春が恋しい理由

福田あおい

春が恋しい理由

翔君のお母さんは綺麗な人だった。



岡元先輩は友達の明ちゃんが恋するぐらい中性的で整った顔立ちだったから、お父さんもきっと岡元先輩に似てかっこよかったのだろう。



翔君のお母さんと岡元先輩のお父さんがいなくなった日、職員室は蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。



私たちが次の学校に上がる頃、岡元先輩はお兄ちゃんになっていた。



でも、翔君のお母さんは帰って来なかった。



翔は頭良くないけど、代表に選ばれるぐらい足が早くて、半袖半ズボンで通年過ごしちゃうような健康優良児で、ガキ大将だけど、理不尽な意地悪はしないから男女共に好かれてて、悪い子じゃなかった。



そんな兄弟を置いてきた。



母親失格だとは分かっていた。



でも、あの男性が私を選んでくれるなら、私は優しい夫と、ちょっと心配性で何かあると口出してくる母と、無口だけどいつも味方でいてくれた父と、私のことを全身全霊で愛してる息子たちでさえ、総てを捨てることが出来る一生に一度の恋愛をした。



・・・つもりだった。



あの男性は妻子の元に帰ってしまった。



始めから、あの男性が私のこと好きじゃないのは分かっていた。



あの男性と例えお互い独身で出会っていたとしても、私を選ばないことも分かっていた。



だから、あの男性からの「愛してる」の一言は泣きたくなるほど、切なかったのか。



今年の春、翔君は2児の父になり、翔は小学校にあがる。















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春が恋しい理由 福田あおい @sakurada_aoi

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