お誕生日会だよ、全員集合??
千夜碌
お誕生日会だよ、全員集合??
今日はわたしの誕生日会だ。
なのに誰も集まらない。なんで。どうして。
テーブルの上のケーキが、ぼやけて見える。
わたしは自分の誕生日会なのにもかかわらず、一か月以上も前から綿密な、Myお誕生日会計画を練っていた。
呼びたい相手が相手なのだ。用意は周到にいかねばならない。
ケーキは注文した。特注だ。わたしだけじゃなく、みんなでおいしくいただけなくては、意味がない。
それから花。これは危険だ。花に気をとられて、主役のはずのわたしがかすんでしまう。いや、そもそも、わたしが主役になれるのか。
ええとそれから、飲み物か。これは簡単だな。みんなの好みは把握している。うむ、これだけは自信がある。
テーブルセッティングは…。日頃のみんなの行動を思い浮かべてみる。テーブルにはビニールクロスは必須だな。それ以外はいらないか。
はっ!ウエットテッシュは絶対だ。それもノンアルコール。これを忘れると、大惨事になること必然。
部屋の飾りつけは、うーん。見ないな。興味ないだろう。
あ、あとケーキ以外になにか食べるものがほしいなあ。でもなあ。うーん。まあいいや。これは誕生日が近くなったら、また考えよう。
「用意は周到に、綿密な計画を立ててみた」
わたしは、紙に書きだしたMyお誕生日計画を母に見せた。
「綿密ってあんた、なにか食べるものって書いてるけど、これは綿密って言わないんじゃ」
「まかせた」
「誰に」
「母に」
「どこの」
「目の前の」
「………」
とりあえず、あとは呼びたい相手に声をかけまくるのみだ!
なのに誰も集まらない。なんなんだ。今日は集合をかけたはずだ。一か月も前から、声をかけ続けた。それも毎日。
「あと一か月後だからね。返事は?」
「……」
お昼ご飯を食べている所に行ってみては
「ちょっと、あと18日後だからね。聞こえてる?」
「……」
パソコンのキーボードをはらいながら
「ねえねえ、あと一週間だよ、ケーキも頼んであるよ、一緒に食べようね。楽しみだね」
なんて一生懸命、言い続けたのに。
ひどい、ひどいよ。
なんなの。どうして。
こんなに頑張ってきたのに。
なにが駄目だったの。どこがいけなかったの。
わたしは部屋を飛び出した。
向かうは居間だ。みんなそこにいるはず。
いた!やはり。
「ちょっと!今日はお誕生日会やるって言ったよね!」
「……」
わたしの声にびっくりしてこちらを見るものはいるが、ほとんどは無視である。
「ひどいよ!あんなに準備して待ってたのに!」
「だってあんた、部屋のエアコン、切ってるでしょ」
風呂上がりの母が、居間にやって来た。
「そりゃ、エアコンがきいてない、ひえっひえの部屋なんかよりも、こたつのほうがいいよねー」
そう言って母が、こたつ布団の上に寝ている子たちを見る。
「るるる、にゃあ、るるるー」
母の視線に気づいた子が、律儀にも返事をした。愛いヤツめ。
「ううう、だってエアコンつけたら、ケーキ溶けちゃうじゃん」
「この子たちにとっちゃ、ケーキなんかより寒さでしょ」
そりゃそうだ。
ケーキ持っておいでよ、ここで食べたら。母に言われて、こたつの上にケーキを置く。小さく切り分けて、丸まって寝ている猫の鼻づらに置いてみる。
起きだして食べ始める猫、ケーキを匂ってばかりいる猫、皿の周りを前足で掻いている猫、そのまま眠り続ける猫。猫が12匹もいれば、反応は様々だ。
「おいしいのかな」
「人間も食べられるの?」
「食べられるものを頼んだ」
じゃあ、と母が、猫に切り分けた残りを私に切り分けてくれる。いつもはいい歳なんだから自分でやりなさい、なのに、今日はお誕生日サービスだろう。
いただきます、と二人で手を合わせる。うん、おいしそうだ。一口食べてみる。
「……」
「……」
「来年はもっといいとこで頼んだら?」
「そうする」
残りはラップに包まれて、冷蔵庫へ。きっと、仕事から帰って来た父と兄に、勝手に食べられてしまうだろう。
「あーあ、猫達とケーキ囲んで最高なお祭り騒ぎを…」
「ちょっと、こたつで寝ないでよ。自分の部屋で寝てちょうだいよ」
んもう、いい歳してお誕生日会なんてなに言ってんだか。母はぶつぶつ何か言いながら台所へ行ってしまった。
いいんだ。来年はもっと用意は周到にするんだ。そうして必ず、お誕生日会にみんなを集合させて、今度こそお祭り騒ぎをするんだ。
こたつに入って横になったままそう考えていたら、猫が脇からするりと顔を出して、わたしの肩に頭を乗せる。
うん。まあ、いっか。こうやって、お前たちと過ごせるだけで十分満足だよ、いいお誕生会になったよ。明日からも、またよろしくね。ぐー。
ちょっと!こたつで寝ちゃだめってあれほど言ったのに!母の声が遠くで聞こえた気がした。
お誕生日会だよ、全員集合?? 千夜碌 @cao
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