目指せ! 最高のお祭り!

沢田和早

目指せ! 最高のお祭り!

 ここは魔法と冒険の町フェステバ。まつり王国で一番人気のある町だ。

 どうしてこんな小さな町に多くのお祭りたちが集まるのか、その理由は町の外れのダンジョンにある。最下層のラスボスを倒し、見事ダンジョンを攻略したお祭りには、まつり王国で最も名誉ある「最高のお祭り」の称号が与えられるのだ。

 今日もこの称号を獲得するために、ダンジョンの入り口には四人のお祭りたちが集まっている。


「みんな、よく来てくれた。まずは自己紹介だ。一番右の君から始めよう」

「あっ、こんにちは。ボクは雪まつりです。職業は魔法使い。得意技は雪だるま攻撃です」

「ふむ。氷属性の魔法使いか。よろしく頼むぞ。じゃあ次」

「皆さん、初めまして。私はひなまつり。職業は巫女。得意技は三人官女治癒と五人囃子錯乱です」

「治療と精神攻撃か。ケガをした時はよろしく。じゃあ左端の君」

「おっす。おいらは農業まつりだ。職業は剣士、と言っても剣ではなく鎌で戦うだよ。得意技は二鎌旋風斬でごんす」

「これは頼もしいな。バシバシ敵を倒してくれ。最後は俺の自己紹介だな。格闘家の裸まつりだ。脱げば脱ぐほど強くなる。得意技は素っ裸ぬるぬる一本背負い。どんなに巨大な敵だって投げ飛ばしてやるぞ。さてと……」


 裸まつりは周囲を見回した。誰かを探しているようだ。ひなまつりが尋ねる。


「何をしているのですか。自己紹介も終わったことですし、早くダンジョンに入りましょう」

「いや、実はもう一人来るはずなんだ。おかしいな。待ち合せの時間を間違えたのかな」


 四人は待った。しかし誰も来ない。腹が減ったのか農業まつりがおにぎりを食い始めた。他の三人も一個ずつもらって食いながら待った。しかし誰も来ない。食い終わっても来ない。


「きっと時間か日付けを間違えたんだな。仕方ない、四人で行こう。みんな、それでいいかな」

「異議なし!」


 こうして四人はダンジョンに入った。

 第一層から激しい戦いが続いた。四人は力を合わせてダンジョンを攻略していく。


「ぐはは、ここは通さぬ。ひゅるひゅるひゅる、ドドーン!」


 一層のボスは炎使いの花火まつりだ。しかし雪まつりの雪だるま攻撃によってかろうじて退けた。


「みんな、気を抜くなよ」


 リーダの裸まつりを先頭に四人は二層へ下りる。ここでも厳しい戦いが続いた。


「ふはは、おまえたちはここで終わりだ。伸びろ、つるつる」


 二層のボスは蔓使いの植木まつりだ。伸縮自在の無数の蔓がつるつる伸びて四人の手足にからみつく。


「おいらに任せるだす」


 農業まつりの必殺技が炸裂した。高速で旋回する二鎌によって蔓はズタズタに切断され、植木まつりはあっさり降参した。


「よし、この調子だ」


 三層のボスは踊らにゃソンソン盆踊りまつりだ。ボス部屋には浴衣姿の男女が百人ほどひしめき合っている。これが全てボスなのだ。


「そーれ、踊れ踊れ、踊るのじゃあ」


 ボス部屋に鳴り響く笛とお太鼓の調べに乗って、四人の手足が勝手に動き踊り始める。


「まずいぞ。このままではHPがゼロになるまで踊らされる」

「私に任せて。出でよ、五人囃子!」


 ひなまつりが五人囃子を召喚した。奏でる調べが盆踊りの音を打ち消す。同時に踊り狂う百人の男女の意識を混乱させ、互いに互いを争わせ始めたので、あっと言う間に全滅してしまった。


