#11 真犯人

 翌日、日曜日。

 上等高校イレギュラーズの面々、つまるところ僕と笹原、扇さんと六角さん、金山さんに籠目くんと、それから重要参考人たる七宝さんは上等高校近くの住宅街を歩いていた。

 今度はプリズム園ではなく、パラダイスの針に向かって。

 総員の足取りは、やや重かった。

「で、なんでそのパラダイスの針、とかいう店なんすか?」

 相談役の事情に明るくない籠目くんは七宝さんの手を引きながら、僕に尋ねた。

「別に上等高校でよくないっすか?」

「そういうわけにはいかないんだよ。ほら、あいつは今引きこもってるし」

「そうすね」

 既に犯人を七宝さんから聞いている籠目くんは、それで理解した。

「駄目だよ籠目くん」

 金山さんは少しだけズレた方向で反応する。

「相談役の解決編はパラダイスの針って決まってるんだから」

「………………そうすか」

 籠目くんは足元を確認しながら、適当に相槌を打つ。

「それにしても…………」

 笹原が溜息を吐く。

「今日は昨日にまして寒いですねえ!」

「………………言うなよ、現実を直視してしまうから」

 僕は、雪に埋まった足を引き抜いた。

 天気予報は大当たりと言ったところだった。昨日笹原が言った通り、昨夜から今朝までにかけて雪が降り積もり、一面は銀世界となっている。

 しかし雪ではしゃぐほど僕たちももう子どもではない。冷凍庫みたいな寒さと歩きづらさに辟易とするだけだ。歩道は雪で染まり、踏みしめられた雪が凍りついて足元がおぼつかない。なんたってこんな日に歩かなければならないのか。最寄りの弓矢橋駅から上等高校までの徒歩十分すら倍の時間かかったのに。

