、私かわいい?』

『うん、かわいいねえ。美森はいい子だねえ』

 聞くと必ずそう言って頭を撫でてほめてくれたから、私は何度でも同じことを聞いていたものだ。

 その中でも私自身のお気に入りの一枚がこれだった。

 幼稚園で、自分が生まれた頃の写真を持ってきましょうと言われた時があって、おばあちゃんと一緒にアルバムをめくってこの写真を選んだんだった。

 私はこれもスマホで撮影しておいた。

 お財布の中にある物といえば、他には特に何もなかった。

 よくお花の苗を買いに行っていたホームセンターのポイントカードとデパートに行くときに使っていた鉄道系交通カードだけだった。

 弁天様が言っていたのはおそらくこの二枚の写真のことなんだろう。

 私の写真はなんとなく分かる。

 だって、おばあちゃんは私のことをとてもかわいがってくれたのだ。

 でも、おばあちゃんの高校生の時の写真には何か意味があるんだろうか。

 内緒で見ちゃったんだから、お母さんには聞くわけにもいかない。

 弁天おねえさんに聞いてみればいいか。

 私は写真をまたお財布に入れて、タンスの引き出しにしまった。


   ◇


 お母さんに牛乳や卵などを買っておくように頼まれていたので、その日の夕方、私はショッピングモールに買い物に行った。

 ついでに弁天様の神社に行ってみたけど、お参りしても弁天おねえさんは姿を現してくれなかった。

 せっかく写真を見つけたのに……。

 呼んでみようかと思ったけど、他にも参拝に来ている人がいたからやめておいた。

 しかたがないので道祖神さんのところに顔を出してみたら、今日はお爺さん姿で最初から岩の上に腰掛けて私を待ち構えていた。

 なんだか機嫌が悪そうだ。

「おぬし、わしに内緒で何かやっておるだろう」

 私の姿を見つけるとギロリと横目でにらんできた。

「そ、そんなことないですよ」

 道祖神さんには言わないと弁天おねえさんと約束したから、内緒にしておかなければならない。

 たとえ見透かされているとしても、否定しなければならないんだ。

 なんとかごまかしたけど、道祖神さんはため息をついてぽつりとつぶやいた。

「やめておけ」

 どうしてですか?

 これだけは譲れませんよ。

 おばあちゃんに会いたいんですから。

 道祖神さんが私のお願いをかなえてくれないからいけないんですよ。

「他人に知られたくない悩みなんて、お前さんにもあるだろ。便秘とか」

 デリカシーがないな、もう。

「算数の問題だ」

 算数?

 道祖神さんはそれっきり黙り込んでしまった。

 湿り気をふくんだ風が吹き抜ける。

 桜の葉がさわさわと音を立てる。

 用水路の土手には背の高い草が生えていて、水面が隠れて見えなくなっていた。

 初めて道祖神さんに会ってからまだ三ヶ月くらいしかたっていないのに、ずいぶん風景が変わるものだ。

 つくしを取っている男の子がいたことが信じられないくらいだ。

 季節が巡り、年月が流れ、いろんな人がここを通り過ぎていったんだろう。

 おばあちゃんもその中の一人だったんだ。

 道祖神さんが岩から立ち上がって私をじっと見つめる。

「おぬしでもできる簡単な算数だ」

 私だって二次方程式くらい解けるし、この前、高校のテストに出た三乗の展開も因数分解もちゃんとできましたよ。

「そんな複雑な計算はいらん。真実は常に単純なものだ。だからこそ重みもある」

 単純で重みのあるもの。

「おぬしにそれを受け止める覚悟はあるのか」

 なんだろう。

 北風が吹いたわけでもないのに体全体がぞわっとした。

 毛が逆立つような感覚が体中を這い回って気持ちが悪い。

「もう一度言う。やめておけ」

 でも……。

 私が何か言おうと言葉を探していた時、道祖神さんが姿を消した。

 誰か来たようだった。

 それで姿を消したらしい。

 やって来たのは大学帰りの翔弥さんだった。

「あれ、今他に誰かとしゃべってなかった?」

「あ、いえ、私だけですけど」

 はぐらかすと、「ふうん、そう」とあまり気にした様子もなく翔弥さんが鞄からスマホを取り出した。

「秀太がね、また新しい言葉を言うようになったんだよ」

 動画を再生すると、お母さんを見上げながら右手を振っている翔太君が何か言っていた。

 撮影しているのはお父さんということらしい。

 秀太君は首をかしげながらしきりに何か言っている。

『じょじょぶ、じょじょぶ』

 じょじょぶ?

「ああ、『大丈夫』って言ってるんですね」

「うん、そうなんだよ。最初に秀太のお父さんが意味に気がついてね。ダイジョウブってちゃんと言い直したらウケケケって笑って喜んでいたんだってさ」

「へえ、良かったですね。家族みんな楽しそうで」

 ついこの間翔弥さんから話を聞いた時は夫婦も親子も大変そうだったけど、今は本当に大丈夫みたいだ。

「鶴咲さんのおかげで秀太の話をじっくり聞くようになったって感謝してたよ」

 お役に立ててなによりだ。

 私は翔弥さんにスマホの写真を見てもらった。

「これ、どこの写真だか分かりますか」

 おばあちゃんの写真を一目見て翔弥さんはすぐに答えた。

「あれ、これ、明倫館高校だよね。記念館だよ」

 記念館?

