2013年【西野ナツキ】15 全てが二週間前に集約される。
田宮由紀夫。
それがかの子の兄の名前だった。
そして、彼らの父親が属する組の名前は「田宮組」。
かの子の父は組長だった。
話を聞いてみると、かの子はぼくのことを何も知らないようだった。
「んー、一ヶ月くらい前にうちに来たのと、町中で見かけた時にいたのを見ただけだからね。詳しくは分からないわね」
「ならさ、そのお兄さんと会わせてもらえないかな?」
「お兄様と? 勝手に会えば良いじゃない……って、そっか。今、お兄様はあいさつ回り中だったわね」
「あいさつ回り?」
「いずれは田宮組を継ぐんだからって、お父様と一緒に直系の組に顔を見せをしているとかって、お母様が言ってわ」
「ん? ということは、ぼくもやくざの組員ってことになるの?」
いずれ田宮組を継ぐ田宮由紀夫のパシリがぼくなのだから。
普通に考えれば、そういうことになる。
とても残念なことに。
しかし、かの子はそれをあっさりと否定した。
「違うんじゃない? お兄様も組を継ぐ意思はあるようだけれど、まだ杯は交わしていないわ。だから、お兄様はやくざじゃないの」
「それでも将来、組を継ぐんだよね?」
「そーよ。ほら、やくざじゃない方ができることってあるじゃない?」
おおよそ小学生の女の子とは思えない物言いに、ぼくは薄ら寒いものを感じた。
が、それはあえて無視して話を戻す。
「じゃあ岩田屋町に、お兄さんはいないの?」
「うん」
かの子が頷いて、ぼくは絶望的な気持ちになった。
「なら、かの子ちゃん。お兄さんの連絡先を教えてくれない?」
「どうして? あんた、パシリだったんだから知ってるでしょ?」
「ちょっと色々あって、携帯が壊れちゃってさ」
「へぇ、奇遇ね。お兄様も携帯が壊れたとかで、今は連絡が取れないのよ。お父様いわく元気ってお話しだけれど」
奇遇? そんな訳ない。
ぼくの記憶喪失とかの子の兄、由紀夫は何かしらの関係がある。
「ちなみに、そのあいさつ回りはいつから、やっているの?」
「えーと、そうね。……二週間前くらいかしらね」
ぼくの記憶喪失、川島疾風の行方不明、田宮由紀夫のあいさつ回り、それが全て二週間前に集約される。
その日に何かがあった。
「かの子ちゃん。その二週間前に何かあったか、覚えていない?」
「さっきから、何なのよ。あんた」
いぶかしげな視線をかの子がぼくに投げかけるが、無視する。
ようやく掴んだ手掛かりだ。多少強引にでも踏みこむ。
「大事なことなんです」
「それは、あんたにとって?」
「かの子ちゃんのお兄さんにとっても。あいさつ回りをしているって言っても、かの子ちゃんはそれを確認できている訳じゃないでしょ?」
川島疾風が行方不明になっている以上、田宮由紀夫もまた同じ状況に陥っていないとは言い切れなかった。
そして、その場合、田宮組組長が家族に黙っておかなければならない類の事情が絡んでいると考えるべきだった。
それが何か、具体的には分からないけれど。
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