 幸いなのはもう雪が止んでいることくらいか。電車はダイヤが大幅に乱れて、上等高校にこの面子が集まるのさえ一苦労だった。

「ところで市松先輩はどうしたんですか?」

 笹原が籠目くんに聞く。

「部活だよ。うちは普通に部活あったんだ。俺は事件の解決優先でこっち担当。市松が部活担当って分かれてな」

 なるほど。『毒入りバレンタイン』事件があろうとも部活は続行なわけだ。日常は日常として粛々と進行しなければならない。それも混乱と不安を収める方法だ。

「渡利先輩もいませんよね」

 六角さんがふと呟いて、着ていたトレンチコートの襟を立てる。

「どうしたんでしょうか? 喜び勇んで解決編に挑むタイプじゃないのは確かですけど」

「それがね」

 金山さんが答える。

「なんか用事があるだって」

「用事?」

「うん。詳しくは知らないんだけど」

 ふむ。解決を望んでいた渡利さんが来ないのは妙だが、まあ仕方がない。

「…………見えてきました」

 扇さんが顔を上げる。パラダイスの針は目前に迫っている。

「紫崎先輩、今日は素直に開けてくれるといいんですけど。連絡は一応しましたし」

「最悪押し入るさ」

「だからなんでそんな急激にマッチョイムズなんですか!」

「たのもー!」

 僕と扇さんのやり取りをすっ飛ばして、金山さんがドアノブをがちゃがちゃと弄る。しかし、当然というか案の定というか、鍵は掛かっている。

「ありゃ?」

「だと思った。よし笹原、蹴破るから手伝え」

「あいさー!」

「ちょっと待ってくださいよ!」

 扉の前でごちゃごちゃやっていると、がちゃりと音がして急に扉が開かれた。まさに蹴破ろうとしていた僕と笹原は扉に激突して後ろに転がった。

「うわああ」

「うぎゃああ」

「何やってんすか弁論部二人とも」

「…………………………」

 籠目くんと七宝さんの目線が痛い。

「………………騒がしいな」

 扉の奥から、紫崎雪垣が顔を出した。今日はジャージでなく、きちんと紺色のコートを着ている。履いているスラックスからして、コートの下は制服かもしれない。

「今開けるところだった」

「先輩…………」

「思ったより早い到着だったな、しゃこ」

 ちらりと、コートの袖を上げて雪垣は左手首に目をやる。そこには扇さんが渡した、あの紫色の腕時計が収まっていた。

 その姿を見て、扇さんは何かを言いたげにじっと雪垣を見ていた。

「いいから早く入れろ。寒くてかなわん」

「……………………いいだろう」

 立ち上がった僕と笹原に一瞥をくれてから、雪垣は僕たちを中に入れた。しかし、期待してはいなかったがやはりパラダイスの針の店舗は暖房が効いておらず、寒いままだった。これでは外と大差ない。冷凍庫並みの寒さから冷蔵庫並みの寒さになった程度だ。

 いつもなら、雪垣のやつは窓際のボックス席に相談者を案内するのだろう。そういう流れがいつもだから、扇さんと金山さんはそちらに僅かに歩いて移動した。しかし雪垣は店の中央で立ち止まり、そこで立ちすくんだ。

「早くしてくれ。別に、大した用事じゃないだろう」

「大した用事じゃないとはご挨拶ですね」

 笹原がヘッドフォンを弄りながら言う。

「せっかく扇先輩が相談役の代わりとしてせっせと働いたのに」

「しゃこが?」

 雪垣が、じっと扇さんを見る。

「そうか。………………そうだったか」

「それじゃあ、解決編に移ろうか」

 僕が話し始める姿勢を見せたので、僅かに雪垣が怪訝な顔をする。

「お前かよ」

「僕だよ。まあいろいろ事情があってね」

 さて。

 解決編である。

「事件はバレンタインの日。扇さんはいろんな人から相談を受け、文化祭の事件――『堕ちる帳』事件以降暗く沈みがちだった上等高校の生徒たちを元気づけるため、バレンタインのチョコづくりを企画する。放課後、予定通りチョコを作った彼女たちだったが、そこで問題が発生した。実は朝の内に準備していた材料のミルクチョコレートが、何者かに苦いダークチョコレートに変えられていた」

 笹原が大仰に頷く。食べた一人だ。さぞかし苦かっただろう。

「まあ、それだけならなんじゃそりゃっていうイタズラで済んだ。問題は、イベントの参加者の一人に長尾さんという、チョコアレルギーの子がいたことだ。彼女の材料は別個に代用チョコを用意していたが、そいつもダークチョコに入れ替わっていた」

「代用チョコ……キャロブか」

 さすがに喫茶店勤務で、調理師を志しただけのことはある。雪垣はきちんと知っていたか。

「そうそれだ。だが、チョコに入れ替えられていたことに気づかず長尾さんは食べてしまい、アレルギーを発症。幸い大事には至らなかったが、病院に搬送される騒ぎになった」

 ここまでが事件の概要。

「事態を受けて扇さんは犯人の捜索に乗り出す。そして聞き込みの結果、三種類の証言が採取できた」

 すなわち。

 小さい女の子を調理実習室付近で目撃したという証言。

 誰も見なかったという証言。

 誰も見なかったという、嘘の証言。

「それが嘘の証言だと、なぜ分かる?」

「カマトトぶるなよ。僕の真偽眼を知らないわけじゃないだろ」

「お前の真偽眼が正しいという保証はどこにある」

「それこそカマトトだ。分かってんだろ」

 僕の瞳術が正確だからこそ。

 お前は今、パラダイスの針に引きこもっている。

「そのうち、小さい女の子を目撃したという証言に関しては裏が取れた。彼らが目撃したのは、バレンタインチョコを渡そうと画策し籠目くんの傍をうろついていた彼の妹、籠目七宝さんだった」

 ちらりと、雪垣は七宝さんを見る。説明せずとも、見たことない女の子が一人いるのだから、彼女だと分かるだろう。

「じゃあ、彼女が犯人だったのか?」

「焦るなよ。彼女は籠目くんの傍をうろついていただけだ。朱雀女学院の生徒である彼女がそもそもバレンタインの日にチョコづくりのイベントが上等高校で催されているなんてことを知っているはずもない」

