この小説を読んで、深夜の中「これだ!」と叫びたくなるようなBL小説を見つけたとして、私は内心嬉しくなった。
鬱屈した日々の中で生きていると思っている主人公だが、彼は女装して春を売ることで自分というアイデンティティをごまかしている。いや、否定している。
自分が大嫌いなのだ。女の子になって、性別ごとごまかして別の誰かになろうとしている。
なんというか、オルター・エゴというやつだ。そんな中で同僚は主人公の本名を知らないし、読者である私も知らない。
だが、それでいいような気もする。本名を知ったら本物の誰かとの関係性も、ごまかしの上で成り立っていた関係性も全て別人格から見てしまうからだ。
私は彼が自分を肯定できる日が来ることを願ってやまない。しかし、こういう鬱屈とした日があっても悪くない。
そう思わされたのだった。