第20話 帝都強襲
─1918年 5月20日
港で停泊中の荒波で、シャナはいつもとは違う緊張感を抱いていた。
(陸軍との特別作戦。まだ詳細は聞いてないが、いったいどうなるのか…)
シャナは士官室で何かする訳でもなく机に腰掛けていた。そしておもむろに外を見た。
夕刻。夜の帳が降りかけている。
ヘルムート湾で英雄的勝利を収めて以降、両海軍は目立った戦争行為は起こしていなかった。しかし、海軍の主力である第1艦隊、すなわち戦艦部隊は傷ついていた。
更に、つい先日またしても戦艦の一隻が機雷に触れてしまい、轟沈とまではいかずとも1年以上はドックで療養しなければならないほどの大怪我を追ってしまったのだ。
そのため実働艦隊は小回りが効く第2艦隊、特に先日の海戦で損傷の少ないシャナ達の対空部隊であるADISたちがメインだった。
ともかくも、そういった理由から両海軍はナキア海の潮流を、スクリューでかき乱していない。
戸が叩かれる。シャナは机から急いで降りて椅子に掛けた。
「どうぞ」
男の顔は見知った顔だった。シャナは綺麗に敬礼する。男も敬礼した。艦長のグレゴリオだった。
「命令がくだった。0200に出港だ」
「はい」
「それと、今回は特別な作戦だから、これから参加する第2艦隊の各艦長は旗艦の浅間へ行き、命令の詳細を聞くこととなっている」
「…」
シャナは黙って聞いていた。
「お前も来い」
「!」
彼女は銀色の髪を揺らして動揺を露にした。
「自分はただの砲術長ですが…」
あわあわするシャナを様子をおもしろがりながら、グレゴリオ艦長は彼女を納得させる理由も持ってきていた。
「ネボガトフ提督が、お前も是非に、と」
ネボガトフ提督は、シャナにとってある種の縁があったのだ。
………
……
…
重巡洋艦・浅間は広い。シャナが
彼女の成績であれば本来ここで働くのが妥当なはずであった。が、様々な都合から駆逐艦という最前線で、居心地がいいとは言えない艦へと配属されている。
水兵に誘導されてグレゴリオ艦長と共にしばらく歩き、だいぶ広い部屋へと入るとそこには見知った顔がふたつあった。
「!」
「!」
1人は浅間の艦長も務めるネボガトフ提督、そしてもう1人はミコ・カウリバルスだった。
2人は互いに目をぱちくりさせたが、その場の厳かな雰囲気を感じ取り何も無かったかのようにしていた。
場は長い机にそれぞれの艦長、またはその代理が並び、椅子にかけていた。各艦長はそれぞれ海軍とわかる服装をしていたが、もっとも扉に近くネボガトフ提督から離れた位置へいた少女は、明らかに服装が違っていた。
「それでは始めよう」
「はっ!」
ネボガトフ提督の右腕である、ベルリンク参謀長が立ち上がり、そして命令書らしき紙を広げ読み上げ始めた。
「軍令部より……各艦は深夜0200にナキヤ海へ出動。北進し、陸軍特別支隊である第1独立機動支隊を敵国帝都へ上陸させよ。支隊はその『箒』でもって迅速に帝都王宮へ向かい、皇帝各一派を抹殺せよ。詳細は以下………なお、支隊の母艦は、駆逐艦・荒波とする………」
シャナは生唾を飲んだ。恐らく横のグレゴリオ艦長もそうだろう。
深夜の洋上からの奇襲作戦。しかも、敵の都を狙うのだ。
つまり軍令部は、この戦争を一夜にして終わらせにきたのだ。
シャナがあれこれ思案している中で、ベルリンク参謀長は話を終えたのか座った。そしてネボガトフ提督が大きく息を吸ってから、皆によく聞こえるように声を出した。
「この戦争は長くは続かない。いや、続いてはいかんのだ」
老練な提督は、片手間に学生へ指導する教授の役割ももっている。彼はこのような場であってもまるで講義をするかのように話していた。
「陸軍は近頃押され、しかも備蓄弾薬の枯渇もあり、更に海軍では、我らの主力艦がワイバーンによって傷つけられている…」
少しの間を空け、提督の顔は教授から軍人へと戻っていた。
「皆の者、こい願わくば、努力せよ」
提督は立ち上がり、水の入ったコップを掲げた。
「いざ──!」
…
……
