【KAC20202】成層圏ワッショイ

@dekai3

跳べ!青年団!!

『スリー、トゥー、ワン、ファイア』


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!


 小さな町に広がる田んぼの真ん中に、ポツンと設置されたロケットの打ち上げ台。

 その打ち上げ台から、周囲の田んぼを焦がす様に噴射炎を撒き散らしつつ、一台のロケットが空目掛けて飛び上がる。


『打ち上げ成功! いいか、もうここまで来たら後戻りは出来ない。何としても成功させるんだぞ!!』

「任せろ、この日をどれだけ待ち望んだことか。絶対に成功させる!!」


 打ち上げ台から離れた丘にあるプレハブの管制室から入った通信に、コックピット内の青年が答える。

 彼は高伊床たかいとこ鋤蔵すきぞう

 この村の青年団の団長であり、この計画の発案者でもある挑戦者チャレンジャーだ。


『そうだな。お前なら…いや、お前達なら出来る。頼んだぞ』

「へへっ、任せるでやんす」

「後が無くなってからが本番だ」

「ミー達ニ任セルネー」

「その通りですぞwww戦艦金剛ちゃんに乗ったつもりで安心して待っていてくだされwwwww」


 鋤蔵すきぞうの次に管制室に答えたのは青年団のメンバー達。

 副団長の尾松おまつ利澤紀りさわぎ

 会計の場久智ばくち羽地うち

 書記のフェスティバ・ハイランダー。

 オタクの利啓りけい女粕木めかすき

 鋤蔵すきぞうを含めた彼ら五人はある計画の為、数か月をかけてこのロケットを作り出した。

 そして、彼らは今日の為に様々な過酷な訓練に耐えてきた。

 今日はその成果を果たす日だ。

 絶対に失敗は許されない。


 事の発端は昨年の秋祭りの日。

 毎年の様に跳び神輿(※お神輿の上に人を乗せ、そのまま高い所から飛び降りて綺麗に着地する事で豊穣祈願を祈るこの辺りの風習)をしていると、隣村の連中が掟破りの当日闘乱神輿(※跳び神輿の高さを競う決闘。普通は事前に決闘状を相手に送る)を仕掛けて来たばかりか、なんと跳び神輿の為に田んぼの真ん中にエレベーター式駐車場を建設し、そこからバンジーロープを付けてのバンジージャンプ神輿を行ったのだ。

 当然、その行為には物言いが付いたのだが、そもそも跳び神輿自体に明確なルールは存在せず、どんな手段を用いても良いので『より高所から跳んで綺麗に着地した方の勝ち』という基準しか無かったのだ。

 現に江戸時代には崖から飛び降りていたり、梯子や櫓に登ってから体に紐を括り付けて飛び降りていたいう記録が残っており、エレベーター式駐車場とバンジーロープを使用した事を反則と決めつける事は出来なかった。


 翌日から神輿を担いでいた青年団達は『敗者』のレッテルを張られ、村中から白い目で見られ、町まで買い物に行ったら笑い者にされ、子供達は学校で虐められ、それはもう村社会で暮らすにはとても苦しく辛い思いをしてきたのだ。


 だからこそ、今年はなんとしても跳び神輿で隣村に勝たなくてはならない。


 青年団団長の鋤蔵すきぞうはこの雪辱を果たす為に何度も利澤紀りさわぎ羽地うちと青年団の会合を重ね、今年度にスコットランドから農業の研修の為にやってきた元宇宙飛行士のフェスティバを青年団に迎え、今まで引き籠りだとして相手にしてこなかった自称発明家の女粕木めかすきに恥を忍んでロケット製作を頼み、ようやく今年の秋祭りの日にリベンジを果たす為の作戦を間に合わせたのだ。


シュゥゥゥゥゥゥゥ バシュゥゥゥゥゥゥ


『今、対流圏を抜けて成層圏に入った。そろそろパージを行う。準備はいいな?』

「ああ、やってくれ」

『OK、いくぞ。コックピット外壁、パージ!!!』


バシュン バシュン バシュン ボボボボボボボボボボボボ


「ぐっ、きついでやんす…」

「ククク、死と隣り合わせでこそ生を感じる…」

「ヤッパリクレイジーデスネー」

「フォフォwww地球タソは青いですなぁwwwww」


 強烈なGの他に猛烈な風を受け、狼狽える青年団達。

 当たり前だ。

 いくら専用のスーツを身にまとっているとはいえ、こんな行為は自殺行為だ。

 かの有名なNAの付く宇宙研究施設でさえ行わないだろう。


『続けていくぞ。神輿格納庫パージ!」


ガゴォン ボシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ


 管制室の声と共にロケットの先端のコンテナが開き、中身が射出される。

 コンテナに入っていたのは村に代々伝わる神輿。跳び神輿用のシンプルだが頑丈な作りの神輿だ。

 そして、その神輿の上に一足先にロケットから飛び立った鋤蔵すきぞうが飛び乗る。

 他の四人は下降しながら、それぞれの担当の担ぎ棒の位置に着く。


「さあお前ら、俺達の跳び神輿の始まりだ!!!」

『『応っ!!!』』


 家族の為、村の為、プライドの為、輿など、誰が考えるのか。

 命知らずにも程がある。まともな考えではない。


 しかし、人には他の何を置いてでもやらねばならない事がある。

 彼らにとっては、それがこれだっただけの事なのだ。


「いくぞぉ! ワッショイ!!」

『『ワッショイ!!』』


 鋤蔵すきぞうの掛け声に合わせて、青年団が叫ぶ。


「ワッショイ!!」

『『ワッショイ!!』』


 成層圏から見える地球はまるで大きなミニチュアの地図の様であり、自分達の村はおろか町や市や県の境目等見えやしない。


「ワッショイ!!」

『『ワッショイ!!』』


 落下速度は音速を越え、断熱圧縮により熱を発しながら、神輿は地上へ向けて落下する。



「ワッショイ!!」

『『ワッショイ!!』』


 この行為は雲の上の神がおわす場所で神事を行うという最高級の信仰として世界中で流行る事になり、祈りを捧げながらや、パスタ用の湯切りザルを被りながらや、座禅して念仏を唱えながらスカイダイビングをする者が現れる様になる。


「ワッショイ!!」

『『ワッショイ!!』』


 だが、彼らにとってはそんな事は関係ない。

 『隣村が真似できない高さで祭りを行って、見返してやる』と単純に考え、それを実行しただけなのだ。


「ワッショイ!!」

『『ワッショイ!!』』


 そう、これこそが最高の祭り。


「ワッショイ!!」

『『ワッショイ!!』』


 後に『成層圏ワッショイ』と呼ばれる、最高のお祭りだ。


『『『ワッショイ!!』』』






 その後、パラシュートを使って綺麗に着地した彼らを見て、隣村の連中は金輪際闘乱神輿を仕掛ける事を止めたそうだ。

 めでたしめでたし。

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