【自主企画】101号室/NkY【カクヨムアパート】

NkY

とある青年の空想と妄想に塗れたありふれた日常

「今日も世界が始まる……」


 朝6時。スマホの目覚ましによって、夢の中の工場のラインから僕は脱出に成功する。

 ソファベッドから身体を起こし、冷凍庫から買い置きしておいた冷凍パスタを取り出す。今日はナポリタンにしよう。レンジで6分。


「世界は君を嫌っている。君は殺さなければならない。僕の手によって」


 殺すべき人間はこの空間に誰もいない。僕の頭の中にもいない。

 この空間に存在しているのは最初から僕一人だけだ。

 こういう独り言は、よく出てしまう。まあ、僕一人だけなのだから何も邪魔をされない。


 せっかくだから、冷凍パスタが出来るまでに軽く部屋の紹介をしようか。


 布団……年末年始に実家に帰った際に貰った神のような布団カバー。なんでも体温を熱にして閉じ込めてくれる機能があるらしい。つよい。

 しかし、洗っていないので最近くさい。けれども僕の鼻は元から鈍感が過ぎるので全然気にならない。


 ああ、そうだ。布団じゃなくて、部屋の紹介だったな。

 ……僕の部屋は、人を上げるようにはできていない。ありとあらゆる人間を、玄関先で完璧に拒絶する。


 足の踏み場がないわけではないが……モノやゴミが無造作に床に散乱しているような場所だ。時折変な虫を見かけるが大体の場合は面倒くさいのでスルーを決め込む。駆除しないと死ぬような奴らではないし。

 ちなみに蜘蛛は変な虫を食ってくれる益虫だから大事……にはしないが、生かしておく一択だ。


 汚い部屋ではあるが、一応、鍵や財布といった大事なものは置き場所をちゃんと決めてあるため物を失くすことはそうそうない。

 それに、一応消臭剤は部屋に置いてあるが……僕の鼻が全く機能しないので、果たして本当に意味があるかどうかは分からない。


 こんな部屋のくせに、職場では整理整頓をきちんとするし、何なら清掃も人一倍気合を入れてやっているつもり。何でだろうね。


 ノートPCを立ち上げ、動画を見ながら朝食を食べる。小さなテーブルだ。

 先ほど解答した冷凍パスタに加えて、箱買いしてある野菜ジュースに3個で100円のヨーグルト。仕事に行く際の朝食は毎日これだ。たまに冷凍パスタが昨日の帰りに買っておいた重めのコンビニ弁当になったりもする。

 もし何かこぼれようものなら大惨事待ったなしだが、そんなことは今まで起きたためしがない。


 朝食を食べると、シャワーを浴びる。基本僕は朝にシャワーを浴びる人間だ。

 僕は寝癖が付きやすく、また結構しつこく残る。だから、寝癖を直すのもかねての朝シャワーである。


 夜? シャワー浴びずにそのまま寝る。汚いと思うなら思えばいい。どうせ外出するときにはシャワーを浴びてから外に出るし、ここにはどうせ僕一人しか立ち入らせる気がない。僕は気にしない。


「ああ、そうだ。僕は、君を殺すためにここにいる。消えてほしいな、大人しく」


 殺すための人間なんてどこにもいない。ただの中二病だ。


 実家に帰省するくらいしか使わないスーツケースが床に横たわって直置きされている。僕はその上に着替えを置くのがいつの間にか習慣になっていた。

 工場の作業着を着る。作業着通勤ができる会社だ。


 朝すべきことを終えると、あとは出るべき時間まで暇をつぶすこととなる。

 大体はこの時間を使って小説を書くか、それか再びベッドで仮眠をとるかしている。最近は忙しくなってきて少々疲れているため、後者の行動をとる方が多かった。


 ちなみにこの朝の時間を使って小説を書くのが一番文字を書ける。なぜなのかは分からないが。


 そして、朝7時20分過ぎ。


「さて、今日も僕の存在意義を証明しにいこうか」


 僕は世の中に僕という人間を知らしめに行くのだ。




 僕の仕事は工場の作業員。かなり軽い作業ではあるが、残業が多い部署に配属されている。

 まあ、仕事時間は僕の存在する理由が作れる時間でもある。何なら、創作ネタを考える貴重な時間にすることもできる。作業の手を動かしながら、僕は再び青春の波へと身体を沈めるのだ。