………
──1918年 5月20日 深夜1時40分
2人の魔法使いは、荒波にいた。
「ミコ、まさかこんなところで逢えるなんて」
「本当だよ!元気にしてた?」
「はい…」
「…」
2人は不意に沈黙を味わった。互いの姿を見て、戦場を経験して一皮向けた様子を察したのだった。
そしてまた世間話に花を咲かせた。だがもっぱら、戦場での事がメインだった。
「魔法使いであるからこそ、箒、ですか」
シャナは陸軍の対空システムで箒が使われることに対して分析した。もしかすると、という確信はあった。以前内地の研究所でそれらしいものを見かけたのだ。
「そう!これであの翼竜と追いかけっこしたんだ」
「へえ…」
ミコが手に持つのは、シャナにとっては見慣れた箒だったが、それに見慣れない装置が付いていた。
艦内にブザーが鳴り響く。
「総員、配置に着け」
2人は顔を見合わせた。そしてミコは軽くシャナの肩を叩いて「じゃ」とその場を離れていった。
…
……
………
「両舷前進微速」
グレゴリオ艦長が静かに命じる。
スルスルと船が動きだし、ポート・マクレーンから外海へと向かいつつある。他の駆逐艦たちも同様であった。
ここからの予定はこうだ。
外海へ出たADISの面々は直進ししばらく東へ航路を取る。そしてポート・マクレーンから陽動部隊が出撃すると同時に北へと転針し、大急ぎで大マウロ人民帝国の帝都へと向かう手筈だ。
ADISは隊形を組んだ。
先日の海戦で最も被害の少なかった荒波を筆頭に、4隻の小波型駆逐艦が矢印のように陣を敷いた。
魔法使いの母艦としての役割を与えられている荒波は、その矢印の最後方に控えている。
この日のナキヤ海上空は満月が輝いていた。しかし厚い雲のカーテンがそれを覆っている。
連邦の研究機関であるレイン・ヒルズがこの天候を予測し、作戦日時とした成果は出ていた。
「浅間より入電」
通信兵が声を上げた。
「読み上げろ」
「『フランブルに風吹く』」
グレゴリオ艦長はゆっくりとシャナと顔を見合わせた。
ペロリと舌で唇を舐める。舌で水分を与えてやらないと今にも割れてしまいそうだった。
そしてふたりで頷くと更に通信兵へ命令を出した。
「各艦へ転舵命令を通達しろ」
重巡洋艦・浅間は本隊に打電を行うと、陽動部隊の旗艦として出港した。
「みんな、用意はいいかね」
「はい、万全であります」
提督が閉じていた目をゆっくり開けると、ベルリンク参謀長に尋ねた。
ネボガトフ提督はこの作戦に参加するにあたり、艦隊編成を思案していた。
第2艦隊の巡洋艦戦隊のうち、作戦行動に満足に耐えられるのはこの浅間と修理の間に合った日向だけである。
これに加えて今や大破着底していない方が珍しい第1艦隊のペトロパブロフスク級戦艦を1隻拝借し、これらもって中核とし、第1艦隊に付随していた足の遅い駆逐艦を数隻、おまけに人員を搭載していない輸送艦を付け加えた艦隊を編成した。
傍から見れば、こちらが上陸作戦の主力である。実際に、この陽動部隊が出港したことで人民帝国の偵察員も実情とは異なった形で本国へ通報した。
先に出港した駆逐艦の集まりは、自動的に後続の艦隊の露払い要員として認識されたのだ。
駆逐艦たちが波を切る。
4隻の駆逐艦は北へ北へと速力を上げていた。
「もうすぐ作戦海域です」
シャナは艦長に伝えた。彼女の人一倍倍率の良い望遠鏡を覗くと左の方に僅かに港町が見える。
帝国の首都である帝都は、標高1000メートル以上はある峰々と切り立った断崖に囲まれている。
さらに港町の奥も奥、山の麓の辺りに赤と白を基調とした宮殿が見える。
(艦砲射撃であそこを狙えば…)
とシャナは考えていたが、どうやら宮殿には強力な結界が施されているらしく外部からはどうにも手を付けられないとのことだった。
「ああ。ビリデルリング」
「なんでしょうか」
「お前は後部指揮所へ行って、陸サンの出発の手伝いをしろ。箒?とかいうので行くんだろう」
思いがけない命令に、彼女の銀髪が震えた。
