2013年【西野ナツキ】61 自力を諦めることが『自然』。
大介は年齢にそぐわない落ち着いたところがあったんだ。
そういう部分に僕は密かに憧れていた。ある時、大介が言ったんだ。
「俺は親父のことが苦手なんだよ」
父のことを尊敬している僕からすると、意外な言葉だったから印象的だった。
「どうして」と、僕は尋ねた。
「自然(しぜん)って字があんじゃん? あれ、実は自然(じねん)って読むらしいんだよ。で、意味は『しからしむ(そうなる)』。自力を諦めることが『自然』なんだそうだ」
大介が言いたいことが理解できず、当時の僕は口を噤んでいるだけだった。
彼はそんな僕に構わず続けた。
「親父は諦めた人なんだよ。過去の自分が望んだもの全部、諦めて自然でいることを受け入れた人。でもよぉ、そんなお利口に自分の望んだもんを俺は諦めきれねぇんだよ」
つまりだ、と大介が言う。
「夢を追いかける、望んだものを得るっつーのは、自然に逆らう行為なんだよ。そして、才能っつーのは自分自身をコントロールすること。『しからしむ(そうなる)』に抗うことでもあんだよ」
「才能は自分をコントロールすることなの?」
「努力っつー方が分かり易いかもな。才能ってのは努力できるってことなんだよ。少なくとも俺にとっては。だから、やる気を失えば、才能は自然と消える」
「大介のお父さんは、何を諦めたんだろう?」
その問いに大介は答えてくれなかった。
ただ、その時の会話は僕にとって大きな意味をもった。当時の僕は父の仕事を自分もしたいと思っていたから、環境によって自分の進路を決めていた。
けれど、大介の考えからすれば、それが才能となる訳ではなかった。
才能が努力できるものであるのなら、それは僕が自発的にし続けなければならない事柄だ。
僕が父から学べるのは、どうすればリフォーム業の職に就けるのか、という道筋だけだった。その上で、自分が何をしたいのか、どのようなものを才能とするのかは僕自身で選ばなければならなかった。
自分で言うのも変な話しだけれど、僕は少し傲慢なところがあった。
学校の勉強なんかをしながら、才能のことを考えると、自分が吸収したもの全てを何かに役立てたいと思った。
この世界に無駄なものなどないのだから、全部を選べばいい。
今でこそ、笑ってしまう考えだけれど、当時の僕は本気で自分が受信する全ての情報を無駄にしないように行動をはじめた。
当然、そんな行動は破綻して然るべきだが、その傲慢さによって僕が得られたのは学校の成績だった。
僕は類を見ない優秀な生徒として、周囲から扱われた。実際は僕の半分くらいの成績を収めている大介の方がずっと優秀なのに、なんて思いながら、僕は学生生活を送った。
大介ともう一人の友人の三人で学生時代はよくつるんでいてね。
今思い返しても、楽しい日々だったよ。
勉強が苦じゃない僕は大学受験も第一志望に合格して、大学で存分に勉強に精を出したよ。
リフォーム、建築に関しては経験学なんだ。
だから、多くの家や神社やビルなんかに足を運んだ。
そこで僕が学びたかったのはデザイン力だった。内装でも家具や色によって空間丸ごとを変えるような力が、デザインにはあると思っていた。
実際、大学を卒業して父の会社に入社した後、大学で身につけたデザイン力は武器になった。
父も僕のデザイン力を認めてくれて、入社一年目にしてウェストフォームの支店の一つを任せてくれた。
その支店の一つで初めて任された仕事先の息子さんが、川田元幸くんだった。
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