「記念館っていうのは、明治時代に作られた木造校舎でね。和洋折衷の洋館で、当時はモダンだったらしいよ。昭和の時代まで実際に使われていたんだけど、さすがに老朽化で校舎としては使えなくなってね。歴史文化財に指定されて、文化祭の時に一般公開したりしてる建物なんだ」

 そうなのか。

 私が受験した時の試験会場は新しい校舎だったから、そんな建物があったとは知らなかった。

「この女子学生の制服、昔のやつだね。昭和の終わり頃まで同じデザインだったんだよ。それから二回変わって今のデザインになったんだったかな。生徒会の資料で見たことがあるよ」

「へえ、そうなんですか」

 ということは、おばあちゃんは明倫館高校の生徒だったということになる。

 病院ではそんなことはまったく話してはくれなかった。

 おばあちゃんは私が明倫館高校を受験すると聞いて喜んでくれていたんだろうか。

 道祖神さんの話では全然勉強してないってばれてたらしい。

 ああ、落ちちゃって申し訳ない。

「これ、うちのおばあちゃんなんですよ」

「へえ、鶴咲さんのおばあさんか。この間亡くなったんだったっけ」

「ええ、八十五歳でした」

「そうなのか……」

 翔弥さんは拡大したおばあちゃんの写真を少しの間じっと見つめていた。

「……あんまり鶴咲さんと似てないんだね」

 申し訳なさそうにつぶやく。

 でも、まあ、事実だ。

 私はお母さん似だとはみんなに言われるけど、おばあちゃんに似ていると言われたことは一度もない。

 今の私と同じ年頃の写真なのに、たしかに顔は似ていない。

 髪型の違いとか、時代の流行とか雰囲気のせいでもなく、実際それほど似ていないのだ。

 次に裏面を撮影した写真を見せた。

 翔弥さんは年月日を見てすぐに暗算したらしい。

「七十年前か。おばあさんが十五歳の時だね」

「この写真に何か意味があるらしいんですけど、分かりますか?」

 私が尋ねると、さすがに翔弥さんも困った顔をしていた。

「うーん、急に言われても分からないな。建物は今もあるのと同じみたいだし、やっぱり写ってる人だろうね」

 まあ、それはそうだろう。

「意味って誰が言ってたの?」

 神様に言われたと説明するわけにもいかなくて困ってしまった。

 しどろもどろになっていると、翔弥さんがぽんと手を叩いた。

「うちに明倫館高校の卒業生名簿があるから、何か手がかりになるかも。持ってきてあげるよ。明日でいいかな」

「いいんですか」

「だって気になるだろ」

 もちろん!

