2013年【西野ナツキ】37 記憶を取り戻せば解決する問題。
片岡潤之助。
それが紗雪の父の名前だった。
潤之助と会う日は勇次がぼくの病室を訪ねてから三日後だった。
その三日間、ぼくは町に出て田宮由紀夫を探したが手掛かりは何もなかった。
朱美と会った喫茶店『コーヒーショップ・香』の店員、守田と顔見知りになったくらいの成果しかなかった。
「ナツキさんって、記憶喪失なんっすよね?」
喫茶店で遅めのランチを食べている時だった。客はぼくしかおらず、暇を持て余した守田が隣に座って話しかけてきた。
「そうだよ」
「じゃあ、女の子とエロいことをしても覚えていないんですよね? 勿体ねぇ」
相変わらず、話のチョイスは女の子だった。
山本と言い、守田と言い、女の子を追っかけるくらいしかすることがないのだろうか?
「あぁでも、記憶喪失って女の子に言うと口説く時に便利そうですよね? なんつーか、この人あたしが居ないとダメって思ってもらいやすいっつーか」
「そうかな? 守田くんはいないの? 守田くんが居ないとダメって思ってくれる人?」
守田が考え込むように腕を組む。
「うーん。男しか浮かんでこねぇーっすわ。それも、とっびっきり厄介な」
「友達ってこと?」
ぼくの問いに、守田がやや照れ臭そうに視線を逸らした。
「友達っつーか、相方って感じっすね」
「へぇ」
と頷いている間に、扉が開く音がして守田が「いらっしゃいませ」と言ってカウンターから離れた。
ぼくは守田の仕事ぶりを目で追った後にお冷を飲んで、頭のスイッチを切り替える。
現状、ぼくが抱えている問題は二つだった。
中谷優子、川島疾風の行方を知る為の田宮由紀夫探し。
西野ナツキが知っているという、紗雪の兄、川田元幸の行方探し。
どちらも、ぼくが記憶を取り戻せば解決する問題だった。
が、記憶を失って二十日に届きそうな現在にあって、過去の記憶がふと頭を過る予感さえなかった。
つまりぼくは、過去の記憶に頼らず田宮由紀夫と川田元幸を探さなければならなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます