2013年【西野ナツキ】50 君の力になろうと思って、私がここにいる。
「山本さんって、勇次くんのこと知っていましたっけ?」
さっきの物言いは知人に対するそれだった。
「ん? 勇次くんが訪ねてきた時に私も居たじゃないか?」
いましたっけ?
とぼくが疑問符を浮かべると、山本がポケットから清涼菓子を取り出し、何粒かを取り出して口に入れる。
「まぁ白状すると私は立場上、知っていたんだよ。ここに居る連中の何人かも知っているよ」
「どうしてですか?」
その、どうしてには色んな意味が含まれていた。
どうして、黙っていたのか。
もしくは、どうして今になって言う気になったのか。
「どうしてだろうね。考えてみなさい。宿題だ。何にしてもだ、ナツキくん」
「はい」
「今まで私が言ったことは、私の心の底からの本音だし。君の力になろうと思って、私がここにいるのも本当だ」
ぼくは少し考えてみたが、答えは変わらなかった。
「山本さんがぼくの味方で居てくれることを疑っていません」
「それは良かった。で、これからどうするんだい?」
二階へ通じる階段を見つめる。
「勇次くんが、あの場へ行った以上、何かは起きます。その何かを待ちます」
「確認だ、ナツキくん。君はあくまで田宮くんの友人として振る舞うんだね?」
「やくざとの交渉の時はそうです」
「分かった」
と、山本が頷いた瞬間。
乾いた破裂音が響いた。
それに続くように甲高い音が続く。
遅れてそれが、ガラスの割れる音だと気づく。
更に、男の怒鳴り声が重なり、一階にいたやくざが二階へと向かう。
荒々しい足音と怒鳴り合いが聞こえる中、ぼくは店員を呼んでお会計を済ませた。
おつりを店員が持ってくるのと同時に階段から人が下りてきはじめた。
殆どの人間が怒りや戸惑いの表情を浮かべていて、何かがあったことは明白だった。
彼らの中に勇次や守田の姿はなかった。
破裂音が銃から放たれた発砲音だったのだとすれば、彼らはもしかすると撃たれたのだろうか?
だとしたら、二階には死体が転がっていることになる。
いや、破裂音は一回だった。
撃たれていてもどちらかは残っているはずだ。
しかし、下りてくる人間の顔に彼らがいない、ということは逃げたと考える方が妥当だ。
ガラスの割れた音から、窓から逃げたのだろうか? そういえば、近くに川があった。そこに飛び降りたのか……。
待て、とぼくは思う。
もしだ。
勇次が銃を持っていて、田宮由紀夫を撃って殺して逃げていたら、どうする?
田宮由紀夫が死んでいれば、片岡潤之助の頼みは達成できない。川田元幸の行方は分からないままだ。
それだけは――。
と、思った瞬間、松葉づえをつきながら階段を下りる田宮由紀夫の顔が見えた。
どこか不機嫌そうな彼の表情を見て、ぼくはほっとした。
後はタイミングだ。田宮由紀夫の周囲には二人、いかにもな男がボディガードとしてついている。
面倒だが、仕方ない。
階段を最後まで下りきったのを見計らって、ぼくは田宮の斜め前に立って手をあげた。
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