「遠慮しないでよ。君には借りがあるから」

「ありがとうございます」

「じゃあさ、明日の夕方、ショッピングモールのフードコートでいいかな」

「はい」

 翔弥さんと別れて買い物を済ませて家に帰ってから、絵梨佳ちゃんにも連絡を入れておいた。

『明日、翔弥さんと会うことになったから、来る?』

 即レスだった。

『行く!』

 なんでって聞かないんだな。

 信頼されているんだかなんだか、絵梨佳ちゃん、ピュアすぎる。

 べつに後ろめたいことなんか何もないけど。

『明倫館高校の卒業生名簿を見せてくれることになってるんだ』

 聞かれてもいないのに説明してしまった。

『へえ、そういうのがあるんだね。知らなかったな』

 在校生は持っていないのか。

 卒業生と知り合いになっていて良かった。

 これも何かの縁なのかな。

 ふと、道祖神さんの言葉を思い出した。

『やめておけ』

 いいえ、やめませんよ。

 少しずつ手がかりが見つかってきているんだもん。

 私はスマホの写真を見つめながら必ず謎を解くことを誓った。


   ◇


 次の日の夕方、私たち三人はショッピングモールのフードコートでアイス屋さんに並んでいた。

 絵梨佳ちゃんは季節限定フレーバー二つで迷っていた。

 バニラキュービックとプレミアムメロンミックスだ。

 もしかしたら進路選択だけじゃなくて、ふだんから迷うタイプなのかもしれない。

 翔弥さんがショーケースを指差す。

「僕はバニラの方にするから、新藤さんはメロンのにしたら?」

「じゃあ、そうします」

 翔弥さんのアドバイスにはあっさり従うところが分かりやすい。

 頑張れ、絵梨佳ちゃん。

 私は定番のヘーゼルナッツマロンを選んだ。

「美森ちゃんは栗味好きだね」

 おばあちゃんの影響だろうな。

 三人で丸テーブルを囲んで、まずはアイスを食べる。

 絵梨佳ちゃんはメロンミックスを一口食べて、「おいしい。これ当たりです」と喜んでいる。

 赤肉の夕張メロンと緑の静岡メロンがマーブル状にミックスされていておいしそうだ。

「先輩のそれ、どうですか?」

 翔弥さんが絵梨佳ちゃんにカップを差し出した。

「味見してみる?」

「え、いいんですか」

「うん、どうぞ」

 絵梨佳ちゃんが遠慮がちにスプーンをさして、ほんのちょっとだけすくう。

 手が震えてるのがはっきり分かる。

「もっと取りなよ。それじゃ、味が分からないだろ」

「えっと、じゃあ、いただきます」

 見てるこっちが照れくさいですよ。

 アイス食べてて汗をかくなんて、もう暑い暑い。

「うーん、こっちもおいしいですね。すごいバニラ感ありますね」

 翔弥さんによればキュービックというのは三乗という意味らしい。

「バニラかけるバニラかけるバニラってことですか?」

 私が口にした疑問に翔弥さんが答えた。

「『かけすぎバニラ』ってことだね」

 ひどいダジャレセンスだ。

 なのに絵梨佳ちゃんはくすくす笑っている。

 甘すぎるよ、二人とも。

 おかげで私の栗アイスの味が分からなくなっちゃった。

 どうしてくれるのよ、まったく。

 アイスを食べ終わったところで、本題の卒業生名簿の話になった。

 翔弥さんが卒業した年に発行されたものだそうだ。

 卒業アルバムのサイズで、昔の百科事典みたいに分厚い。

 さすがに歴史ある明倫館高校だ。

「卒業した年度ごとに名簿が収録されているんだよ。クラスでは分けてなくて、五十音順に並んでるんだ」

 翔弥さんがページをめくりながら説明してくれた。

 一番最新の学年に翔弥さんのことが記載されている。

 氏名、住所、電話番号、現在の職業または進学先が一覧になっている。

 進学先にはちゃんと『東京大学』と書いてあった。

 個人情報がだだ漏れだ。

「最近は個人情報保護が厳しいからこういう名簿はあまり作らないらしいけど、うちの学校の同窓会組織では五年に一度作ってるらしいよ」

 住所と名前だけで、進学先は載っていない人とか、卒業したばかりなのに住所不明になっている人もいる。

 事情を深読みしてはいけないんだろうけど、なんだか複雑な気分になる名簿だ。

 翔弥さんがページをめくりながら言った。

「写真に書いてあった年はおばあさんが一年生の時だよね。だから、卒業した年度はこのページの学年だと思うんだけどね」

 おばあちゃんの名前はすぐに見つかった。

『鶴咲初世(旧姓岡田)』と記載されていた。

 おばあちゃんの旧姓は岡田だったのか。

 初めて知った。

 オカダハツヨ。

 ツルサキハツヨ。

 どちらも同じ私のおばあちゃんなんだ。

「これ、おばあちゃんの名前です」

 翔弥さんがページをのぞき込む。

「ふうん、高校生の時は『岡田初世』さんだったわけか」

 私がおばあちゃんの旧姓を初めて知ったことを話すと絵梨佳ちゃんが驚いていた。

「旧姓って、知らないものなのかな」

 翔弥さんが微笑みを向けた。

「まあ、ふだん意識しないものかもね。ずっと一緒に住んでいたわけだし。うちも仙台のバアちゃんとか、徳島のオジさんとか、地名で呼ぶことが多いな。それぞれなんていう名前だったかってきかれると、ちょっと考えちゃうからね」

「そういうものですかね」

 絵梨佳ちゃんは納得したようにうなずいた。

 翔弥さんは人の名前を覚えるのが苦手だからというのは黙っておいた。

 どちらにしろ、我が家が特殊なのかどうかは分からない。

 でも、そういう話をあまりしなかったのは本当だ。

 そういえば、年に一度会うかどうかの父方のおばあちゃんの旧姓は知っている。

 一緒に暮らしていたおばあちゃんの旧姓を知らないのはやっぱり何か変なんだろうか。

 お母さんには兄弟がいないし、おばあちゃんの親戚の話も聞いたことがない。

 小学生の頃、友達の家にイトコが遊びに来ると言われて、「イトコってなあに」なんて聞いてびっくりされたことがある。

 そんな話をしたら、やっぱり翔弥さんがうなずいていた。

「僕らの祖父母の時代は兄弟の多い時代だったけど、僕らの親くらいになると核家族化ってやつで、結構一人っ子だった人とかも多いでしょ。だから親戚の数って、今は少ないんじゃないかな。僕の家でも、名前は聞いたことあるけど、会ったことのない親戚ばかりだし。父方の従兄弟が一人いるけど結構年が離れてて、僕が幼稚園くらいの時に会ったきりだな。変なプロレス技をかけられて嫌だったことしか覚えていないよ」

 まあ、そういうものだろうか。

 卒業生名簿のページをめくっていた絵梨佳ちゃんが、あっと声を上げた。

「ねえ、ほら、『鶴咲』って人がもう一人いるよ」

 おばあちゃんより四つ上の学年に『鶴咲幸作』という人がいた。

 昭和の時代に亡くなっていることが記載されていた。

「これ、うちのおじいちゃんかも。たしか『こうさく』っていう名前だったような気がする」

 あれ?