「わ、わたしは砲術長ですが…?」
グレゴリオ艦長が呆れたように右手をひらひらさせる。
「違う違う、この荒波で魔法使いはお前だけだろ。箒は使ったことあるよな?」
彼女は自分が魔法使いだと忘れたことに気づき、紅潮した頬を冷やすようにいそいそと艦の進行方向とは逆向きに走った。
こぢんまりした指揮所に入ろうとしたところで少女とばったり遭遇した。
「シャナ!まさかここに来るなんて…!」
「ミコ!」
「いよいよ、ですか」
「うん…」
二人の間に沈黙が流れた。ミコ・カウリバルスはこれから死地に赴くのだ。かたやシャナ・ビリデルリングも敵国領海のど真ん中で、たった4隻の駆逐艦に守られているだけだった。
「ミコ、死なないでください」
シャナが腕をわっと開いてミコに抱きついた。
「シャナもね……」
2人は抱き合うのをやめて互いに目を見合った。
「帰ったら、パンダ屋でココアを飲みに行こう」
…
……
………
「ヴァルキリー起動。分隊各員、箒は浮いているかい?」
シャナは後部指揮所の無線機から、彼女たちの会話を聞いた。彼女の持つダイヤルと回線を繋いでいるのだ。
さらに彼女は壁越しに15名の陸軍兵士たちが何やら箒に跨っているのを目にした。
(あれはみな魔法使いでは無いはず…どうやって?)
「た、大尉!準備は完了しました!自分らは捕まってればいいのですかい?ただこの乱気流が…」
受話器からに男性の声が聞こえる。
シャナは軍学校時代から有していた明晰な頭脳を働かせ理解した。
なるほど、彼らは魔法使いじゃないな。きっと箒を動かす魔法か何かをかけて、分隊員の制御はミコや他の魔法使いがするんだろう。
その推理に満足する前に、シャナは先程の会話から前部指揮所へ手短に電話を掛けた。そしてまた右手で受話器を取って口を開いた。
「支隊長。後部指揮所です」
「シャナ!どうかした?あっ、そろそろ出発か!」
ミコの元気な声が響く。
「いえ、急かす訳ではなく。むしろ出発を少々待って欲しいです」
どういうことだ?と陸軍の兵士たちが困惑する中で、シャナは腰のレイピアを抜き、帝都の方へと切っ先を向けた。剣の根元に埋め込まれた宝石が、鈍く光を宿した。
荒波がぐらりと横揺れする。曇天の今夜は様々な向きに風が吹き荒れていた。
だが、シャナが剣を向けた瞬間に風は東から西へと進み始めた。
「これでどうでしょう」
おおおおお!と甲板の兵士たちが湧く。受話器からミコの満足気な声も聞こえてきた。
「ありがとうシャナ!……第1独立機動支隊、これより発艦します!」
後半は、任務を帯びて空気を引き締める声色に変わっていた。
シャナはしばらく親友が箒に乗って遠ざかるのを眺め、艦橋に戻った。
「どうも様子がおかしいぜ」
グレゴリオ艦長がボヤいた。人民帝国の帝都は港町だが、崖の上に据えられた外海を照らす灯台に火が入っていないのだ。
「予定通り彼らがライトの範囲に入ったら砲撃しますか?」
「いや…うむ…」
本来の作戦では、支隊が灯台に探知される寸前で敵の灯台に対して駆逐艦総出で艦砲射撃を与える予定だった。
「陸軍が上陸してからにしよう」
と、通信兵に向かって合図すると、今度はまたシャナの方を向いた。
「夜明けまで何時間だ?」
「あと3時間です」
「よし。大尉、夜明けまでに陸軍が上陸地点までに戻って来なかったらどうするんだった?」
グレゴリオ艦長からの質問は、この作戦に参加する人間ならば当然抑えている内容だった。しかし作戦参加にあたって大尉に昇格していたシャナは珍しく苦虫を噛み潰したような顔をして見せた。
「彼らが
「そうだ。…覚悟はしておけ」
──1918年 5月21日 深夜 クレセント・コマンド
「こちらクレセント・コマンド、カウリバルス支隊長。応答願う」
彼女は首元にぶら下げたダイヤルのスイッチを押しながら声を発した。後ろでは上陸した陸軍兵15名が周囲を警戒し、現在地を確認している。サーシャとマキナと、さらにミコ分隊の曹長が地図を開きながら、あそこはここで、向こうがこれだ、などと整理していた。
