第4話 蹂躙

  国を落とし、城に立てこもった裏切り者の貴族達。奇襲とはいえ、一国を落とすほどの戦力を相手に、こちらの戦力はいささか数が心許なく思えた。


 しかし数分後、マリアは自分がシルビアという人物を侮っていた事を悟る。


 それは一方的な暴力。


 あるいは圧倒的な侵略。


 蹂躙。


 籠城する貴族達に対する、シルビアの解答は至ってシンプルだった。


「はいはい、ちょっと通るわヨ!」


 強固な城の門を、思い切り蹴飛ばすシルビア。


 鉄製の城門は、シルビアの常識外れな怪力によって無惨に破壊された。


 鳴り響く轟音と供に崩れる城門。呆気にとられた様子の敵兵達の姿を見て、マリアは胸がすくような心地がしたのだった。


 殴る


 蹴る


 踏みつける


 投げ飛ばす


 桁外れの膂力に任せた、ただの暴力。山の主、シルビアは敵兵の中を、無人の野を行くがごとく突き進む。


 目指すは敵の首領、裏切り者の貴族、リーシュ・ミラーのもとへ・・・。








「お逃げ下さい閣下!! もう敵はすぐ側まで来ています!」


 慌てた様子の兵を見て、裏切りの貴族、リーシュ・ミラー郷はギリリと歯ぎしりをした。長きに渡って入念に準備をしてきたこの暴動・・・作戦は完璧だった。現に国は驚くほど容易く墜ち、憎き王族は一人残らず惨殺した。


 ・・・そう、思っていた。


「・・・・・・侵入者の中に第三王女の姿があったというのは事実か?」


 震える声でそう問いかけると、兵は厳かな表情で頷いた。


「くそっ・・・仕留め損なったにしても反撃が早すぎる。おのれ王族の血め、どこまで私を苦しめる気だ」


 ミラー郷が苦々しげに呟いた次の瞬間、部屋のドアが外側から破壊される。


 蹴り上げた足をゆっくりと降ろす進入者。ドアの木片がパラパラと床に落ちる。


 それは彼が初めて見る人種であった。


 鍛え上げられた肉体を包む扇情的な衣装。顔に厚く塗り込まれた化粧で、もはや元の顔を伺い知ることはできない。


 異端。


 あまりにも異常なその人物は、背後にゾロゾロと取り巻きを引き連れて入室してくる。その取り巻きの中に確かに第三王女の姿を見つけて、ミラー郷は小さく舌打ちをした。


「アンタが親玉?」


「・・・いかにも。もっとも君と違って私には直接的な戦闘能力はない・・・もうこんな状況になってしまっては、ただ反乱をしくじってしまっただけの情けない貴族だよ」


 半ば諦めたようにそう言ったミラー郷は、それでも腰の剣をするりと引き抜いた。


「あらヤル気? 大人しく投降したら命だけは助けてあげるワよ?」


 侵入者・・・シルビアの言葉に、ミラー郷は静かに首を横に振った。


「情けは受けない。私は信念を持ってこの反乱を起こした・・・それが間違っていたとも思っていない。そも、反乱を起こした時から命を捨てる覚悟は出来ているのだから」


 そんなミラー郷の言葉に、彼を警護していた兵も覚悟を決めたように剣を構え、ミラー郷を守るように、シルビアの前に立ちふさがった。


「・・・素敵だワ。覚悟を決めた漢の顔してる」


 そんな二人の様子を見て、満足そうに微笑んだシルビア。取り巻きの一人に目配せをすると、取り巻きの男は抱えていた身の丈ほどもある包みをシルビアに手渡した。


 シルビアは布をほどき、包まれていたモノを顕わにする。


 黒金色に鈍い光を放つ、身の丈ほどの大刀。何の装飾も施されていないシンプルな造形、肉厚の片刃が見る者を威圧する。


「本当は適当にひねり潰すつもりだったんだけと・・・その覚悟に敬意を表して、アタシのとっておきで相手して、ア・ゲ・ル!」


 そしてシルビアは、身の丈ほどもあるソレを軽々と片手で振り回した。彼の尋常ならざる膂力がなせる技。そのあまりにも現実離れした光景に、ミラー郷と兵士はごくりと生唾を飲み込んだ。


「行くワよ!」


 掛け声と供に大きく踏み込んだシルビア。ミラー郷と兵士は剣を構え・・・・・・。












「終わったワヨ、マリアちゃん。これで満足かしら?」


 大刀に付着した血液を払いながら、シルビアは取り巻きと供についてきたマリアに問いかける。


「・・・・・・はい、これで国を取り戻す事ができました」


 こうしてマリアの敵討ちは、呆気なく終焉を迎えた。


 国を取り戻すために国を売った・・・その選択が正解だったのかは、まだ誰にもわからないのだけれど。




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