23.青空




ドアをノックする音がした。


「入れ」


書類に眼を通しながら、ロイが入室を許可する。それに合わせて、従者がロイの執務室のドアを開けた。


「もうロイ兄様、こんないい天気にまた書類と睨めっこして……」


「フィリーネ」


耳障りのよい声に、ロイはやっと顔をあげ微笑む。視線の先にはロイと同じ癖のない煌々きらきらしい金糸の髪を持つ少女が、腰に手を当てて剥れていた。腰を過ぎるほどに長い髪は毛先を弛く巻いている。


「今日は早起きなんだな」


「いつの話ですかっ。私、ちゃんと起きれます」


笑顔で言われた指摘に、フィリーネは先程とは別の意味で剥れる。


「一人で?」


「…………侍女に起こしては、もらっていますが」


兄の追加の質問に、フィリーネはうぐっと言葉に詰まり、渋々白状した。素直な妹に、ロイはくすくすと喉を鳴らす。まだ五歳なのだからよく寝るのは悪くはない。だが、兄のロイが朝きちんと自分で起きるので、フィリーネも同じ時間に起こしてもらっているらしい。

アーベントロート国の第一王子、ロイ・レオナルト・フォン・ローゼンハインの妹であるフィリーネは同腹のため顔立ちもよく似ている。二人で並んでいると天使の絵画のようだと称賛されることも間々だ。二人が天使とよく称されるのは、外見だけでなく二人の有する属性にもる。


「ロイ兄様、笑いすぎです」


「我が妹は拗ねていても愛らしいな」


そんな世辞には誤魔化されないと、フィリーネはぷくりと頬を膨らませた。


「済まない。それで、どうしたんだ」


一応の謝罪を得たフィリーネは、殊更ことさら表情を輝かせて話す。


薔薇ばら園の薔薇が咲き始めたので、一緒に見に行きましょう」


「ああ」


兄の答えに喜んだフィリーネは、早く行こうと兄の手を取る。が、引こうとして一度止まった。ロイが首を傾げると、フィリーネは躊躇ためらった後おずおずと切り出した。


「あの……、クラウス兄様も誘っていいですか?」


妹の提案に蜂蜜色の瞳を僅かに見開いた後、ロイは苦笑した。


「僕は構わないが、僕を見て逃げ出さないか?」


フィリーネは少し考える素振りを見せた。兄同士を会わせたらどうなるか、と想像してみているのだろう。すると、弱ったように眉が下がった。


「……クラウス兄様とは今度にします」


行くこと自体は諦めていないようだ。妹の残念そうな様子に、ロイは申し訳なくなる。

妹からすればどちらも慕う兄だが、母親が異なるため勝手が違う。男子であり王位継承権を持つため既に城内の勢力抗争に巻き込まれて、ロイを目の敵にしている。彼の母親が嫉妬深いのも少なくない要因だろう。

どこまで妹が理解できているかは定かでがないが、兄同士が不和であることを気にしているようだ。それでも、気持ちの切り替えが早く、フィリーネはすぐに笑顔になって薔薇園へと急かす。謀略が巡る城内で、この無邪気な笑顔がロイの癒しだった。

薔薇園の中の東屋でお茶をしながら、嬉しそうな妹を眺める。


「フィルは、薔薇が好きなんだな」


「いえ?」


あまりにも嬉しそうだから好きなのかと思ったら、否と返されてロイは眼を丸くする。なら、何故薔薇の開花に敏感だったのか。


「薔薇が兄様たちに似合うから、兄様たちと一緒に見るのが好きなんです」


あっさりとした様子で言い切る妹をロイは不思議に思う。自身も十二分に華やかな花が似合う容姿をしているというのに、自分は二の次なのか。


「ロイ兄様は白、クラウス兄様は赤が髪の色に映えて綺麗で……」


「フィルは?」


「はい?」


「フィルの方がどんな花も似合うだろう」


兄のにこやかな賛辞に、フィリーネは微妙な表情を浮かべる。


「ロイ兄様、それはナルシストと誤解されません?」


「何故?」


妹を褒めて何故自分がナルシストになるのか。逆に褒められて喜ぶ様子がないことが不思議だ。

兄の解っていない様子に、フィリーネは嘆息して話す。


「私、自分の顔が好きです。瞳の色を除けばロイ兄様と同じ顔ですから。容姿を褒められたら、ロイ兄様が褒められているようでとても誇らしいです」


ロイは少し驚く。慕われているとは感じていたが、自身の容姿を兄のものと誤解するほどとは思っていなかった。素直に喜んでいるとばかり思っていたが、これまで受けた賛美の数々が彼女の中で曲がって受け入れられていたことを、今知った。