 だが、彼女の存在は重要だ。

「しかし、彼女は事件の日、何度か調理実習室の付近で目撃されているんだ。つまり彼女は、犯人を目撃している可能性が大いにあった。そして事実、目撃していたんだ」

「ほう、そいつは誰だ?」

 ぞわっと。

 店内の空気が震えた。

「先輩」

 扇さんが横から声を出す。

「そんな、聞いてないですよ? 先輩は犯人が分かったとしか…………」

「言ってないからねえ」

 知っているのは昨日の時点で七宝さんの証言を聞いた、僕と笹原と籠目くんだけだ。

「じゃ、じゃあ誰なの?」

 金山さんも食い入るようにこっちを見る。

「この中に犯人って?」

「そりゃあ、七宝さんに聞くのが早いさ」

 僕は七宝さんを見た。七宝さんもこっちを見る。

「じゃあ、昨日に続いて悪いけど、頼むよ」

 彼女はこくりと頷く。握っていた籠目くんの手を放して、一歩、前に出る。

「七宝さんが見たという、その犯人は………………」

 こいつだ。

 七宝さんはゆっくりと、しかしはっきりと、人差し指でひとりの人間を指し示す。

 そいつは。

 その人物は………………。

「そ、そんな…………」

 扇さんが、絶句する。

 なぜなら。

 犯人は。

「………………俺?」

「お前だ」

 紫崎雪垣なのだから。

「え、ええ? なんで?」

 金山さんも驚いて、雪垣の方を見る。

「いやあ、わたしも驚きましたとも」

 うんうんと笹原が頷く。その余裕ムーブ地味にうざいな。

「でも考えてみたら犯人は紫崎先輩しかいないんですよね、猫目石先輩」

「ああ」

 そこを、説明していく。

「まずお前は、事件前日の時点でイベントがあることを知っていただろう。事件翌日、ここを扇さんと訪れた時、彼女自身が言ったことだ。一度説明したってな」

 だから雪垣はイベントのことは知っていた。イタズラに向けた準備はできた。

「問題は、だ。お前を見たらしい一年生の子たちが、なぜ僕たちにお前の存在を隠したか、ということだが…………」

 そりゃあ、隠すだろう。

 僕と雪垣は、それこそ文化祭の時に殺し合ったのだ。

 今回の事件の犯人が雪垣だと僕が知れば、また同じことが起こるかもしれないと、一年生が思うのはある種の必然で。

 だから隠した。

「お前しかいなかったんだ。別に七宝さんに確認するまでもなく、一年生が口裏を合わせず僕に対して庇う相手は、お前しかいない。だからだいたい、お前だろうなとは思っていた」

「…………お前」

「おっと。七宝さんが嘘の証言をしているんじゃないかって言いたいのか。まさかな。さっきも言ったように彼女は上等高校の人間じゃない。嘘を吐いてお前を犯人にする必要はないからな。彼女の証言は信用できるんだよ」

「先輩、なんで………………」

 扇さんが、喉から絞り出すように声を出す。

「なんで、こんなことを…………」

「しゃこ、お前も俺が犯人だって思うのか……? 俺より、猫目石の言うことを信じるのか?」

「それは……」

「そこを責めるのはお門違いだ。扇さんは僕に協力を要請したんだ。協力を要請しておいて、自分に都合の悪い事実が出てきたら信じないなんてことはできない。彼女の誠実さをここはむしろ褒めるべきだろう?」

