2013年【西野ナツキ】40 祈れよ、西野ナツキ。

「さて、ナツキくん。もう分かるな?」


 潤之助の声は変わらず落ち着いたものだったが、目の奥には隠しきれない苛立ちが込み上げていた。


「田宮由紀夫が撮った、鶴子の土下座動画を取って来い。そうすれば、知りたいことは何でも教えてやる」


「鶴子さんを大切にしているんですね」

 最初の感想はそれだった。


 潤之助は新しい煙草を咥え、火を点けてから言った。

「俺が抱いた女を侮辱するヤツは誰であれ地獄を見せる、男として当たり前のことだろ?」


 紗雪の話を聞いた時に分かっていた。

 片岡潤之助の在り方は人とは大きく異なっている。


 潤之助の隣に座った女性が、一言「そろそろ」と告げた。

 煙草を指で挟み、潤之助は煙を吐き出して頷いた。


「ナツキくん」

 と言って、中華料理屋の天井を指差した。

「この店には二階があってね、完全予約制の個室になっている。明日、その個室でやくざの会談がおこなわれる。この辺のやくざは少し複雑でね。一つのシマを年ごとに管理し合っているんだ。金の成る木の甘い蜜は皆欲しいからな」


 潤之助はどこか詰まらなそうな表情で続ける。

「その金の成るシマで事故が起きた。田宮由紀夫と川島疾風が起こした事故だ。あくまで田宮由紀夫はやくざの構成員ではない。ただ、川島疾風。彼がややグレーな立場にいた。以前、やくざの仕事を手伝っていた程度のことだが、まぁ内情なんてのはどーでもいい。グレーである以上は問題だ。そんな訳で、やくざたちは話し合いの場を設けなければならなくなった」


「その会談に田宮が来るんですか?」


「まぁ当事者だ。死んでなければ来るだろうよ」

 言った瞬間、潤之助は口元だけの乾いた笑みを浮かべた。


「祈れよ、西野ナツキ。明日、田宮由紀夫が来なければ、君が知りたかったことは一生分からないままだ」


「分かりました」

 それ以外、言葉はなかった。

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