偽善の勇者

牛☆大権現

第1話

~王国、聖剣の儀にて~


「おお、 聖剣が抜けた!! 」


「新たな、勇者様の誕生じゃ! 」


 手に持った聖剣を掲げると、民衆から歓声が上がる。

 手のひらに伝わる感触が、重量以上に重く感じた。


 ~聖剣の儀より、3年後。旅の道中~


「はあっ! 」


 気合い一閃、魔人まじんを斬りつける。

 ガードした武器ごと、聖剣は魔人の身体を叩き斬った。


「お見事です、勇者様」


 仲間の女僧侶、セーニャが、布を持ってきてくれる。


「ありがとう、セーニャ」


 布を用いて、血に濡れた聖剣と、自身にかかった返り血を拭う。


「この魔人を、土に埋めたいので、力を貸してください」


「勇者様は、お優しいね。敵を弔おうとむらおうだなんて」


 女魔法使い、ソーヴィが笑っていった。


 ……もう、限界だった。

 聖剣を地面に刺して、膝をつく。


「どうしたんですか、勇者様? 」


「違う、違うんだ! 俺は、皆に尊敬されるような、人物じゃない!! 」


 地面を殴り付ける。

 擦り剥いたが、構うものか。


「いやいや、あんたはすげえじゃん。民衆から報酬も貰わず、魔物を退治して村を守ったり」


「それは、国から補助金が出てるから出来てるだけだ! そして、そのお金は元を正せば、民から徴税ちょうぜいされた物じゃないか」


 支えてくれた仲間に、こんな八つ当たり。

最低な行為だ。


「身体を張って、私達を守ってくださっているのは? それは、立派に勇気のある行いだと、私は思います」


「……このご時世、多かれ少なかれ、誰だって命はかけてるだろ。俺だけが、特別な訳じゃない」


 俺は、全ての気力を失い、膝をついた。


「勇者とか言う肩書き。重いし、苦しくなったんだよ。聖剣を、返還したい」


「そうだ、よくお前の本性に気付いた。今の貴様ならば、魔王様も快く受け入れてくれるはずだ」


 この声、まさか……!


「父上! 生きておいでだったのですか? 」


 声のした、空を見上げる。

 そこにいたのは、翼の生え、頭部に角のある魔人。

 変わり果てた、父の姿。


「先代の勇者様! 何故、そのようなお姿に? 」


 セーニャが、父に詰問する。


「知れた事。俺とて、そこの愚息ぐそくと同じく、打算で勇者をしていた」

「合理的に考えれば、魔王に仕えた方が重用される。それだけよ」


 俺は、考える前にその魔人に斬りかかっていた。


「先代が魔に堕ちておちていたとあれば、我が一族の恥。ここで無かった事にしてくれる! 」


「ほう、勇者を辞めるつもりでは無かったか。我が息子よ」


 俺の全力の打ち込みを、魔人は片手で受け止めた。

 その手には、禍々しいまがまがしいオーラを放つ、不気味な黒い剣が握られていた。


「黙れ。俺は、お前の事を父だとは認めん。全ては、お前を斬り捨てた後で考える! 」


「愚か者め、このように直情的では役に立たんな」


 鍔競り合いから、ほんの半歩の踏み込みで、こちらの身体を吹き飛ばした魔人。

 よろめいたこちらの隙をついて、俺の胸に斬撃を叩き込む。


「良い剣筋だが、経験が足らぬ。なまじ良い剣を使っているから、打ち合わずとも勝ててしまうのだろう? 」


 胸からの流血より、魔人の諫言の方が痛く感じた。


 確かに、聖剣の一撃を受け止められた魔人など、今まで一人もいなかった。

 だから、敵に防御された時に、どうすれば良いのか、分からないのだ。


「勇者様! 」


 セーニャが、治癒の法術をかけてくれる。

 致命傷かと思われた傷が、瞬く間に塞がっていく。


「やはり、神の御業みわざがあるか。忌々しいな……最後の誘いだ、魔王軍に降れ」


「何度言われようとも、断る! 」


「そうか。次は手加減せず、殺す」


 そう言うと、翼で加速して、真っ直ぐに突っ込んでくる。


かわすのは、簡単だ。

けれど、後ろにはセーニャとソーヴィがいる。

 かわせば、二人が死ぬ。

 覚悟を決めて、受け止めようとした時だ。


「勇者様は、殺させねぇよ! 」


 ソーヴィが、魔法を行使する。

 魔人の足元に、植物のツルが巻き付く。

 俺に剣が当たらない、ギリギリの間合いで、魔人の突撃は止まった。


 目の前を、剣が空振る音がする。

 がら空きの魔人の心臓に、聖剣で突きを入れる。

 吐血と、驚愕の表情を最後に、魔人は絶命した。


「やったな! やっぱり、勇者はお前しかいねえって!! 」


 ソーヴィが、俺の背中をバシバシと叩く。


「今のは、まぐれの勝利だった。それに、ソーヴィの魔法が無きゃ、殺られてたのは俺だ」

「この言葉だって、お前たちに格好良いと思ってもらいたいから、口に出してるだけかもしれない」


 セーニャが、俺の顔を掴んで、自分に向き合わせる。


「勇者様は、難しく考えすぎなのです」

「神の言葉には、こうあります。"行為の善悪は、他者の喜びのみによって測られる"」


 俺は、無言でセーニャの言葉を聞く。


「例え、あなたが偽善者だとしても、その行為で多くの方が救われているのは、間違いないのです。その事を、否定しないでくださいまし」

「そーだよ。アタシ達二人も、アンタには感謝してんだ。その気持ちまで、否定しないでくれよ」


 俺は、二人の言葉を聞いて、元気づけられた。


「ありがとう、二人とも。もう少し、勇者として頑張ってみるよ」


 せめて、父だった魔人を埋葬しようと、死体の方を見た時に気付いた。

 跡形もなく、消えている事に。


「……幻覚、じゃねえよな」

「高位の魔人は、魂を2つ以上持っていると聞きます。それの力かと」


 俺は、魔人が倒れていた辺りの土を斬り払って、聖剣を鞘に納める。


「魔王を倒す前に、小さな目的が決まったな」

「まず、俺の父を名乗る魔人を滅ぼす。手伝ってくれ。」


「「はい! 」」


 その為に、指摘された弱点をどう克服するか。

 課題は、山積みだ。

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偽善の勇者 牛☆大権現 @gyustar1997

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