第41話

そんな気がしてならなかった。


しかしいくら考えても、それがなんなのかは思い浮かばなかったのだが。


そしてお昼に学食に行った。


するとけっこう離れたところから、熊田がすたすたと少し小走りでこちらにやって来るのが見えた。


熊田の視線は俺ではなくて俺のすぐ右、つまりミキがいるあたりに注がれていた。


そしてその目、その顔は恐ろしく真剣だった。


――しまった。熊田のことを忘れてた。なにか肝心なことを忘れていたような気がしてたが、熊田のことだったんだ。失敗した。


熊田の視線、そして表情から判断して、もうミキを見つけてしまっているのは間違いない。


今さら逃げても駄目だろう。


俺は熊田に「おまえに女の子の幽霊が憑いているぞ」と言われたときに備えて、短い時間でありとあらゆる言い訳を考えていた。


そのうちに熊田がすぐそばまで来た。


――なに、あの人? じっとわたしを見ているわ。なんだか怖い。


ミキが言った。俺は慌てて返した。


――今はとりあえず黙っていてくれ。


――えっ? わっ、わかったわ。


熊田は俺の右側をにらみつけながら、俺のすぐ前に立った。


そして俺の耳元に顔を近づけると、小さな声で言った。


「おい、おまえのすぐ右に、女装した太ったおっさんの幽霊がいるぞ」と。



       終

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一人暮らしだけど一人暮らしじゃない ツヨシ @kunkunkonkon

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