「確かに造作は似ているだろうが、フィルは僕にできない表情ばかりするだろう」


違う人間だ、と理解してほしいロイの言葉にフィリーネは首を傾げる。


「例えば?」


「拗ねたときに上手に膨らませる頬とか」


「膨らませてませんっ」


言ったそばからぷくりと丸く頬を膨らませて、フィリーネは反論した。それだ、と可笑しそうに笑うロイにその頬をつつかれて、フィリーネは両頬を手で押さえる。手で覆っていても頬が赤いことが窺えた。


「そういうところを愛らしいと感じるのは、自己愛か?」


「…………ロイ兄様はそんな変な表情カオしません」


むぅと唸りながらも、兄ではなく自身を指す言葉だと認めた妹に、ロイは満足げに微笑む。


「上げているのか下げているのか判らない褒め方をしないでください」


「素直に褒め言葉を受け取らないフィルが悪い」


兄の指摘通りなので、フィリーネは難しい表情になって黙り込んだ。やはり兄には敵わない。怒られたり喧嘩などをしたことはないが、言い負けることは侭ある。その度に二歳差だけでは済まない差を感じる。


「称賛に言い返してくるのは、リュディア嬢とフィルぐらいだ」


責めるように、というより心底可笑しげに別の女性の名前と自分の愛称を並べる兄に、フィリーネはぴくりと反応した。


「……リュディア様、とはロイ兄様の婚約者候補の方ですよね」


「フィルが関心を持つとは珍しいな」


政治が絡む話題はあまり好まないフィリーネが、政略結婚の候補を気にするとは。


「珍しいのはロイ兄様です。他の婚約者候補の方は話題にも出さないじゃないですか」


そうだろうか、とロイは首を傾げる。醜聞になるような話題を、妹には避けていたら自然とそうなっただけだ。


「私、リュディア様がどんな方なのか気になります」


にっこりと微笑むフィリーネ。そのあおい瞳にどのような思惑があるのか、ロイには解らない。ただの純粋な興味なのか。だが、会いたいと言い出さない辺りは立場を弁えている。未だ城の中しか知らない妹とリュディアを会わせるとなれば、城へ招待するしかない。理由を知らない者に変な勘繰りを与える要因となってしまう。

ロイはふむ、と一考して、それからどう話すか考える。そういえば、友人のことを家族に話すのは初めてだ。その事実に気付くと面映い心地になった。

兄が話すのを待つフィリーネを見て、ロイは微笑み、友人について話すのだった。薔薇園での休息はそうして過ぎた。

午後は、ちょうど話題にのぼったリュディア嬢へ会いに行く予定だった。エルンスト邸に訪れると、リュディアが出迎え、今日は庭のどこに行くかという話になった。妹と城の薔薇園に行ったことを受け、リュディアは別の場所へと案内した。


「では、青空の庭に行きましょう」


「青空?」


恐らくだが、本当は薔薇園へ案内する予定だったことだろう。時期の花だ。なのに、それを噯気おくびにも出さずすぐに別の案を提示できるとは。リュディアの対応に、ロイは感心する。