 そういえば……。

 そうだ、思い出した。

 幼稚園の頃だ。

 おばあちゃんの膝の上から立ち上がったとき、仏壇の奥に見えた小さな写真を指差して一度だけ聞いてみたことがあったんだ。

『ねえ、おばあちゃん、あの人だあれ?』

『あれはね、美森のおじいちゃんだよ』

『ふうん、どこに住んでいるの?』

『美森が生まれるずっと前に死んじゃったんだよ』

『へえ、そうなんだ』

 ずいぶん前のことですっかり忘れていた。

 今になって思うと、あまりおばあちゃんは教えたくないような話し方だった。

 だから、私もそれ以上聞かなかったし、それからは二度と話題になることもなかったのだ。

 そうだ、あのとき、私はおばあちゃんに聞いてはいけないことがあるんだと子供心に感じたんだ。

 だから、今まで知ろうともしなかったんだ。

 旧姓も、おじいちゃんのことも、昔何があったのかも。

 無意識のうちに心の奥に封印していたんだ。

 心の中の暗い穴に落ちないように、蓋をして鍵をかけていたんだ。

 今、私はその鍵をはずして蓋を取ろうとしている。

 体が震えるのは冷たいアイスを食べたせいではない。

 心の中にぽっかりと穴があいたからだ。

 のぞき込むと吸い込まれそうな暗い穴だ。

 一度入ったら二度と出られない深い穴だ。

 だから道祖神さんは『やめておけ』と言ったんだろうか。

 絵梨佳ちゃんが他のページをめくりながらつぶやいた。

「美森ちゃんのおじいちゃんおばあちゃんはどちらも明倫館高校の卒業生だったってことは分かったね」

 今のところ分かったことはそれだけだ。

 知らなかったことが少し分かったけど、でも、それがどういう意味なのかはまるで分からなかった。

 弁天様の言っていたことは、これだけではないはずだ。

 この先にまだ何かがあるんだろう。

 私が考えこんでいると、絵梨佳ちゃんがおばあちゃんの学年のページに記載された名前を指差した。

「あ、この坂巻秋夫さんって、たぶん私の知ってる人だよ。ボランティアに行ってる老人ホームにいるおじいちゃんだよ。私が明倫館高校の制服着てたら、『ほほう、私の後輩だな』って喜んでたもん。あのおじいちゃん、ハーモニカが上手でね。私、よく一緒に歌を歌ってるんだ」

 思わぬところでつながるものだ。

 絵梨佳ちゃんがおばあちゃんの写真に坂巻さんが写っているか探してくれた。

「うーん、たぶん、これかな……?」

 背筋がピンとしたスポーツマンタイプの青年だ。

「でもね、今は髪の毛が薄いというか、その……つるつるなんだよね」

 ああ、まあ、印象が変わっちゃうよね。

 だから最初に写真を見た時すぐには気がつかなかったんだろう。

「今週の土曜日にボランティアがあるから、何か知らないか聞いてみるね。あ、なんなら美森ちゃんも一緒に来ない。その方が早いよ」

「え、いいの?」

「うん、もちろん。歌ぐらい歌えるでしょ」

「ピアノなら弾けるけど」

「それはいいね。ホールにグランドピアノがあるんだよ」

「でも古い歌だよね」

「楽譜はあるから大丈夫じゃない」

「おばあちゃんと見ていた時代劇のテーマソングなら見なくても弾けるかな」

 絵梨佳ちゃんが手をたたく。

「すごい! 印籠とか持って行けば?」

「あるわけないじゃん。それに、弾きながら持つわけにもいかないし」

「私たち、助さん角さん役をやるよ」

 絵梨佳ちゃんの言葉に翔弥さんが驚く。

「え、『私たち』って、僕も?」

「だって、明倫館高校OBじゃないですか」

 まあそうだけど、とぶつぶつ言いながら頭をかいている。

「でも、なんで私が白いヒゲのお爺さん役なのよ」

 私がちょっと文句を言うと、絵梨佳ちゃんが微笑む。

「サンタクロースみたいなものだと思えば平気だよ」

「全然違うし。同じのって髭だけじゃん。サンタ・コスチュームなら絵梨佳ちゃんの方が似合いそうですよね。ミニスカのやつとか。ねえ、翔弥さん?」

 と、話を振ったら、翔弥さんの顔が真っ赤だった。

 なんで耳まで赤くなってるんですか。

 なんか変な想像してませんか?

