1-2

「今日からお前と共に修行する者達だ」

 幼い頃、私は師の元、時代を背負う術士として修行に明け暮れていた。そんな時に私にとって初めて友というべき者達に出逢った。



 午後2時を過ぎ、桜を見に来た観光客も花見に来ていた花見客も少しばかり減った頃、晴美 晴行はまだ夢現に浸っていた。

 彼に声をかけていた少女ももういない。どうやら帰ったようだ。

春行は気持ちよさそうに寝息をたて熟睡している。

心地良い風が抜ける中、春行の鼻の上に何処から来たのか、青い折り紙で作られた鳥が偶然か必然か見事に乗っかった。

だが起きない。

すると今度は紙の鳥が器用に鼻の上で前後に揺れ出し、口先が春行の眉間を突き出した。

さすがに少しだけ目を開いたが邪魔をするなと言わんばかりの張り手で紙の鳥を一発K.Oし再び寝る。

 「....ここに居たか」

声が聞こえる、が気にせず寝る。

「起きろ、馬鹿」

少しばかり声質が強くなる。

「どちらさん?」

どうやら自分に言っていると気づいたのか晴行は眠そうな顔だけ声の方向へ向けた。

と同時に、左頬に何かを顔に押し当てられた。

春行はまだ寝ぼけていたが徐々に目が覚めていく。

「......アツ⁉︎」

左頬から伝わる熱におもわず飛び跳ねる。

「やっと起きたよ、もう」

呆れた声がして、春行は今度こそしっかりと目を覚まし二人の人物を捉える。

「あらら……鳴に耕助じゃん」と手を上げて挨拶をしながら春行は大きく伸びをする。

「……はぁぁぁ」

大きく溜息をつくガッチリとした恵体の青年、雲海耕助と。

「まぁまぁコウちゃん」

とそれを宥める線の細い青年、雨田鳴。

 此処から今回の物語は動き出す。



 三人は河川敷の丸太の椅子に座っていた。晴行を挟むように左に鳴、右に耕助が座っている。

それぞれ手にはたい焼きと飲み物、どうやら先程頬に当てられた物の正体はこれのようだ。

「ハルちゃん」

「んー?」

鳴に対して春行は耳だけを傾けた。

「御師様カンカンだったよ」

苦笑いしながら鳴は数時間前の事を晴行に告げる。

内容は別離の儀についてである。

その事について春行は眉をハの字にして、

「……んぐっ……マジか」

熱々のたい焼きを食べながら返事をする。本人としてはさほど気にしてないようだ。

「……おおマジだ、ボケ」

それに対して返してきたのは耕助だ。

「……耕助もしかして怒ってる?」

晴行はおそるおそる尋ねた。

返ってきたのは、

「別にお前が来ん事に対してはさほど気にしとらん……がまぁ、怒っているとも……主に鳴にだがな」

「ん?」

主に、という事は自分も原因ではあるが鳴も原因であるようだ。

晴行が疑問に思っていると、鳴がその疑問を解いていくれた。少しばかり困った顔をして。

「コウちゃんそんな顔しないでよ、勝負事でしょ?」

「勝負?」

 春行は少し考え、

「.....俺をダシにしたな? で、何を賭けた?」

 自分が賭け事のダシにされたというのに特に気にした様子もなく春行は鳴に聞く。

「それだよ」

 鳴は春行の手にあるたい焼きを指さした。

「なにかと思ったらたい焼きかよ」

 なんともくだらんことに……と、少し呆れた。が耕助は肩を震わせ、

「なんだとはなんだハル!そのたい焼きはなぁ……最近できたばかりのたい焼き専門店のたい焼きなんだよ!一個450円もするのだ!」

と耕助が二人に向け口の中のたい焼きを飛ばす勢いで喋って来た。

「分かった、分かったから」

春行が手で耕助を宥める。

「確かにこのたい焼きは美味い。外はサクサク中はふんわりトロッと、値段に相応しい味だ。でもそんくらいで「三十個だぞ!」……へ?」

「このバカはあろう事か、三十個もたい焼きを頼みやがったんだ!」

 そう言った耕助は持っていたたい焼きを全部口に入れると片手に持っていた飲み物で流し込んだ。

 此処にあるたい焼きは三人が持ってる分と、鳴が紙袋に入れている数個だけだ。とても三十個もない。まさか二人の胃の中でもあるまいし、春行は首を傾げながら鳴を見た。

 「……いやね、最初にコウちゃんがハルちゃんが来るかでたい焼きを賭けてきてね、コウちゃんが買ったら俺ん家の分のたい焼き買えよって言ったから僕も言ったんだ、じゃあ負けたら僕ん家の分買ってねって」

 早口で鳴が弁明する。

「……んで?」

なんとなくそれっぽい答えには行き着いたが、春行は敢えて鳴に先を促した。

「うん、でね」

一拍置き鳴は申し訳なさそうに、

「勘違いしちゃったの」

「勘違いしちゃったと」

春行が鳴の言った言葉を繰り返す。

「……てっきりうちの……雨田家の分を買ってくれるのかと思って……」

「……あー」

 春行は納得した。鳴の家というか雨田家は表向きには京都では有名な建築業を代々生業にした商家である。家にはメイドや執事と言った存在もおり、言い方は悪いが要する金持ちのボンボンだ。春行も何回か行った事があるが、確か二十人程度の従者がいたはずだ。

「あー、………つまりだ」

 春行はことの顛末を理解した。

鳴の家族の分足す、家に居る従者の分足す、三人の分と余り、おおよそ三十個くらい必要だと鳴は思ったわけだ。耕助や春行の分も頼んである所、本人の優しさが見えるが数が数である。

 手元に少しかないのはデリバリーで送ってもらったからだそうだ。

「なあコウ、いいのか?、たい焼き三つも貰っちゃったけどさ」

「かまわん、どうせついでだ」

晴行はたい焼きの入った紙袋を起きた時に渡されていた。二十代に入ったとはいえ、若者には痛い出費だ。数千円程度だと思ってたのが諭吉に手を出すだことになったのだ。痛くないわけがない。不満が垂れつつもしっかり払うところは耕助の良さだ。まぁ自業自得だが。

「……次は絶対勝つ」

「いや、少しは懲りろよ」

ギラギラした耕助の目に春行は少し呆れた。腹は満たされても頭はあまり冷えてないようだ。

小言を聞かれ恥ずかしくなったのか耕助は少し咳払いをして話題を切り替える。

「……随分と話が逸れたがハルよ、お前どうするつもりだ?」

「どうするって?何が?」

何に対する問いかけか分からず春行は聞き返す。

「決まっているだろ」

耕助は顔を空へ向ける。釣られて春行と鳴も空へ顔を向ける。

「お前の、いや、晴美家当主としてのこれからだ」










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

印の遊戯ー晴美の印ー 祭原  @yuin0223

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