しかし、空を指す庭とはどういったものか。ロイは想像が及ばずとても気になった。


「あれ? お嬢、なんでコッチいんの?」


言外に薔薇園に行くのでは、とちょうど進行方向からやって来た庭師見習いの少年が小さく驚いた。隣の彼の父親が会釈をし、その大きな手で彼自身も頭を下げさせられた。

仕方なさそうに小さく笑ったリュディアは、問題ない旨を専属庭師に目線で伝え、庭師見習いの少年を彼の手から解放した。


「王城の薔薇園のあとで、また薔薇はないでしょう」


「あー、なんか凄そうだよな。城のって」


リュディアの言葉に、庭師見習いの少年は納得した。


「青空のトコ、手入れ終わったぞ」


「ちょうどよかったですわ。ロイ様をお連れしようとしていたんですの」


庭師見習いの少年の報告に、リュディアは喜ぶ。それを見て、彼も表情を和らげた。


「よかったな。遊歩道だからって候補から外して残念そうだったもんな」


「今それを言わなくてもいいでしょう!」


毎度、ロイに庭のどこを見せるか悩んでいることを、本人の前で露呈されリュディアは頬を上気させた。だが、ロイは知れてむしろ嬉しいと思う。本音を明かしていることもあって、他の婚約者候補の令嬢のような媚びではなく、純粋にロイを喜ばせようという心遣いが嬉しい。


「見せられないのを惜しむほどとは、余計楽しみになったよ」


「本当に素敵ですのっ」


「親父の造る庭はすげーぞ!」


ほぼ同時に瞳を輝かせて返された。それを受けて、ロイは小さく眼を見開き、庭を造った当人は明後日の方向を向いた。

そして、可笑しくなってくすくすとロイは喉を鳴らす。庭に関して意気投合した二人は、何か変なことでも言ったかと互いを見合わせた。


「後で敷くもの持って行こうか?」


「ええ、お願いしますわ」


座る場所のない辺りのようで、庭師見習いの少年の提案にリュディアは頷いて別れた。専属庭師と庭師見習いの少年が詰まった麻袋を背負って去ったところからすると、雑草抜きでもしていたのだろう。

敷物を敷くにしても一国の王子を道に座らせる件については、その王子本人が身分を隠して下町に視察に行くような人物だと二人は知っているため、気遣うだけ無駄だ。

リュディアの案内でしばらく歩くと、遊歩道の幅が狭まり花壇の面積が広い場所にたどり着いた。

淡い青のニゲラ・丁字草に瑠璃苣るりぢさが広がる中に白い大手毬おおてまりが雲のように点在している。煉瓦れんがなどではなく青紫の矮鶏丁香花ちゃぼはしどいが区切りとなっており、水面に写る空のようだ。またその中に遊歩道が通っているため、歩くと空を歩いているような気分にもなる。


「これは楽しいな」


「でしょう?」


ロイの反応に満足げにリュディアは笑う。愛でる、というよりは遊び心をくすぐられる花の配置だ。ロイはエルンスト家の専属庭師を先程初めて見たが、見た目に反して随分柔軟な感性を持っているようだ。


「この庭はザクの案なんです」


「そうなのか」


「は? 俺??」


ロイが振り向くと、ちょうど巻いた敷物を抱えた庭師見習いの少年が来たところだった。何故か、本人に身に覚えがない様子だ。


「この季節は空の色の花が多い、と言っていたのはザクでしょう」


「え。あれで?」


庭師見習いの少年は記憶を辿るように考え込んだ。該当する記憶を思い出したようで、僅かに瞠目した。


「……魔法で空は飛べないよな、って言ったからか」


「専属庭師とはいえ、我が家の庭を誕生日プレゼントに使うなんて……そういうところはザクと血の繋がりを感じますわね」


自分も気に入っているから構わないが、とリュディアは態とらしく嘆息する。彼女の言葉を受けてか、庭師見習いの少年はずるずるとうずくまる。その頬は歓喜に染まっていた。


「やべぇ、すっげぇ嬉しい」


まだ見習いの立場の彼が直接造園に携わることはできない。案と呼べないほどの呟きにも関わらず、造園の案として採用されたのだ。自身で造園できるようになりたい彼が喜ばない訳がない。


「…………デニスは毎度ザクを喜ばせすぎですわ」


少し面白くなさそうにリュディアが呟いた言葉は、どうやら庭師見習いの少年には届かなかったようで父親に礼を言わねばと意気込んでいる。

ロイは微笑ましい光景だと思いつつ、彼の誕生日が近い事実を自分も祝うべきかと悩んだ。リュディアの言葉通り、彼の父親以上に彼が喜ぶ贈り物を用意するのは至難の業だろう。そして、自分から物品を受け取らない気が大いにする。

