2013年【西野ナツキ】36 「オレ、お前のこと嫌いだわ」

「オレ、お前のこと嫌いだわ。なんか、知らねぇけど。勝手に責任取れる気になってんじゃねーぞ。お前にそんな価値はねぇよ」


「その通りですけど。疑わしきは罰するって考え方もありますし」


「それを言うなら、疑わしきは罰せず、だろ? お前、オレよりもバカってやばいぞ?」


「記憶喪失ですからね」

 言って、ぼくは笑った。


「あ? なに、お前? それを楯にすりゃあ誰もが納得すると思うなよ」

 言って、勇次がぼくの胸倉を掴んだ。

「記憶が戻って、お前が関与してるって分かったら、しっかり殴ってやるよ」

  というか、と勇次が微かに笑った。

「その時は覚悟しろよ」


 真っ直ぐな勇次の目を見て、ぼくは頷いた。

「分かりました」


 よし、と勇次は満足すると胸倉を放し、有の方を見て

「じゃあ、監督。オレ、行くわ」と言った。


「うん。僕の方でも色々あたってみるね」


「あー悪い。頼むわ」


 と言う二人のやり取りを前に、対等な関係性が透けて見えて、ぼくは何となく羨ましい気持ちになった。

 だからだろうか、後から聞こうと思っていた疑問が口をついた。


「ちなみに、勇次くん。どーして、有くんが監督なの?」


「ん?」

 と、勇次が疑問符を浮かべる。


 あ、呼び名が自然過ぎて、何の違和感もないパターンだ、これ。

 そんな勇次をフォローするように、有が口を開いた。


「僕が勇次くんが属している部活に入れてもらっているんだ。もちろん、僕は勇次くんの通う高校の生徒って訳じゃないから、マスコット的な立ち位置ってことで、監督なんだけど」


 なるほど、とぼくが頷きかけて勇次が否定する。

「ちげーって、監督。マスコットじゃなくて、アドバイザー? みたいな立ち位置だっつーの、監督なんだから」


「そうだったね」

 と有がくすぐったそうに頷いた。


 有のちょっとレアな表情を見た気がしたが、それよりも気になったことが口をついた。


「勇次くんって、高校生なの?」


「は? お前、それどーいう意味?」


 と勇次がぼくを睨んだ。

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