「よし、これで残るはラスボスだ」


 ついに四人は最下層へ到達した。これまで奮闘した三人はかなり疲れている。しかしリーダーの裸まつりは元気はつらつ。クリアの可能性は十分ある。


「ラスボスを倒した時点で生き残っている者全員に『最高のお祭り』の称号は与えられる。みんな、無理は禁物だ。ここは俺に任せてくれ」

「はい」

「行くぞ!」


 リーダーの裸まつりを先頭に四人はボス部屋へ突入した。


「ほほう、よくここまで来られたな。ほめてやるぞ。わしがラスボスのお祭りドラゴンだ」


 四人は言葉を失った。ボス部屋の中央では巨大なドラゴンが玉座に着いて煙草をふかしていた。


「で、でかい……」


 一目で敵わぬ相手だとわかった。だが、ここまで来て諦めることなどできない。


「うおー!」


 雄叫びとともに裸まつりが襲いかかった。前足に組み付くがビクともしない。後足をつかんで力を込めても持ち上げることすらできない。


「う~ん、気持ちがいいのう。ああ、そこそこ。もっと強く揉んでくれ」


 お祭りドラゴンは余裕しゃくしゃくだ。裸まつりはいったん退いた。


「こうなったら取って置きの技を使うしかなさそうだな。ひなまつり、回復魔法の準備を頼む」

「はい。出でよ、三人官女」


 金襴衣装を身に着けた三人官女が現れた。それを確認した裸まつりは防具を全て脱ぎ捨てフルチンになった。


「燃えろ、俺の素っ裸!」


 噴き出す汗が裸まつりの素肌を覆う。裸体をテカテカと光らせながら裸まつりはお祭りドラゴンの尻尾をむんずとつかんだ。


「くらえ、素っ裸ぬるぬる一本背負い!」


 気合いの一撃がお祭りドラゴンを襲った。その巨大な体がほんのちょっぴり持ち上がる。さらに気合いを入れる裸まつり。


「うおー!」

「おや、なかなかやるではないか。でもその程度ではのう。はい、さよなら」

「ぐはっ!」


 しかし所詮は裸まつり。お祭りドラゴンに敵うはずがない。呆気なく尻尾で弾き飛ばされ壁に叩きつけられてしまった。


「三人官女治癒!」


 ひなまつりは直ちに回復魔法を発動させた。しかし傷は深かった。もはや治癒の限界を超えていた。


「すまない。俺はここでリタイアだ。後はおまえたちで頑張ってくれ」


 裸まつりは消えた。HPがゼロになると自動的にダンジョンから排出される決まりである。農業まつりは狂ったように突進した。


「くそ、おいらがやっつけてやる」

「無駄無駄」


 お祭りドラゴンから無数の蔓が伸びてきた。農業まつりは鎌を構える。


「くらえ、二鎌旋風斬!」


 しかし蔓はまったく切れない。さすがラスボスの蔓。その硬さは鋼鉄以上だ。


「うわー」


 蔓に巻き付かれた農業まつりはたちまちHPを奪われ消えた。仕方なく雪まつりが立ち向かう。


「あのお、ボクは氷属性で火が苦手なので火属性以外の攻撃でお願いします」

「そんなお願い聞けるわけなかろうが。それ、ぶふぉー!」


 お祭りドラゴンは火を噴いた。雪だるまを出して防御するもあっさりと溶かされてHPを奪われ雪まつりは消えた。


「五人囃子混乱攻撃!」

「聞く耳持たんわい」


 ひなまつりの精神攻撃もまったく効き目なく簡単にHPを奪われ消えた。


「やれやれ、呆気ないのう。もう少し骨があると思っておったが」


 お祭りドラゴンは誰もいなくなったボス部屋を見回した。そして鼻を鳴らした。


「おい、そこにおるのじゃろう。わかっておるわい。いい加減に姿を現わせ」

「いやあ、これはこれは。やはり気づいておりましたか」


 突然、一人の男が姿を現した。照れくさそうに頭をかいている。


「あの四人はだませてもわしはだませぬ。完全な透明化ではなく単なる目くらましじゃからのう。ひょっとして忍者か」

「これは察しのよいことで。お言葉通り職業は忍者でございます。防御も攻撃もできぬ拙者の得意技は戦いを避けることだけ。こうして気配を消しながら戦いに参加することなく四人の後を付いて参りました」


 なんたること。待っていた五人目は来ていたのだ。四人に気づかれることなく行動を共にしていたのだ。


「なるほどな。戦わずともダンジョンクリアの時点で生き残っていれば『最高のお祭り』の称号は手に入るからな。しかしここにはもうおまえしかおらぬ。どうする、わしと戦うか」

「いえいえ、この状況では諦めるしかありません。誰かが残っているうちに何か手を打つべきでした。今となってはもはや全てが手遅れでございます」

「そうか。ならば帰るがよい。出口を開けてやる」


 お祭りドラゴンがパチンと指を鳴らすと入り口と反対側の壁が開いた。そちらへ向かって歩き出す男。と、お祭りドラゴンが何かを思い出すように言った。


「おう、そうだ。まだおまえの名を聞いていなかった。最後に教えてくれぬか」

「はい。拙者は後の祭りでございます」

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