 やっぱり男子なんだなあ。

 道祖神さんのことを笑えないな。

 私たちは土曜日にボランティアに行く約束をして解散した。

 ショッピングモールの外は少し暗くなっていた。

「じゃあ、また絵梨佳ちゃんを送っていってくださいね」

 私が翔弥さんにお願いしてあげた。

 そしたら今度は絵梨佳ちゃんの方が顔が弾け飛びそうなくらい真っ赤になっていた。

 まあ、ボランティアに連れていってもらうお礼ってことで、ナイスアシストでしょ。

 私は二人と別れて大通り沿いを歩いて帰った。

 一人になったとたん、ちょっとだけ膝が震えていた。

 今さらながら、おばあちゃんのことを何も知らなかったことに愕然としてしまったのだ。

 でもだからといって、それはおばあちゃんと私との絆が薄かったということではない。

 むしろ逆だろう。

 ずっと一緒だったから、そんなことを気にする必要がなかったのだ。

 おばあちゃんは私のおばあちゃんだったのだ。

 私が生まれる前の長い年月のことなんて知らなくたって、私には関係がなかったのだ。

 おばあちゃんだって、それを言う必要がないと思っていたからこそ、わざわざ言わなかったのだろう。

 そう、私のおばあちゃんは、私とずっと一緒にいてくれたのだ。

 知らなかったことを恥じる必要はない。

 一緒に過ごしたその時間こそがまぎれもない証なのだから。

 弁天様の神社に立ち寄ってみたけど、境内はコーヒーゼリーのように闇がひんやりと固まっていてなんの気配もしない。

 街の蒸し暑い空気から切り離されているみたいだ。

 手を合わせてみたけど、やっぱり弁天おねえさんは現れてはくれなかった。

 自分の力で見つけなさいということなんだろう。

 頑張ります。

 応援よろしくお願いします。

 私は鳥居の前で頭を下げた。

 土曜日のボランティアが楽しみだ。

 顔を上げると、天上にきれいな半月が出ていた。


   ◇


 土曜日の午前中に私たち三人は老人ホームを訪問した。

 ショッピングモールの近くにあって、私も何度も前を通りかかったことがある場所だった。

 外は午前中で早くも三十度に達する温度だったけど、施設の中はエアコンがほどよく効いていて快適だった。

 今日の絵梨佳ちゃんはチノパンにブラウスで、さすがに動きやすい格好だ。

 私もチノパンにロンTの重ね着で、翔弥さんは黒のスキニーデニムで、シンプルな綿シャツに麻のグレージャケットを羽織っている。

 やっぱり、意外とオシャレさんだ。

 絵梨佳ちゃんが職員さんにご挨拶して、私たちを紹介してくれた。

「あら、今日は賑やかね」

「はい。坂巻さんにお尋ねしたいことがあって、友達を連れてきました」

「ホールでハーモニカを吹いてるわよ」

「じゃあ、行ってみます」

 職員さんが名札をくれたので、私と翔弥さんはペンで名前を書いた。

 平仮名で『みもり』と『しょうや』と書いてあると、自分たちじゃないみたいだ。

 廊下を歩いていると共用ホールからハーモニカの音が聞こえてくる。

 小学校の時に習った唱歌だ。

 歌詞は覚えているのに、なんという曲名だったか思い出せない。

 ホールは吹き抜けの明るい空間で、窓際にグランドピアノがあって、そのまわりにテーブルや椅子が並んでいる。

 車いすに座ってひなたぼっこをしているおばあさんや、ずっと頭を横向きにしながらヘルパーさんにぶつぶつ言っているおじいさんとか、いろんな人がいた。

 ハーモニカを吹いていたおじいさんが絵梨佳ちゃんを見かけると、演奏を止めて立ち上がった。

「おう、エリちゃん、いらっしゃい」

「坂巻さんお元気ですか」

「調子いいよ」

 坂巻さんは背すじがのびて、声にも張りがあるおじいさんだった。

 頭のてっぺん以外はとても八十五歳には思えない若さだ。

「今日は友達も連れてきました」

「ほう、それはそれは」

「こちらは谷翔弥さんです。明倫館高校の卒業生なんですよ」

「ほう、そうかい。わしの後輩だな」

「はじめまして」

「こちらは鶴咲美森さん。今日は坂巻さんにお尋ねしたいことがあって来たんですよ」

「鶴咲さん? あ、ん? 私に? なんだい?」

 と、そのときホールに入ってきたおばあさんが絵梨佳ちゃんに声をかけて、話が途切れた。

「いらっしゃい」

「こんにちは、田中さん。今日は顔色いいですね」

「やっと肩も動かせるようになったのよ」

「よかったですね」

 話し声を聞きつけたのか、いつの間にかおじいちゃん達がまわりを囲んでいた。

 みんなエリちゃん、エリちゃんと一生懸命話しかけている。

 孫娘が会いに来たみたいにデレデレしている。

 おじいちゃん達って、いくつになっても男なんだね。

 昨日の翔弥さんといい、なんだか道祖神さんがまともに思えてくる。

 絵梨佳ちゃんが他のおじいちゃん達の相手をしている間に、坂巻さんが人の輪を離れてハーモニカを吹き始めたので、私もピアノで伴奏をしてみた。

 小学校の頃に弾いたことがある唱歌だったから手が覚えていた。

 坂巻さんが目元に笑みを浮かべながらハーモニカを鳴らす。

 トレモロがきいていてとてもうまい演奏だ。

 一曲終わったところで坂巻さんが別のハーモニカを手に取った。

 テーブルの上には何種類かのハーモニカが置いてある。

「いろんな種類があるんですね」

「ああ、音域が違ったり、音色もいろいろだね」

「昔からやってらっしゃるんですか」

「私は小学校の教師をしておりましてね。もともといろんな楽器をやっていたんですけども、ハーモニカを本格的にやりなおしたのは五年くらい前からですな」

「いい音色ですよね」

「いやあ、まだまだ奥の深い楽器ですよ」

 坂巻さんは照れくさそうにつるつるの頭を撫でていた。

「お兄さんは何かやらんのかね」

 声をかけられた翔弥さんは困った顔で頭をかいている。

「僕は音楽はさっぱりなんです」

 あれ、そうなの?

 そこにお盆を持った絵梨佳ちゃんがやってきた。

「お茶どうぞ」

「はい、ごちそうさん」

 ほうじ茶を受け取った坂巻さんが一口飲んでほうっと一息ついた。

 道祖神さんみたいなお茶の飲み方だなと思った。

 窓の外には広い芝生の庭が広がっていて、日差しが明るい。

「翔弥さんはものすごい音痴なんだって」

 絵梨佳ちゃんに教えてあげたら、翔弥さんを見上げながらうなずいていた。

「そうなんだよ。カラオケに行ったことがないんですよね」

 あれ、知ってたの?