 扇さんには、僕を罵る道もあったはずだ。彼女には、僕の出した答えを信じないという道もあった。それでも今、彼女は僕の答えを信じた。

 それがすべてだ。

「まさか高校生探偵のお前が、他人の証言だけで人を犯人扱いするのか?」

「それこそ負け惜しみだな。今回の僕は高校生探偵じゃない。相談役に協力を要請されたしがいない一生徒だ。だから相談役の流儀に乗ったまでだ」

 解決しさえすればよし。

 探偵らしくなくてもいい。

 十戒も二十則も無視。

 それでいいのが、相談役だ。

「俺の、負けか……」

 雪垣は。

 ついに。

 膝を折って屈した。

「でも…………なんでなんすか?」

 籠目くんが疑問を口にする。

「紫崎先輩が、どうして扇の邪魔なんてするんすか? 動機……あのとき話してた、ホワイダニットの話が結局宙ぶらりんじゃないっすか」

 帳の病室で話したホワイダニットのことだな。

「そこだけは分からなかった。分からなくても犯人を見つけるのには問題なかったが……」

「なんでですか、先輩」

 扇さんが、まっすぐに雪垣を見る。

「なんで、こんなこと」

「お前に、相談役を継いでほしくなかったからだ」

「……………………!」

 それが、理由か。

 バレンタインのイベントを中止させるのではなく、最後の最後で失敗させる必要があった、その理由。

「俺は相談役なんて呼ばれて、自分でもその気になって、でも結局何もできなかった。自分の愛する人を、伊利亜さんひとり守れなかった。だから、同じ失敗を、しゃこ、お前にだけはしてほしくなかった…………」

「それで…………」

「お前がバレンタインのイベントを企画したと聞いて、チャンスだと思った。お前がいつか相談役として大きな失敗に直面する前に、最初の一歩で躓いて相談役を止めてくれれば、お前は傷つかずに済むと思った。まさかこんなに大ごとになるとは思ってなかったけどな」

「先輩」

 六角さんが、端的に声を上げる。

「それは、独りよがりです。私たちは、そこまで弱くない」

「六角……」

「瑪瑙ちゃん」

 この場面でも瑪瑙ちゃん呼びに固執するのは止めてほしかった。

「瑪瑙ちゃんの言う通りですよ」

 扇さんは、雪垣の傍に近づいて、ひざまずく。

「私たち、そんなに弱くないです。確かに、一人じゃ弱いかもしれませんけど……。私たちには、仲間がいる。友達がいる。紫崎先輩はひとりで相談役を背負ってきたかもしれませんが、私は同じ事が出来ません。だから、みんなに助けてもらうんです」

 大嫌いな僕であろうと。

 禍根のあるグルメサイエンス部であろうと。

 協力して、相談役を完遂した。

 雪垣のやつは、失敗をさせるつもりが逆に成功体験を与えたのだ。

「だから安心してください。先輩が卒業しても、私が相談役を引き継ぎます。私一人が無理でも、みんなで」

「………………………………しゃこ」

 これで、大団円か。

 …………本当に?

「……うそ」

「七宝?」

 七宝さんが、ぼそりと呟く。彼女が喋ったことに驚いて、みんながそちらを見る。

 彼女は、怒っているのか? その目はまっすぐ、雪垣のやつを見据えている。

「うそ、ついてる。うそ、うそ……!」

「ああ、そうだな」

 やはり、七宝さんも使えたか。

「僕の、いや、には嘘だって見えてんだよ、雪垣。なに呑気にいい話ふうにまとめてやがる」

 彼女と初めて会った時、目線の動きで大方の予想はついていた。彼女の目線の動かし方は、瞳術使いに特有のものだった。

 蛙の子は蛙、か。実の娘でなくとも、彼女は名探偵+αから探偵としての力を継いでいる。

「ね、猫目石先輩…………?」

 扇さんがこちらを見る。

「なに、言ってるんですか?」

「考えてみろ、扇さん。こいつはキャロブの存在を知ってるんだぞ? 長尾さんの材料は別個に分けてあった。それを見て、チョコアレルギーのことに思い至ってもおかしくない。こいつは、長尾さんがアレルギーだろうと踏んだ上で入れ替えたんだ。事件の規模がおおきくなるようにな」

 僕の真偽眼は、ずっと、雪垣が嘘を吐いていると見ていた。扇さんに語った事のどこまでが嘘かは分からない。全部が嘘かもしれないし、本心で嘘を隠していたのかもしれない。だが確実に、アレルギーに気づかなかったのは嘘だ。

