幕切れ
長い、長い映画を見ていた気がした。
死を前にして今までの鮮やかな思い出が、瞼をスクリーンにして映し出されていた。できることなら、ずっと、ずっとそれを観ていたいほどだった。
それでも、わずかに残った力で
ひどい目眩で足元はおぼつかず、心臓の拍動もめちゃくちゃだった。
終わりの近い体を引きずって、花房の死体の隣に寝転がる。
そうして、彼女の冷えた手のひらに、あの時のお守りを握らせた。鈴の手のひらの血の赤が、白の布地と金糸の藤を汚す。そのまま、お守りごしに鈴は
(これでいい。この終わりがいい)
自分だけ逃げるなど、ごめんだった。自分だけに消えない傷を負わせて、去ろうとする花房が憎かった。だから接吻をした。
憎しみと、鈴蘭の毒を溶かした唾液を流し込んだ。
口元の傷で血を大量に飲み込んでいた花房には、鈴蘭の毒など分からなかっただろう。それとも、わかっていて死んでくれたのか。もう問いかける相手は冷たく、鈴自身もそれを問いただしたいとは思わない。
ただ、あの願いだけが叶えばいい。
また安井金比羅宮の藤を共にみるという、あの約束が。
花房との二度目の出会いの時に書いた絵馬を思い出す。どうか、どうか、叶えてくださいと祈る。
花房と夫の縁を切ってください。
そして、ずっと鈴と花房が一緒にいられますように。
ひとつ目は叶った。あとひとつは、来世に持ちこそう。ぼやける頭でそれだけ考えて、鈴は花房の手を離さぬよう強く強く握る。
「花房、またね」
金比羅心中(殺伐百合短編) 晴海ゆう @taketake111
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