 もうすっかり私より詳しいのか。

「こちらのお兄さんはエリちゃんのカレシかい?」

 坂巻さんがズバリ核心を突く。

「え、あの、その……」

 しどろもどろになっている絵梨佳ちゃんを横目に、坂巻さんが翔弥さんに、ちがうのかいと尋ねている。

「あ、いや、それがまだ……」

 二人とも顔を赤くしながら動揺している。

「エリちゃんはわしらのアイドルだからね。変な虫がつかんか心配しておるんですよ」

 坂巻さんが朗らかに笑う。

「年寄りはね、よけいなお節介が何よりの娯楽ですからな」

 言われた二人が顔を見合わせてうなずきあっている。

 うわお、せっかくのエアコンが全然効かなくなっちゃったみたいだわ。

 ほうじ茶を味わったところで、坂巻さんにスマホを見せた。

「この写真、見覚えありますか」

 どれどれと老眼鏡を取り出してスマホの画面をのぞき込む。

 プリントしてくれば良かったと思った。

 拡大したおばあちゃんの写真を見てすぐに名前が出てくる。

「おう、こりゃあ、鶴咲さんじゃないか。あのころは岡田さんだったな。初世さんだ。懐かしいなあ」

「分かりますか」

「ああ、忘れるわけがなかろう。わしらの青春そのものだからなあ。明倫館高校に入学した頃だったかなあ」

 坂巻さんは写真に写っている人たちを指差しながら、次から次へと思い出話を続けた。

「これはね、野球部の仲間で石井ってやつでね。こっちは渡辺っていって双子だったんですよ。それにしてもどこでこんな写真を?」

 絵梨佳ちゃんが答えてくれた。

「鶴咲さんは初世さんのお孫さんなんですよ」

 坂巻さんはとても驚いたように目を見開いて私を見た。

「ああ、そうなのかい。お孫さんかい。それはそれは」

「実は、今年の二月に亡くなりまして」

 ああ、とため息をつきながら坂巻さんがうなずく。

「そうかい。でもまあ、長生きだったなあ。わしらの世代の仲間達もどんどん少なくなっていきますよ。さっきの写真の連中も、ほとんど亡くなりましたからなあ」

 目を細めて窓の外に視線を移しながら坂巻さんが続けた。

「わしらがあなた達くらいの頃はね、生きているだけでも奇跡みたいな時代だったものでなあ。寿命だって五十年いかない時代でしたよ。還暦って知ってるだろう?」

 絵梨佳ちゃんがうなずく。

「六十歳のお祝いですよね。赤いちゃんちゃんこを着るんですよね」

「昔はそれが本当にめでたかったんだからなあ。わしらは自分たちが六十まで生きるなんて夢にも思ってませんでしたよ。それが今じゃあ、定年退職だって還暦どころじゃないですからな。すごい時代ですわい」

 坂巻さんの話は止まらない。

「特に、わしらが生まれたころから日本はずっと戦争をしておりましたからな。いつ死んでもおかしくないような毎日でしたよ。それがこんな歳まで生きてるんですから不思議なものですよ。八十五なんて、自分でも信じられませんわ」

 絵梨佳ちゃんはうなずきながら話を聞いている。

 坂巻さんがおばあちゃんのことを話し始めた。

「初世さんはね、そりゃあきれいな人でなあ。わしらみんなのあこがれの人だったんですよ。エリちゃんみたいにそりゃあかわいかったなあ」

 あの、孫は私なんですけども。

「マッカーサーって聞いたことがあるだろう」

 いきなり歴史の話になった。

「はい。学校で習いました」

 太平洋戦争の後に日本を占領したアメリカ軍の最高司令官だ。

 飛行機の階段を下りてくる写真が教科書に載っていたような気がする。

 パイプとサングラスがトレードマークで映画スターみたいな人だった。

「マッカーサーが命令した戦後の民主化政策ってやつでね。新制高校っていう今みたいな仕組みの高校に変わって共学化されたんだが、わしらの世代がちょうどその時代に当たったわけなんだな。当時はまだ女子学生が少ない時代でね。そんな中でも岡田さんは別格のマドンナでしたよ」

 坂巻さんは知っていることをいろいろ話してくれた。

「岡田さんはね、戦災孤児だったって聞きましたよ」

 東京で働いていた両親が空襲で亡くなって、おばあちゃんは親戚のところに預けられたらしい。

「当時はね、そういった身寄りのない子供も多かったんですよ。私の兄も学徒動員で戦死してますからな。このあたりは農村で食べ物は恵まれていたから、そんなにひもじい思いはしなくて済んだのがまだましだったですかな」

 絵梨佳ちゃんが翔弥さんの卒業生名簿を指差しながら尋ねた。

「この鶴咲幸作さんっていう人が、初世さんの旦那さんなんですか?」

「ああそうですよ。わしらの野球部の先輩でね。戦後復活した県大会で準優勝した時のピッチャーだったんだ。まあ、そのころはまだ学校の数も少なかったんだけどもな。それでも我が明倫館高校の誇りでしたよ。背が高くてね。そりゃあもう男前でしたよ。明倫館のマ元帥と呼ばれておったよ」

 マッカッサー元帥のことらしい。

「マッカーサーといえばね、わしも東京で見たことがあるんだよ」

「え、そうなんですか」

 いろんなところに話が飛んでいく。

「鶴咲先輩は大学で野球を続けていてね。神宮球場に鶴咲先輩の試合を応援に行った時にな、ちょうどマッカーサーが日本のベイスボールの視察に来てるっていうので、試合そっちのけで観客が殺到しててなあ。そりゃあもう、大変な騒ぎでしたよ」

 昔のことを思い出す顔は青年のように輝いている。

 私たちは相づちを打ちながら、おじいさんの話をさえぎらずに聞いていた。

「当時はね、まだテレビがない時代だったからプロ野球よりも大学野球の方が人気があったんだよ。先輩が地元に帰省したときにわしら母校の野球部にも指導に来てくれてたんだが、そりゃあもう女子学生が見学に押し寄せてきたもんだったなあ」

