最終章

62.学園



「そこになおりなさい」


「ハイ」


上から目線で言われて、俺は素直に従った。

今俺は正座しているから、物理的にも上から目線だ。そして、俺を腕を組んで見下ろすお嬢は、明らかに怒っている。

元々つり目がちで美人だから、睨まれると迫力がある。仁王立ち状態と怒りのオーラが相まって、かなりの圧だ。この姿だけ見ると、ライバル令嬢っぽい。

お嬢こと、公爵令嬢リュディア・フォン・エルンストは、君星という乙女ゲームのライバル令嬢らしい。君星は略称だが、正式名称は長くてロクに覚えていない。実際、攻略対象の第一王子と婚約はしている。そして、組んだ腕のうえには豊かな胸が載るようになって、いささか苦しそうだ。だから、容姿もゲーム通りの姿といえなくもない。

前世の妹の攻略をミニゲームという一部だけ手伝ったにしては、よく覚えている方だ。まぁ、妹の推しキャラのライバル令嬢だからどうしたって視界に入ったんだろう。周回プレイしていたからな。据え置きゲームはディスプレイも筐体きょうたいも共有だったから、お互いのプレイが終わるまでは待つしかなかった。

見下ろされているままの沈黙に耐えられず、どちらが先にプレイするかと妹とよく喧嘩したなぁ、と前世の記憶を掘り返してしまった。


「どういうことですの?」


「いや、俺に言われても……」


経緯を説明するよう要求されても、俺もよく解らない。

俺たちがいるのは魔導王立学園の校舎裏。人気ひとけがない場所につれてこられたが、俺はシメられる訳じゃない。今、正にお嬢に説教をされている。


「入学早々、何をしていますの!?」


「いや、だって」


「お黙りなさい!」


言い訳は許さないと叱られ、俺はまた黙る。俺の本意ではないが、お嬢の耳に届くほどの騒ぎになってしまったようだ。

お嬢は頭痛を感じたかのように額に手を当て、溜め息を吐いた。


「……本当に、目立っている自覚をしなさい」


「お嬢みたいな美人やレオみたいな眩しいヤツがいるのに、背が高いぐらいの俺なんて」


「外見の問題ではありませんわ!」


明らかにビジュアルでかすむ、と主張しようとしたら、お嬢にそうじゃないと指摘される。


「二回も魔力測定受け忘れた者なんて、悪目立ちしかしないでしょうっ」


そう、俺は浪人した。入学する年齢的に学園は高校みたいなものだから、高校浪人と考えると少しばかり切ないものがある。

お嬢の言う通り、俺は魔力測定を受け忘れたことになっている。それが乙女ゲーのモブですらない俺が悪目立ちする理由だ。


「まったくザクは……」


俺はお嬢の説教を聞きながら、四年前に公爵様と交わした約束を思い出していた。



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