2013年【西野ナツキ】60 この世界に変わらないものはない。
ウェストフォームという、リフォーム会社を知っているかな?
多分、川田元幸の知識としてはあると思うんだけど、そこの社長、西野正嗣の息子として、僕は生まれたんだ。
小さい頃は、まだウェストフォームも小さくて、社員も数える程度しかいなくてね。だから、僕もよく現場に連れて行ってもらったりしたんだよ。
父は厳しい人でね。幼い頃はよく父に叱られたものだが、怖いと思ったことはなかった。
それは現場の父を知っているからだった。現場にいる父は恰好良かった。
家というのは一つとして同じものはないんだ。外観が一緒でも、住んでいる人や土地の場所によって本当に違って見える。
当時の僕は家をまるで一つの大きな生き物のように思っていて、その生き物の治療やコーティングをしているのが父だった。
変な想像かな?
でも、当時の僕は結構真剣にそう考えていて、生き物のような家を扱う父に尊敬の念を抱いていた。
そんな父がある時に言ったんだ。
この世界に変わらないものはない、と。僕はそれに大いに納得した。
世界の全てが生き物だと思った訳ではないけれど、生き物が満たす世界は常に変化していることを漠然と理解していた。
もちろん、厳密に言えば変わらないものがある。
いや、変わってはいけないもの、と言うべきかな。
それは例えば、ルールだ。
変化は必ずあることを父は知っているからこそ、仕事や家庭におけるルールをしっかりと定める人だった。父のルールを守る以上、僕も妹も叱られることはなかった。
諭すことや、注意することはあったけど、決して叱りはしなかった。
僕は父のルールの範囲内でリフォームという作業の工程を眺めた。
さっきも言ったけれど、家が生き物に見えている僕からすれば、リフォーム内容にも一つとして同じ作業には見えなかった。
仮に一緒の工程であっても、完成した後、家はこれまでとは違う表情を僕に見せた。
同じ服であっても着る人によって、印象がまったく違うのと似ているかも知れない。
僕はそのようにしてリフォームという作業に魅了されていった。
すると当然、自分でもしてみたい要求が強くなっていった。
けれど、ルールを厳守する父が、身内であるという理由で子共である僕に作業の一端を担わせてくれるとは思えなかった。
そうした時、山本義男先生の家のリフォームの仕事が入ったんだ。
僕が小学五年生頃のことかな。そこで先生と顔見知りになって、彼の息子の大介を紹介されたんだ。
大介は僕と同い年でね、すぐ仲良くなったよ。
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