 視線を上に向けながら懐かしそうな顔で話している。

「わしもサードを守っておったんだが、初世さんが見に来とるって張り切って練習したものですわ。もっとも初世さんの視線は常に鶴咲先輩ばかり追いかけておりましたがな」

 自虐的な言葉のわりに顔がゆるんでうれしそうだ。

「鶴咲先輩は大学卒業後に官庁に勤めてな。わしらが卒業して二年くらい後だったかなあ。初世さんと鶴咲先輩が結婚なされたのは」

 坂巻さんがいったん話を止めて一息ついたところで、絵梨佳ちゃんがお茶のお代わりを持ってきてくれた。

 私はおばあちゃんとおじいちゃんのことを尋ねてみた。

「あのう、私のおじいちゃんとおばあちゃんはどんなふうに知り合ったんですか」

 坂巻さんはお茶を一口すすってから、右手の人差し指を立ててゆっくりと振った。

「それがだね、わしらは全然知らなかったんだよ、二人が交際しておるっていうことはね」

「そうなんですか」

「後から聞いた話ではね、わしらの指導に来ておった先輩が初世さんを見初めたということだったんだが、いつどこで知り合ったかということは、どうもわしも知らんのだよ」

 まあ、なんでも知ってるというわけにはいかないのは当然だ。

「ただまあ、とにかく、初世さんは鶴咲先輩と結婚してね。野球部の仲間を引き連れて新居にお祝いに行ったもんですよ。新居といってもあの頃は小さな官舎でね。部屋に入りきらなくて大騒ぎだったもんですわ。玄関口から顔をつっこんで我らが母校の校歌を歌ったりしてね。若かったなあ、あの頃は」

 おばあちゃんの幸せそうな顔が思い浮かんだ。

 ところが、一転して坂巻さんの表情が暗くなった。

「それなのに、結婚して間もなく、鶴咲先輩は出張先で列車の脱線事故に巻きこまれて亡くなられたんですよ」

 そうなのか。

 そんなことがあったのか。

「そうだったんですか。初めて知りました」

 坂巻さんが驚いたような顔で私を見た。

「聞いてはおらんかったか」

「はい、おばあちゃんは昔の話をほとんどしなかったので」

「そうか。それは……つらい出来事だったからだろうなあ。初世さんは身ごもっておったんだが、精神的に辛かったのが悪かったのか流産してしまってね。結局、幸作さんと初世さん夫婦には子供がおらんかったんだよ」

 え?

 私は耳を疑った。

 でも、坂巻さんの声ははっきりとしていて聞き間違えるような言葉ではなかった。

「子供がいなかった?」

「そうですよ。これも聞いておらんかったですかな」

 坂巻さんの話がまったく頭に入ってこない。

 おばあちゃんには子供がいなかった。

 おばあちゃんにはこどもがいなかった。

 オバアチャンニハコドモガイナカッタ。

 同じ言葉が渦を巻きながら頭の中に膨らんでいく。

 じゃあ、うちのお母さんはおばあちゃんの子供じゃないの?

 じゃあ、私はおばあちゃんの孫じゃないの?

 じゃあ、私はいったい誰なの?

 おばあちゃんの孫じゃなかったの?

 めまいがしそうになるのを必死にこらえる。

 額に汗がにじみ出てきた。

 絵梨佳ちゃんが心配そうに私を見ていた。

 無理に笑ってうなずき返す。

 ほうじ茶をすすりながら坂巻さんがつぶやいた。

「鶴咲さんはね、その後、保育園の手伝いなんかをしておりましたかな。それでね、だいぶしてからですけども、鶴咲先輩の親戚から赤ん坊を引き取って、鶴咲さんが養母として育てることになったという話を聞いたことがありますよ」

 それがうちのお母さん?

「そうだったんですか」

 全然知らなかった。

 お母さんもそんな話は一度も聞かせてくれなかったし、おばあちゃんもまったく何も言ってくれなかった。

 坂巻さんはお茶をすすってからふっとため息をついた。 

「わしら夫婦にも子供がおらんでね。妻も小学校の教師をしておったんですが、生徒がわたしらの子供みたいなものだってずっと言っておりましたよ。でもねえ、妻に先立たれて六年、自分だけ長生きしてしまって、今になってみるとやっぱり子供がいたらなあと思うこともありますよ」