そんなことをぼんやりと考えていたら、庭師見習いの少年はリュディアに場所を確認して敷物を敷いてしまっていた。彼の役目は終わり、リュディアに終わったら声をかけるように言って去ろうとする。

どうするか考えていると、彼の方が思い出したようにロイに訊いた。


「そういや、レオはシャドウって何か知ってるか?」


「シャドウ? ダンスのか?」


「それ」


「ちょっと、ザクっ。どうしてロイ様に訊きますの!?」


「だって、お嬢、いくら訊いても教えてくれねぇじゃん」


ロイが唐突な質問に首を傾げると、リュディアが焦って声をあげた。


「相手を想定して練習することだが、何故イザークがそんなことを訊くんだ?」


平民で使用人の立場の彼らしからぬ質問内容を不思議に感じつつ、ロイは素直に答える。ロイが解を与えたことに、リュディアは肩を跳ねさせて被せるように言い募る。


「違いますわよ!! ただ一緒に練習してザクの方が機会が多かっただけで、ロイ様とは一度だけの夢のような出来事だったので想像しづらかったですし……っ」


庭師見習いの少年は理由に納得はしたがリュディアの焦った様子を心配し、ロイは練習で二人が踊っていた事実を知ってきょとんとしている。

言い募っていたリュディアは、それぞれの眼差しを受け居たたまれなくなり、先程とは別の意味で顔を赤くし俯いた。ロイを前に言わなくてもいいことまで言ってしまった気がする。


「エルンスト家の庭師は多才なんだな」


「お前と背格好近いのが俺しかいなかっただけだっての」


ズレた感想を言うロイに、庭師見習いの少年はげんなりと返した。ここまで苦い表情をする彼が珍しく、ロイは訊く。


「イザークはダンスが苦手なのか?」


「苦手っつーか……根本的に間違ってるらしい。めっちゃダメ出しくらう。お嬢があんなに自信なかったの、よく解った」


「けど、技術的な指摘は減ってきているじゃありませんの。わたくし、ザクより前から教わっているのに、未だに褒められたことないですもの……」


「いや、お嬢のはもっとよくなるようにって感じじゃん」


話すほどに遠い目になる二人の様子に、師事している人物はそれほど厳しいのか、とロイは思う。


「僕はリュディア嬢が一番踊りやすかった。そのリュディア嬢に練習といえどついて行けているのなら、イザークも悪くはないと思うが」


「ロイ様は、エラ先生をご存知ないから……」


「うん」


正当な評価を伝えたつもりだが、リュディアは何とも言えない表情をし、彼女の言葉に庭師見習いの少年は力強く頷いた。エラ先生とやらに一体何があるというのか。判らないが、妙に疎外感を感じた。


「しかし、技術面での指摘が減っているというのに根本的誤りがあるとはどういうことだ?」


黒子くろこなんだと」


「クロコ?」


「目立とうとしろって言われんだけど、性に合わないんだよなぁ」


どうしたものか、と頭を掻く庭師見習いの少年にロイは驚く。


「凄いな。どうやったら目立たなくできるんだ?」


ロイの発言にリュディアと庭師見習いの少年は固まった。


「……お前には絶対に無理」


「そうですわね」


眩しさに眼を眇める庭師見習いの少年の返答に、リュディアも同意した。ロイの場合は人の注目を集める要因がありすぎて、気持ちや技術でどうこうできるものではない。

自身でもその自覚のあるロイは残念に思いつつ、二人の意見に反論はできなかった。代わりに別の案が浮かぶ。


「イザークもパーティーに出たらどうだ? そうすれば、実際に人目があるから改善もしやすいだろう」


「は??」


何を言っているんだ、と庭師見習いの少年がロイに不可解な眼を向ける。リュディアも想定していない案に呆気に取られている。


「僕はまだ婚約者を定めていないから、候補者全員と踊るより、決まるまで誰とも踊らないようにしようと思っていたんだ。だが、それだと歳の近い親族のいないリュディア嬢が困るだろう?」