 今、僕が主に書いているのは中学生の吹奏楽部モノだ。

 しかし、だからといってその時代に戻りたいかといえば答えはノーだ。

 きっと、戻っても僕は……何も、変わりはしないだろう。


 僕は基本的に人に嫌われる性格をしていると思っている。

 とにかく人の上に立ちたい。マウントをとりたい。自分が優位だと、優れているとアピールをしたい。

 自分のことに探りを入れられると、馬鹿なことを言ってはぐらかす。僕は、そういう人間なのだ。


 そして、そんな僕と同じような人間をこの職場では結構見かけることがある。

 ……僕は僕みたいな人間が嫌いだ。特に年上で、自覚なくそんな性格を発揮してくる馴れ馴れしい新入りどもは心底嫌いだ。

 けれども僕だって一応は社会人だし、彼らが仕事仲間であり協力していかないと残業時間が伸びてきついことになるのは僕も分かっている。


 僕はそこまで子供じゃないが、多分大人でもない。割り切ろうとして割り切れない思いを抱えながら……きっと、怖い雰囲気を外に出してしまいながら、作業を続ける。

 そして大抵、その怖い雰囲気というのは僕の嫌いな人間どもには全く伝わらず、作業中でも僕にやたら馴れ馴れしく、かつ上から目線で話しかけてくるのだった。


 ……ああ、断っておく。この仕事は天職だ。おそらく僕が一番能力を発揮できる仕事なんじゃないかとも思っている。

 人間関係? そんなのどこ行ってもこういうやつらはいるだろうから諦めている。そんなので選り好みをしたら、いつまでたっても定職につけないままだろう。


 ちなみに、同期にも正直ロクなやつがいない。やたらと後ろ向きだったり、自分のことを話すことにしか明らかに興味がないヤツだったり、果ては全く口を利かなかったり。まあ……こんな僕でも存在していいと認められたような場所なんだ。こういうものなのだろう。

 それなりにいい顔をしながら、上司にもそれなりに気に入られながら……しかし、友人とはっきり言えるような人間は全く作らず、僕はこの場所で存在意義を証明し続けるのだ。


 ああ、一応……二人とも、かなり近い距離感で雑に色々話せる人がいる。二人とも女性で、一人は既婚の40代。もう一人はバツイチのギリ20代。かなり早くに子供を作っており、前者の方はもう孫の顔を見るなんてことを言っている。

 とはいえ……どうだろうな。僕が勝手にそう思っているだけなんじゃないだろうか。むしろ生意気なヤツだと思われて、嫌われてるんじゃないか?

 傷つくのが嫌だから、僕は裏では嫌われていると思うことにしている。



 ……そういえば、友達とはっきり言える人物が存在しないのは、昔からそうだった。




 大抵、仕事から帰ってくるのは8時半。最近は9時も多くなってきた。所属部署の中でも圧倒的に残業の多いラインに最近配属されたばかりだからだ。

 まあ、残業が多いことはそこまで悲観すべきことでもない。僕は大して時間を欲していないし、むしろ僕が必要とされていることに喜びを見出している。

 僕の存在意義は、今のところはこの場所にしかないのだから。


 ……将来、特定のひとのために僕が必要とされるのだったら。

 あるひとのために、生きるということが出来るのならば、それは……どんなに素晴らしく、幸せなことだろうと時折考えることがある。

 考えることがあるが……それは、今の僕には実現不可能なことに近いと考えて、即座にその妄想を切り捨てるのだった。


『手洗いうがいしっかりしてねー』


 LINEに大学1年の妹からメッセージが来ていた。


『あいー』


 適当に返事を返すと、適当なスタンプが返ってくる。

 僕はろくなスタンプを持っていないので何もしない。というか、スタンプが好きじゃなかった。


 妹はアニメオタクだ。主に女性向けアイドルアニメが好きらしく、ライブも結構行っている。小学生からの付き合いである社会人のオタク友達を持っているらしく、その子に振り回されて結構支出がかさんでいるらしい。