少し間を空けてこんどはダイヤルの方から声が聞こえた。
「こちら『荒波』。付近に異常はないか」
男の声は恐らく荒波の艦長にして、今回の駆逐艦戦隊の司令官だとミコは推測した。
「ありません。…なんだか変です」
ミコは顔を上げながら、崖上にそびえ立つ灯台と拠点を見た。
「あそこに人の気配がないんです。しかし確認のため、我々はまずあの灯台を制圧しに行きます」
「……砲撃支援は必要なさそうだな」
向こうのグレゴリオ艦長は、やることが無くなって少しの安堵と煮えきらなさを感じさせるそんな声で答えた。
「必要ありません。ただお願いしたいことがあります……」
──1918年 5月21日 同時刻 ナルヴィンスク連邦
「ええ、ええ。そのように。ではまた3日後」
男はアンティーク装飾を施された電話をゆっくりと降ろして通信を切った。
彼はこの国で大統領と呼ばれる人物だ。
「ブラックズ大統領。奴らはなんと……?」
「外務大臣に、陸軍大臣と海軍大臣もここに呼んでくれ」
オスカル・ブラックズ大統領は頬に刻まれた古傷を触りながら、浮かない顔をして官房長官に告げた。
………
……
…
「講和交渉の仲介役に桜花皇国が乗り気になった!?」
大柄で豊かな髭を蓄えた陸軍大臣があんぐりと口を開けた。
「そうだ」
「しかし大統領。奴らのどこに人民帝国との窓口があり、しかも講和に向けた何らかの策があると?」
細身の海軍大臣は元々細い目にさらに皺を作った。
「わからないが、とにかく奴らは狡猾だ。今行われているあの作戦……」
「『オペレーション:ダウンフォール』でしょうか」
「そうだ。あれがなんとかして成功して我々の力でこの戦争を止める必要がある」
大統領は懐から葉巻を取り出した。重たいライターで念入りにそれを火に晒すと、厚ぼったい煙が部屋中に漂った。
「皇帝を抹殺し、レジスタンスに新国家を樹立させ、我が国が真っ先にそれを認める……この作戦のシナリオですよ」
これまで無口に何も発さなかった外務大臣が話した。
「レジスタンスらとのコンタクトはどうだ」
「順調ですよ。作戦成功の暁には、彼らが各地で蜂起を起こす手筈です」
「作戦は魔法使いが実行するんだろう?信用出来るのかね?あの腐れどもはただの底辺労働者階級、軍隊でも兵卒が精一杯だろうに」
海軍大臣が陸軍大臣に対して嫌味を吐いた。海軍畑出身の彼は、内戦で魔法使いの脅威を一度も味わっていない。
というより、当時海軍の出る幕がなかったのだ。
この男によって、海軍所属の魔法使いの人事命令は大きく歪んだものとなっていた。さらに言えば、ネボガトフ提督とも確執があった。
「……何はともあれ、彼らに期待するしかない、か。クレセント・コマンドに、シルバー・バレットの血を引く彼女に」
──1918年 5月21日 深夜 大マウロ人民帝国 帝都南部灯台
「動くな!!」
思い切りドアを蹴飛ばしたマキナが散弾銃を握りしめて突入した。
「は、はあ?!」
彼女の大きな声が虚しく木霊した。
「マキナ、状況は?」
ダイヤルからサーシャの声が響く。マキナはそれを口元の近くまで持っていくと、
「誰もいません!」
と答えた。マキナの分隊は灯台の核となるスポットライトのある大きな空間へと来ていたのだ。
「冷めた茶と、食べかけのドーナツ…」
会話の始終を聞いていたミコが、風を切りながらダイヤルに向かって話しかける。
「サーシャ、そっちにも何も無いようならマキナと合流して。第二段階に入るんだ」
ミコは灯台攻略組には参加していない。
彼女はクレセント・コマンドをふたつに分けた。ミコの役割は灯台に向かうのではなく、その先の帝都への進路確保だった。
サーシャとマキナが灯台の無力化を完了させて、ミコの確保した安全なルートでもって合流し帝都へ向かう手筈だ。
「よし」
とミコが呟くと、曹長に別働隊を迎えに向かわせた。そして懐から小さな双眼鏡を取り出すと、人民帝国の街並みをそのレンズに収めた。
(あのとんがった屋根の建物から西に2軒……あの家?)