「そうまでした目的は何だ? まさかさっき言ったことが全部じゃないだろう? 扇さんに失敗させるだけなら、長尾さんのキャロブをチョコに入れ替えるのはやりすぎだ」

「…………だろうな」

 雪垣は、顔を上げる。

 やつもまた、怒りの表情をこちらに向けていた。

 僕の未来視が、動きを捉える。やつが、何かを右手でポケットから取り出して扇さんにぶつけようとする未来が見えた。

「……! 扇さん!」

 未来視は常に発動しているわけじゃない。オンオフが利く。が、裏返せばオンオフをしなければならないということだ。まさか雪垣が急激に、しかも扇さんに対して強硬策に出るとは思っていなかったから、未来視で動きを探るのが遅れた。

 まずい……!

「……………………!」

 僕がギリギリで動きかねていると、いつの間にか近づいていた七宝さんが、扇さんを跳ね飛ばす。

 雪垣は、左手で扇さんを掴もうとした。だが空振りして、すぐに目標を七宝さんに変える。左手で七宝さんの右手を掴んで、何かをはめた。

 ガチャリと、金属の響く音。

 すぐに手を振りほどいて、七宝さんは雪垣から距離を取る。金山さんが慌てて扇さんの傍に寄った。

 七宝さんの右手首には、デジタルの腕時計のようなものが嵌められている。しかし、どう見たってそれは腕時計じゃない。明らかに怪しい機械が取り付けられていて。

 三分のカウントダウンを刻むそのタイマーは。誰が見たってだ。

「七宝!」

 籠目くんが青ざめる。

「動くな!」

 立ち上がった雪垣が一喝する。

「下手に外すなよ? 爆発するぞ?」

「てめえ……!」

 籠目くんは雪垣を睨みつけるが、雪垣の方は僕を見据えている。

「それはあと三分で爆発する。爆弾って言っても大した爆発力はない。要は破片手榴弾フラググレネードと同じ要領だ。爆発すると腕時計の破片が手首の動脈を傷つけて、多量出血させるって寸法だ」

 そして雪垣は、ポケットから同じものをもうひとつ取り出した。

「その腕時計はこっちと連動している。猫目石。お前がこっちをつければ制限時間が一時間に伸びる」

 腕時計が僕の足元に放り投げられる。

「……まさか一時間に伸びて、それで終わりじゃないだろ? 何企んでる?」

「事件の動機、知りたがってただろ。教えてやる。お前への復讐だ」

 僕は腕時計を拾い上げた。

「長尾、だったか? アレルギー持ちのやつがいたのは取り分けられていた材料を見てすぐに気付いた。だから利用した。事件としての規模が大きくなれば、高校生探偵様のお前はすぐに動くと思ってな。まさかしゃこと一緒に動くとは思わなかったが」

「僕への復讐なら正面から向かって来いよ。面倒な真似しやがる」

「こっちにもがあるんだよ。それにどのみち、未来視持ちのお前に正面からぶつかっても勝ち目はないからな」

「だから人質用意して、自発的にこの爆弾をつけさせようってか」

 それ自体はどうでもいい。

 問題は、こいつ…………。

 扇さんをその人質にするつもりだったぞ!

「早くつけろよ。安心しろ。お前にも勝ち目のあるゲームで決着をつけようって腹だからな」

「ゲーム?」

「そういうなんだよ。いいから早くしろ」

 ちらりと、籠目くんの方を見る。彼は青ざめた顔で、七宝さんの腕に着いた爆弾と僕を交互に見ている。肝心の七宝さんは、何を考えているのか分からない。

 僕は腕時計型の爆弾を、左手首に着けた。

「猫目石先輩!」

 扇さんが、悲痛に叫ぶ。

「扇さん、下がってろ。ここからは相談役きみの番じゃない」

 ここからは、探偵ぼくの番だ。

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