言霊ーコトダマー

アリエッティ

声の魂

 言葉は人を傷付ける。

 些細な事や意図した悪口、様々ではあるが其々が痛み苦しんでいる。

 逃げ場を無くし、打ちひしがれたものはやがて体を失い魂をこわされる。


 士界しかい

 言葉によって痛めつけられた人々が実体を持たず訪れる空間の世界。

 周囲には常に不快な重く浅い言葉が黒い墨のような文字で漂っている。


「来てしまったか、君は幾つだ?」

「..14歳。」「多感な時期だな」

 丁度中学生に値する時期の少年の周囲はスポーツや勉学の出来で順列が決定する物理的な攻撃性の要因が多い。

「見ろ、君に当てられた言葉たちだ」

〝グズ〟〝ノロマ〟〝バカ〟

 なんたる短絡的かつ安易で下らない言葉の数々だろうか。

「貴方は?」

「私は君が来るずっと前からここにいる。当時は差別が酷くてね、階級や位も〝えたひにん〟と揶揄されてた。」

 それだけで、なんとなく目の前の男の境遇が理解できた。

「他の人もそう?」

「みんな同じだ。

 言葉に貶され傷つけられた、体型や性質考え方に至るまで。貶される事で、誰かの安定剤に使われた訳だ」

 メンタルや立場を正常に保つ為、実害の無い相手として罵倒する。後にそれに対する謝罪は無く、問いただせば〝覚えてない〟の一点張り。都合の良いものだ。


「心に穴が空いている、しかしそれは埋めようも無い。言葉によって開けられた風穴だ、消えぬ傷だ。」

 慰めは意味をなさない、優しい言葉をかけるものも人を貶す事を知っている

「..絶対塞がらない?」

「あぁ、多分な。」

 酷く悲しげな感覚がまとわりついたがとある事を思い出した。

 まだ小さい頃泣いていた少年に向かって母親が言った事。

「傷付いたなら、歌をうたいなさい。

 それがダメなら音楽を流して。」


「音楽祭を開こう」「なに?」

 根拠は無かった、しかし母親の言う事が間違いだとも思えなかった。

「祭りだよ祭り、楽器は持ってる?」

「ここは言葉の世界。

 連想させれば何でも手に入る」

 悪しき言葉は和みの音色へ。

 ここでの祭りは祭典という意味と共に

 祀りあげる儀式を意味する。

「みんな、構えて」

 楽器なんか弾いた事も無かった。

 ましてやギターなんて、弾いていたらバカにされる。彼にとってはギターなど、大盤振る舞いの刀に見える。


「いい?

 何を考えてもいいから、良い事も悪い事も、皆んな音色に変わるから。」

 演奏というよりは、言葉の変換に近い

 盆踊りのように輪を囲み、言葉が舞い散り踊り廻る。

「負の言霊を音色へ」

 黒く霞んだ罵詈雑言の数々に音符が足され、色変えていく。

「..不思議だ、楽器なんて演奏した事無いのに次々と音が湧いてくる」

「..祭りというのは、予期せぬ動力が発揮されるものです。汚い言葉は皆、今は味方ですよ」

「ああ。」

 言葉は使い様、良くも悪くも自分のさじ加減であり赦すのもまた自分自身

「安らぐよ、心が。」

 空間にヒビが入る

その隙間から光が溢れ、皆を包んだ。

「言葉が、僕らを救ってる」

 ➖➖➖➖➖

 気が付けばベッドの上にいた。

あれは夢だったのか。空間は、言葉は

「後の祀りか..。」

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