ちょうどいい、とロイは微笑む。ロイ自身で前例を作ってしまったので、今年も誕生日パーティーが催されることになるだろう。現段階では婚約者候補全員と平等に踊るべきだろうが、踊る順番などだけでも揉める要因になりえる。そういった事態を避けるためには、誰とも等しく踊らなければいい。


「ロイ様は誠実でいらっしゃるんですね」


「……いや、面倒なだけだろ」


肯定的な意見を持つリュディアに対して、使用人の自分まで担ぎ出そうとする強引な案に庭師見習いの少年は半眼になる。


「よくわかったな」


「ロイ様……」


煌々しい笑顔で肯定するロイに、リュディアは小さく驚いたあと何とも言えない表情になった。


「挨拶回りだけでも随分な労働だろう」


「確かにそうですが……」


リュディアも経験があるので否定はできない。ロイに至っては王子なので出席者のほとんどがこぞって挨拶にくる。それはとても大変だと、リュディアの想像にかたくない。


「検討、いたしますわ」


「助かるよ」


「俺の意見は」


参加しないといけない空気に、庭師見習いの少年は心底嫌そうな表情をする。ただ練習相手をするのと貴族の公式の場に出るのとは訳が違う。リュディアが王子であり友人のロイを気遣う気持ちは彼も解らなくもないが、流石に了承しかねる。


「ザクは参加しなくてもいいですわ、お父様に頼みますから。お忙しいでしょうけど……」


ロイの誕生日パーティーは参加必須だろうが、それ以外の子供向けのパーティーとなると時間帯が早いため多忙なジェラルドに毎回付き添いを頼むのは難しいだろう。だが、元々自分のダンスの向上のために練習にも付き合わせているのであって、彼がしたくてしていることではない。それを解っているリュディアは、これ以上無理強いなどできなかった。

ただ彼のここまで嫌そうな表情を見るのは初めてで、そんなに嫌だったのかとリュディアは内心落ち込み、肩を落とした。

そんなリュディアの様子を眼にし、庭師見習いの少年は怯む。あーやうーと唸り、悩みだした。そして、腹を括る。


「お嬢、ホントに付き添いが見付からなかったときは、俺なんかでよけりゃ行くよ。まぁ、公爵様が許可してくれたらだけど」


「いいんですの……?」


「お嬢を一人にできないしな」


そう庭師見習いの少年が苦笑する。リュディアは父親に許可を取る、と喜んだ。彼女の反応に安堵し、庭師見習いの少年は表情を和らげた。

一連のやり取りを見ていたロイは、楽しそうに喉を鳴らす。


「リュディア嬢には弱いんだな」


「お前に嵌められた感がすげーんだけど」


リュディアに聞こえない声量で指摘すると、隣から同じ声量で渋面になりながら不服が返った。


「誕生日プレゼントだと思って受け取ってくれ」


「うわぁ、今までで一番嫌なプレゼントだ」


それはそれで印象に残っていいかもしれない、とロイは感じた。せっかく練習をしているのなら披露の場を、との善意だったが、彼にとっては悪意に近しいものだったようだ。

庭師見習いの少年は嘆息したあと、呆れ混じりに付け足した。


「大体な。そういうのはおめでとうって言うだけでいいんだよ」


無理に何かを渡そうと回りくどいことをするより祝う気持ちだけでいい、と。

ロイは眼を丸くする。だが、多くの品を貰う身として言祝ことほぎだけの方が理にかなっていると感じた。

面を食らったままロイは言葉を紡ぐ。


「いつかは判らないが、誕生日おめでとう」


「おう、ありがとな」


先程まで渋面だったのが嘘のように晴れやかに笑って庭師見習いの少年は礼を言った。成程、この清々しさに青空の庭はよく似合う。


「ロイ様にまで先を越されましたわ……」


庭師見習いの少年が去ったあと、がっくりとリュディアが項垂れた。どうやら悩みに悩んでまだ彼にプレゼントを渡せていないようだ。

その様子を愛らしく感じロイは笑った。詫びにプレゼントの相談に乗ることにする。

清々しい青空の庭で、ロイは友人としてリュディアと語らうのだった。



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