似た者祭り

常陸乃ひかる

似た者祭り

 その町では、ある時期になるとふたつの祭りが開催される。

 かたや、側は、

『最高に楽しいお祭りにしよう!』

 というキャッチフレーズで、町民や、外部から訪れた者たちがワイワイ、ガヤガヤ――実に騒がしい時間を過ごす。

 かたや、側では、

『最高につまらないお祭り』

 という惹句じゃっくで、ネガティブキャンペーンをする。ダークで陰気で、実に有意義な時間が過ぎてゆく。

 なぜかいつも、双方の祭りは同日に開催され、二分された町のの境界線では、温度差のあまり気圧の谷ができそうになる。

 町の特徴として、町民は一度どちらかに帰属すると、にもにも移動できなくなってしまう。『囚われて』しまうのだ。


「祭りは楽しい方が良いに決まっている」

「そうだそうだ。つまらない祭りにどんな価値があるんだ」

「あんなつまらない祭り、経済効果だって見こめないわ」

 サイドは、己が正論をぶちまけて、サイドを批判し、まるで意見を聞こうとはしない。対して側は、いつもだんまりを決めこむ。


 双方のお祭りが何度か開催されてゆくうち、側は、

『こんなに楽しい祭りなんだから、もっと色々な人に参加してもらおう!』

 と、独自にテレビ局を開設し、祭りの騒がしさを発信し、さらなる集客を狙った。その目論見は大成功。テレビを観た他所の人たちがどっと押し寄せ、参加者が前回の二倍になったのだ。

 外部の参加者を見ても面白い人がいっぱいいる――例えば、黒いシルクハットを被った男や、白いマントを羽織った女――それからこっちには、顔のパーツがない人まで居る。目が見えないフリが実にリアルだ。まるで仮装パーティである。

 こうして、異物が混入した側の祭りは、さらにワイワイ、ガヤガヤとしてゆく。本当に騒がしい、最高のお祭りである。


 一方側は、つまらない祭りなんて誰も興味はないだろうと、ブログでこっそりと祭りの内容を紹介していた。そのため、今回も集客数は横ばいだった。

 ひっそりとした、顔見知りのお祭り。屋台が数件あるだけで、神輿みこしやぐらも出ない。それでもいやに心地良い。平和で平凡で、みんながほんのり笑う。

 ――が、側はそれが余計に気に入らないのだ。

「努力が足りないな」

「やる気あるの?」

「もうやめちまえ」

 なんの損害も被っていないのに、側をあらゆる言葉で罵った。

 ふとした拍子に、側の祭りに目をやると、今回も派手にやっている。

 喫煙所よりも多い、迷子の喚き声。優等生に絡む不良。町内の力自慢と、外部の参加者とのケンカ。――おや、迷子の母親が見つかった。けれど母親は怒鳴り散らしているだけ。みんなでお構いなしに捨てるゴミが、とうとう山になった。

『盛り上がっている』方は、火を見るよりも明らかだった。


「アイツらは、最高のお祭りも知らない寂しい奴らだな」

 側は、いきり立ちながら言った。

「あいつらは、目先のことしか考えられない奴らだなあ……」

 側は、ほくそ笑みながら言った。

 町民たちは、どちらかに帰属した結果、心が囚われていた。双方は祭りが開催されるたび、互いを見下し合う。だって双方は、似た者同士だから。

 ――ところが、この不毛な争いに嫌気がさし、双方の祭りの参加者から何名かが脱退した。ようやく、心が囚われていることに気づいた者が現れたのだ。


   ✽ ✽


 次の祭りでは、側の勢力が現れた。

 すると新勢力の側は、まず――側と側の、最高に救えない粗を探し始めた。

『最高のお祭り脳たち』と題して。


                                   了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

似た者祭り 常陸乃ひかる @consan123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