 今年初めてお年玉を妹に一万円ほど渡したが、おそらく『推し玉』としてどっかのキャラに貢がれていることだろう。


 まあ、別に何に使われようが僕には関係のないことだ。僕だってゲームというものにお金をかけている人間だし。

 ああ……ソシャゲは一切やらないので消費金額はだいぶマシだ。


 妹は僕と違って友達が多い。小学生時代からの友達とも繋がっていて、外に遊びに行く頻度も結構高かった。実際実家に帰るときすらも、友達の家に遊びに行っていて不在ということがある。


 僕は妹が羨ましくもあるが……正直、めんどくさそうだな、とも思ってしまう。

 僕には僕の世界があるのだ。僕には僕の時間があるのだ。


 でも、ひとと関わりたいな、とも思うのだ。

 ずっと、僕の世界でひとりぼっちなのは……寂しい、とも思うのだ……。





 仕事から帰ると、大抵僕はコンビニで買ってきた夕食をぶら下げている。適当な惣菜か、おにぎりか、サンドイッチか、あとはレジで買えるホットスナックか。量は大して多くない、カロリーで言えば400キロカロリー前後といったところだ。


 確かに味は悪くないが……正直、飽きが来ている。何というか……新鮮味? というものがない。

 僕の好物は鶏の唐揚げだが……コンビニで売っているそれは、まあ、そこそこの味というやつだ。嫌いじゃないが、大好きというわけでもない。


 実家の、母の手料理が何だかんだで一番美味かった。

 昔に戻りたいという理由を付けるんだったら、一番はこれなんだろうか。


 ……それか、一生を捧げてもいいと思えるような、これから出会うであろう――もしかしたらもう出会っているかもしれない――素敵なひとが作ってくれる手料理を食べたいがために、僕は未来へと行きたいのかもしれない。


 まあ、どうでもいい話だ。そんなのどうせ出来っこないのだから。

 今は、そこそこの味である唐揚げで我慢してやろう。


 夜の過ごし方は主に二つ。

 小説を書く、ゲームをする。基本はゲームが多い。


 この日は布団にもぐりながらニンテンドースイッチを起動して、ウイニングポストという競馬のゲームをある程度進めた。

 あまり自分が操作しないゲームだ。競走馬を所有し、出すレースを決めて、そのレースを見るだけ。どこが楽しいと言われるかもしれないが、僕はそれが楽しいと思うのだ。

 ……まあ、やっていると眠くなるゲームではあるのだが。


 強烈な睡眠導入効果を持つこのゲームは、眠くなりたいときにうってつけでもあった。眠さをはっきりと感じれば、僕はスイッチをスリーブモードにして床に放り、そのまま眠りにつくのだった。


 大体、寝る時間は22時半~23時半の間である。




 こんな日々が始まったのは、昨年の4月からだった。

 書いているとつまらなさそうに見えるかもしれないが、それでも僕は満足している。

 職場に行くことで、僕の存在意義が証明される。

 職場に行くことで、創作のネタが思い浮かぶ。

 そして、この場所で僕の世界を解放する。


 僕の世界に反応が付く。僕の世界の存在意義が、ここに生まれる。



 そう。皆様の閲覧が。皆様の応援が。皆様のコメントが。皆様が与えてくれる★レビューが。

 ある一人の人間を生き長らえさせているのだ。



 だから。



 小説読んでください。応援ください。★ください。


 そして、なによりも……コメントください!!!!!!!





 ……ふう。宣伝も完璧。

 僕はこのよく分からない文章を保存し、公開へと踏み切るのだった。

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