彼女は目当てのものを見つけた。
「ミコ、始めるよ。終わったらすぐにそっちに向かう」
ダイヤルからサーシャの声が届く。流石、軍学校でピカイチの座学の成績を誇っただけあってこの手の仕事ははやい。
──1918年 5月21日 深夜 ナキヤ海 ADIS旗艦 荒波
「クレセント・コマンドから通信!」
アドレナリンが分泌していることを感じさせる大声で通信士は叫んだ。
「こっちに繋げ─こちら荒波。通信を掛けてきたってことは、そっちの準備が出来たということか?」
「はい。灯台は制圧済みです」
「わかった」
グレゴリオ艦長は一旦会話を切ると、艦隊に新しい航路を示した。
「取舵!灯台に近づく進路を取れ」
しばらくしてから艦隊は十分に人民帝国の領地に近づいた。位置関係としては港に対して崖を挟んでいる状態だ。
「ビリデルリング、用意はいいか」
「はっ!」
シャナは緊張しながら敬礼した。今日の初仕事だ。
持ち場に着いたシャナはレシーバーを両手に持ち、片方ずつ話しかけた。
「榴弾装填!仰角目いっぱい上げろ!─サーシャさん、湾内に艦はどれぐらいいますか?」
脇では後続の各艦へ命令を伝達している声が聞こえる。小さくノイズが入ってから、サーシャ・コンドラチェンコの声が聞こえた。
「仮装巡洋艦と水雷艇が合わせて十隻ほどです」
やっぱりそうか。とシャナは心の中で呟いた。人民帝国はこの間の海戦で巡洋艦も駆逐艦も大量に喪っているんだ。残りもきっと、陽動艦隊に釣られて出ていったんだ。
「あと、大きな箱のような艦も一隻あります」
「!!」
艦内に緊張が走る。ワイバーンを海上から自在に放つ、移動する竜の巣。あの時仕留められなかった最後の一隻がここにいる。
「『サヴァージ級翼竜母艦』……!」
シャナは口を歪ませながら呟いた。彼女は先日の海戦で捉えた捕虜からその名称を把握していた。
「ありがとうございます。これから試射を行いますので、もう少しだけ協力を願います」
「まさか出撃せずに港にいるとはな」
「ええ」
グレゴリオ艦長はシャナに言葉をかけた。2人とも短い会話だったが、言葉に出さずとも意志は一致していた。
(あの船を潰す。)
既に地点のデータは貰っている。シャナは大きく息を吸って叫んだ。
「───────打てっ!」
──1918年 5月21日 深夜 大マウロ人民帝国 帝都上空
人民帝国の根幹である『皇帝』の血筋を引くシャルロット・パーシヴァルは、その部下たちと共にワイバーンで空を飛んでいた。
「お嬢様ァ!!あれを!」
彼女の副官であるじいやが空気を切り裂くように叫んだ。
「っっっ!」
彼女の目にはおぞましいものが映った。港の中の水上に浮かぶものは船であれ桟橋であれすべてがめちゃくちゃに燃えている。
シャルロットは怒りで身体を震わせた。辺りに急に雷雲が立ち込み始めた。
「竜母の甲板が火の海だ!」
「見ろ!豊富省が……!」
部下の一人が指さした先の大きな建物が破裂するように爆発した。黒煙が立ち込めて見えないが、恐らく基礎を残して崩壊しているだろう。
「!?お嬢様!」
シャルロットは矢のように、さらに上空へ飛んだ。
「あれか!」
沖の方に軍艦が四隻いた。灯台があるはずのオタモイ山を超えて砲弾が次々に打ち込まれている。
「お嬢様、どうされますか!?」
じいやも上へと昇り並んだ。シャルロットはわなわなと身体を震わせている。
「じいや、ここにいる翼竜空挺隊を率いて
「お嬢様はどうされるのですか!」
じいやからの問いかけに対して、シャルロットはしばらくを瞑っていた。彼女の持つ魔導書だけが薄く緑色に発光しながらパラパラとめくれている。
「ネズミが入り込んでる。
そう言うと今度は地上へ向けて急降下した。
(さすが、お嬢様は感情に振り回されず冷静な判断が出来る。そして圧倒的カリスマ性……やはり、王の器ですよ。貴女は。)
──1918年 5月21日 深夜 大マウロ人民帝国 帝都
続く。
斜陽の魔法 旭日の産業革命 テラ生まれのT @schlieffen_1919
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