 しんみりとした話に区切りをつけるように、おじいさんが絵梨佳ちゃんに笑顔を向けた。

「だからね、エリちゃんが会いに来てくれるとオジサンうれしいんだなあ」

「はいはい、いつでも会いに来ますよ」

 軽くあしらわれても坂巻さんはうれしそうに頭を丸く撫でていた。

 坂巻さんの知っていることはそこまでで、その後のことはほとんど知らないとのことだった。

 それから私たちは坂巻さんのハーモニカに合わせて歌を歌ったり、別のおばあさん達と体を動かすゲームをやったりした。

 その間、翔弥さんはロビーの隅の方でおじいさん達と将棋を指していた。

 けっこういい腕前のようで喜ばれていた。

「お兄さん、強いねえ。こんなに手応えのある相手は久しぶりだな。勝ち逃げしないで、またエリちゃんと一緒に来てくれよ」

 翔弥さんは困ったような顔で頭をかいていた。

 お昼時になったので坂巻さんにお礼を言って私たちは老人ホームを出た。

 ショッピングモールの方に向かって歩きながら私は坂巻さんに聞いたことを何度も繰り返し考えていた。

 二人に何をしゃべっていいのか分からなくて、私はずっと無言だった。

 本当は叫びたいし、口から心臓が飛び出そうなほど動揺していたけど、我慢しなくちゃいけない。

 一人だったら泣いていただろう。

 私はおばあちゃんの何だったんだろう。

 私はずっとおばあちゃんの孫だと思っていた。

 信じて疑ったこともなかった。

 だからおばあちゃんの昔のことなんてほとんど気にならなかったのだ。

 でも全然違っていた。

 何も分かっていなかったんだ。

 なんだか悲しくなってくる。

 膝が震えそうになるのを必死にこらえた。

「大丈夫?」

 表情を読みとられないように平静を装っていたつもりだけど、よほど顔に出てしまっていたらしく、絵梨佳ちゃんが心配してくれる。

「うん、大丈夫よ。ちょっとびっくりしちゃっただけ」

「鶴咲さんはおばあさんと血がつながっていないって言うことが分かったわけだけど、おばあさんはずっと内緒にしていたんだね」

 簡単にまとめてくれた翔弥さんの言葉が重たくのしかかる。

 道祖神さんが言っていた『やめておけ』という言葉が頭の中を駆け巡る。

 見るなと言われていたその暗い穴を、私は自分で鍵を開けてのぞいてしまったのだ。

『算数の問題だ』

 もう一つの道祖神さんの言葉が思い浮かぶ。

 簡単な算数。

 足し算引き算。

 そうかそういうことだったのか。

「うちのお母さん、今四十歳なんだ。おばあちゃんが八十五歳で亡くなったから、単純に四十五歳の時の子供ってことになるよね」

 二人が暗算しながらうなずいた。

「それって当時としては高齢出産で、おそらくありえなかったことなんだろうね」

 翔弥さんの言葉に絵梨佳ちゃんが同意する。

「そうですね。今だって、あんまり遅いと危険だとか、そもそも妊娠しにくいとか言われますもんね。昔だと、もっとそういう傾向があったでしょうね」

「私、今までそんなこと気にしたこともなかった。ちょっと考えればそんな簡単な計算くらい気がつくはずなのにね」

「でもそれはそんなことを疑う余地もないほどおばあさんとの絆が強かったってことだろう。あまりにも当たり前すぎると考えないのが普通だからね」

 翔弥さんが感情を抑えた口調でフォローしてくれた。

 その通りなんだろう。

 私自身にとっても疑う余地のないほどの愛情だったからこそ、こんな簡単な事実を気にしたこともなかったのだ。

 気にしなかったことが、むしろ私とおばあちゃんの絆の強さの証なんだ。

 それでもやっぱりもやもやする。

 ついさっきまで強く結ばれていた絆がばらばらになってしまったような気がして体が震え出す。

 考え事をしながら歩いているうちに、いつのまにか道祖神さんのところまでやってきていたらしい。

 私たちはなんとなく立ち止まった。

 いつもここで出会っているからか、自然と足が止まったのだった。

 今日は道祖神さんの気配がない。

 絵梨佳ちゃんと翔弥さんがいるから出てこられないのだろうか。

 変なヤカラ系お兄さんの姿で出てこられても困るから、まあ、いいか。

 私のためにつきあってくれたんだから三人でお昼でも一緒にするべきなんだろうけど、とてもそんな気分ではなかった。

 申し訳ないけど、今日のところはここで別れようと思った。

「今日はつきあってくれてありがとうね」

「ううん、いつも相談に乗ってくれるのは美森ちゃんの方じゃない」

 ただ話を聞いてるだけなんだけどね。

「私はここで帰るから、あとは二人でデートでもしてよ」

「デ、デートって……」

 二人がそろって顔を赤くする。

 もう、それだけ同じ反応するんだったら、両想いってことでいいじゃないの。

「あとは翔弥さんがちゃんとしてあげてくださいよ」

「ちゃ、ちゃんとって?」

 ああ、もう、そういうところだってば。

 ごめんなさい。

 今日はもう私の方が全然余裕がないからね。

「じゃあね。また連絡するからね」

 少し意地悪な気分になって、私は二人にくるりと背を向けて少しだけ歩き出した。

 突き放して二人っきりにした方が、覚悟もできるんじゃないだろうか。

 でもやっぱり、最後にちゃんと手ぐらい振っておこうかと思って振り向いた時、ひゅうと風が吹いた。

 目にゴミが入ったような気がして一瞬目を閉じた。

 目を開けた時、そこに二人はいなかった。

 あれ?

 何これ?

 ここはどこ?

 風景から色彩が抜けていた。

 古い写真のように白と黒の陰影だけで描かれた世界の中に私は立っていた。

 これはなんだろう?

 夢の世界なのかな。

 道祖神さんの石碑のまわりが見慣れない景色に変わっている。

 用水路の向こうが田んぼや畑なのは変わらないけど、こちら側にも畑や森が広がっている。

 ショッピングモールどころか、家もあんまり建っていない。

 屋敷森に囲まれたわらぶき屋根の農家がまばらにあるだけだ。

 大通りどころか舗装された道路もない。

 変わらないのは道祖神さんの石碑と岩だけだった。

 道祖神さんの岩の上におさげ髪の女子高生が腰掛けている。

 それはモノクロームの写真の中にいた私のおばあちゃん、岡田初世さんだった。


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