第5話 興味ないワ
「・・・ふぅ、一人で行動するのも久しぶりね」
高台から周囲を見回すシルビア。良く晴れた空、風がサラリと頬を撫でる。
見下ろすと、マリアの依頼により反乱軍を駆逐した国が広がっていた。「国を寄越せ」なんてマリアには言ったが、シルビアは国を治める気なんてサラサラ無かったのだ。
先ほどのやりとりを思い出す。
◇
「さて・・・取りあえずこの国を貰った訳だけど、政治をするのも面倒くさいから、マリアちゃん、アナタに国を貸してア・ゲ・ル」
「・・・・・・確かに私は王族ですから、多少なりとも国を治める知識は持っています・・・・・・ではシルビアさん、アナタは何が望みですか?」
最初から国を治める気が無いのならば、何故国を欲したのだろう?
「ふふ・・・怖い顔してる。別に取って喰いやしないワよ。アタシの望みは至ってシンプル・・・そして俗物的なものよ」
「それは?」
ゴクリとツバを飲み込むマリア。そしてシルビアが要求したのは・・・・・・。
◇
「奇襲するのなら、もう少し上手く殺気を隠したほうが良かったワね」
背後から振り下ろされた刃の一撃を、シルビアは視認もせずに掌ではたき落とす。シルビアの剛力により剣の腹を叩かれた襲撃者は、あまりの衝撃に武器を取り落としてしまった。
振り返ると、その先にいたのは、およそ戦闘とは縁の無さそうな、薄汚れた身なりをしたガリガリの男。観念したかのように項垂れながら、それでも両目はキツくシルビアを睨み付けている。
「殺すなら殺せ!! ミラー郷が死んだ今、この国に未来なんて無いのだからな!!」
「・・・王族に恨みでもあるの?」
シルビアの問いかけに、男は狂ったように笑い出す。
「そんな事も知らずに第三王女の手助けをしたのか!! ハハッ、よそ者がとんだ余計なことを・・・あの国の王家は腐っている・・・国の未来を憂いて行動して下さったのがミラー郷だ。王家が何をしてきたのか、教えてやろうか?」
歯を剥き出しにして威嚇をする男に、しかしシルビアは冷静に返した。
「興味ないワ」
「・・・なんだって?」
呆けた様子の男に、シルビアは近寄ってデコピンを喰らわす。
あまりの痛さに悶絶する男を尻目に、シルビアは冷酷な一言を言い放つ。
「アンタたちの事情なんて知ったこっちゃないノヨ。アタシは自分の利益の為に行動しただけ・・・別に正義の味方でも何でも無いワ」
そして地面でへたり込んでいる男に、しゃがみ込んで目線の高さを合わせるシルビア。視線に圧をかけて、男を睨み付ける。
百戦錬磨の戦士の圧力に・・・しかし、男は目線を逸らすことなくにらみ返してきた。
「・・・いいワね。アタシはシルビア、アンタの名前は?」
「・・・・・・ゴードンだ。殺すのなら殺せ」
「お断りするワ。・・・ゴードン、アタシが許せないのなら殺しに来なさい。いつでも、相手になるワ」
そしてもう一度デコピンをすると、シルビアは高笑いをして高台から飛び降りた。
デコピンの痛みに顔をしかめながら、ゴードンはシルビアが飛び降りた先を見下ろすが、すでにその姿は無く、ただ忌まわしき祖国と、それを取り囲む森林が広がっているばかり。
「・・・いいだろう。いずれ貴様を殺しに行く、だがまずはクソッタレな王家が先だ・・・・・・ミラー郷の意志は、このゴードンが継ぐ」
救世主はドラァググイーン ~世界を救ってもカマわないかしら?~ 武田コウ @ruku13
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