最終話 「約束の場所でもう一度」
カーテンの隙間から差す朝日で目が覚めた涼介はベッドの上で上体を起こし目を擦りながら辺りを見廻した。
何だ、自分の部屋じゃないか・・・「えっ!?」
僕は思い出している・・・自分自身のことを思い出した!
慌てて飛び起きると机の上に置いたカレンダー付きの時計を見る、未来からの誕生日プレゼントだった。
無事に戻れたんだ!・・・僕は生きているんだ!
日付けを見たらタイムスリップした日から2日が過ぎているのを考えるとあの装置で送り込まれるまでにこれだけの時間が掛かってしまったのだろう。
彼は普段着に着替えると階段をリビングへと降りて行く・・・
見慣れた両親の顔がそこにあった!
「おはよう!慌てて降りて来たみたいだったけど・・・?」
母の言葉に「いや、時間を見間違えてしまっただけだよ」
照れ笑いしながら僕は答えたが実際に照れ臭かった。
「大学は向こうの家から通うってお前が言うから藤沢さんには連絡して頼んで置いたぞ」
父はそう言った後、「じゃあ一緒に食べるか?」と新聞を置きながら僕に言った。
「じゃあ僕は大学に顔を出して藤沢さんに挨拶して来るよ!
帰りは遅くなると思うけどいい?」
食事を済ませた僕が父に聞くと
「藤沢さん家の未来ちゃんに会いにいくんだろ!?」
「掃除は済ませて有るそうだから帰って来なくてもいいぞ」
冗談でもなさそうな口調で言うと
「来週には向うに引っ越して帰るんだから早目に行った方が未来ちゃんも喜ぶんじゃないか?・・・誰かに持って行かれない様にさっさと結婚でも申し込んどけよ」
2人が幼い頃から言われ続けている台詞だった。
「行って来ま~す!」僕は玄関を出ると駅に向かった
2駅を乗り過ごせば未来が住む街である、大学に寄り要件を済ませた僕は時間を気にしながら約束の公園に向かっていた・・・きっと未来は待っている!
約束した日は過ぎてしまったが僕が約束を果たす日が来るのをあの時計台を見上げながらずっと待っているんだ。
事故に遭ったバス停を通過し僕は約束の場所に走った!
荒い息を吐きながら公園入口で時計台を見ると1人の少女が空でも見上げているのか?佇んでいるのが見えた。
走る足音に気付いた未来は僕を見て顔をクシャクシャにしながら思いっ切り泣いている・・・近くまで来た僕は両手を広げて彼女に言った!
「僕は佐藤涼介!藤沢未来に約束を果たす為、この場所に帰って来た・・・僕はずっと前から未来が好きだ!」
「そして未来を・・・僕は未来を愛してる!」
彼女は何も言わず僕の胸に飛び込んで来た・・・返事はそれだけで十分だった。
僕は彼女を強く抱き締めた!
幼き頃からいつも隣りにいた大切な人・・・僕は死んだ後に全てを知り彼女への想いが強くなった。
もっと早く告白するべきだった彼女への気持ちをこの場所で今・・・やっと伝えることが出来たのだ。
「私も涼介が大好き!・・・もう私を置いて行かないで!」
「涼介の居ない世界なんていらない!」
「もう私を1人にしないで・・・どこにも行かないで・・・」
彼女は想いの全てを彼にぶつけた。
やがて2人は未来の両親に報告する為に手を繋ぎ帰り道を歩いて行く・・・向かい側の歩道にはやはり手を繋ぎ幸せそうな夫婦が歩いていた。
樹里が2人に気付いて頭を下げ会釈すると涼介と未来も元気な笑顔で道路を隔てた2人に大きく手を振って応えた。
それを見た孝は樹里に不思議そうな顔で尋ねた
「何か見覚えある様な気がするんだけど誰だったっけ?」
その問い掛けに樹里が答えた。
「私達、夫婦にとって命の恩人よ!忘れちゃったの?」
樹里の悪戯っぽい目に孝は苦笑した。
「完」
最後まで読んで頂き、ありがとう御座いました_(._.)_
- 約束の場所でもう一度 - 新豊鐵/貨物船 @shinhoutetu
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