なんなら空飛びたい

清泪(せいな)

年6時間の帳尻合わせ

 午前11時。


 それが約束の時間なのだけれど、腕時計のデジタルな数字は00:48を表示している。


 幼い頃に兄から貰った数百円程度のプラスチック製の黒い腕時計は、女子高生が着けるには恥ずかしいぞなんて言われるけれどこうして今も役に立っているので自慢してやりたい。


 いつ電池が切れるかわかったもんじゃないけれど、実際に電池が切れたスマートフォンより頼もしい存在である。


 昨日、緊張のあまり充電することなく寝落ちしてしまい、今朝慌てて充電するも地図アプリを頻繁に動かしていたら御臨終になられてしまった。


 私は今、約束の場所に行けず道に迷っているところだ!


 なんと、なんとである。


 こんな時代に、女子高生が、迷子である!


 とかなんとか、自分煽りを繰り返してみても焦るだけで何も解決しない。


 うーん、まさか友達の家の住所を聞いたのに辿り着けないとは思わなかった。


 地図アプリで近くまで来れたものの、住宅街。地図を拡大しようとスマートフォンをタップしたら電池残量のお知らせと共に画面は真っ暗になった。


 それから叩けども振れども起動すらしてくれなくなったスマートフォンはウェストポーチにしまい、LINEでの彼女の最後の言葉を思い出しながら家を探す。


 大丈夫、近くに来たならすぐわかるから。


 すぐわからないから困ってるのに、そうメッセージが来てしまったらスタンプでOKと返すしかなかった。迷子である私の焦り顔と違い流行りのアニメスタンプが良い笑顔で親指を立てていた。


 そんなこんなで地図も無ければ連絡も取れない状況下で、さ迷うこと2時間を過ぎた。


 朝はバッチリ起きて、目的地には迷うことも考えて早めに出たというのにこのザマである。


 今は、イメージとして住宅街の真ん中らへんにある馬鹿でかい御屋敷の周りをグルグル回っているところだ。


 この馬鹿でかい御屋敷? 洋館?、が本当に馬鹿でかくて時間を食ってると言っても過言ではない。


 ていうか、こんな馬鹿でかい御屋敷? 洋館?・・・・・・もう御屋敷でいいか。その御屋敷が二つの隣の市にあるとかまず知らなかったので驚きである。


 普通こんなのあったら噂ぐらい聞いてもいいような気もするけど、触れてはいけない地主とか政治家の家なんだろうか?


 多分きっと理解不能なぐらい金持ちなはずだ。私とは住む世界が違うのだろう。住む世界が違うから話も回ってこないのかもしれない。


 そんな御屋敷を貧富の差からではなくただ障害物として睨んでいると探し求めてた声が聞こえてきた。


「あ、やっと来た! 連絡つかないから心配してたんだよ、もう!」


 振り返ると、言葉とは裏腹に笑みを浮かべて彼女が手を振っていた。私は恥ずかしさを交えながらその手に応えたくて振り返した。


 安堵する声と安心する笑み。彼女が私を迎えに来てくれた、そのことが嬉しくてさっきまでの不安や焦りが吹き飛んだ。


 ──私は。


 私は、四年に一度、恋に落ちる。オリンピックだとか閏年だとか、そういった話題が世の中で盛り上がる中、私には好きな人が現れる。


 四歳の時も、八歳の時も、十二歳の時も、そして、十六歳の今も。


 保育園の先生、幼なじみの彼、サッカー部に所属する先輩。


 そして、同級生の彼女。


 四年に一度恋に落ちて告白しては呆気なくフラれてしまい、一瞬の盛り上がりで終わってしまう。


 そんな花火のような感情が、今年もまた生まれてしまった。


 しかも、同姓にだ。自分でも驚いた。


 親友なんて呼べないただ仲の良い同級生だった彼女に、いつの間にか恋だとか愛だとかの感情が芽生えてしまい、それが止まるどころか一層強くなってきたのが今日、彼女の誕生日である。


 何気無い会話から誕生日を聞き出してサプライズプレゼントと行こうかと作戦を立てたのだけど、私の思惑を遥かに越えて──


「私、二月二十九日が誕生日なんだけど祝ってくれない? 私の家で。憧れなんだよね、家に招待しての誕生日パーティー」


 お家に招かれることとなった。


 あまりの驚きと嬉しさに気を失いそうになる日々を過ごし、プレゼント選びに頭を悩ませ、ついに訪れた今日この日。


 やるべきことは、誕生日プレゼントを渡すことと、告白だ!


「じゃあ、行こうか?」


 差し出された手を緊張を隠しながら握る。


「そ、それにしてもさ──」


 返事もままならない私は震える声を抑えながら、平静を装うために御屋敷に目をやる。


「こんな大きな御屋敷があるなんて知らなかったなー、スゴいよね、こんな御屋敷入ってみたい」


「何言ってるの、今から入るじゃない?」


「へ?」


「ここが私の家。近くまで来たらわかるって言ったでしょ?」


 色んな感情があっちいったりこっちいったりして頭がごちゃごちゃして彼女の言ってることが理解できずにいたけど、1つツッコミが頭に浮かんだ。


 だったら、大きなお屋敷だ、と一言メッセージくれればこんなに迷わなかったのに。




 


 

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なんなら空飛びたい 清泪(せいな) @seina35

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