2013年【西野ナツキ】08 他人を通して死者を見る。
「あ、ぼくは知らない方が、良いことなら」
外に――、
とぼくが続けるよりも前に「いえ」と紗雪が制した。
「ちゃんと、説明します。ただ、あまり人に説明をしたことがないものですから。少し、戸惑ってしまって。大丈夫です、ここに居てください」
「はい」
と、ぼくは頷いた。
朱美は眉を寄せて何か言いたげな表情を浮かべていたが、口は噤んだままだった。
「私には特別な力があります」
言って、彼女はしっかりとぼくの目を見た。「それは、他人を通して死者を『見る』力です」
「見る?」
死者、つまり幽霊が紗雪には見える?
でも、他人を通して?
「少し、正確な言葉ではありませんでしたね」
と、紗雪が申し訳なさそうな表情で訂正した。「私は町中に漂う幽霊は見えませんし、心霊スポットに行って特殊な体験をしたこともありません。気分は悪くなったりはしますけど」
言って、紗雪が僅かに笑った。
たった二回、口を開いただけで紗雪が自分の持った力を良く思っていないことはひしひしと伝わってきた。
紗雪はそこで朱美の方に視線を向けて
「私が『見る』のは、あくまで他人を通しての死者です。その条件は、名前を知っていること。例えば、朱美ちゃんが名前を知っていて、亡くなっている人を思い浮かべてくれれば、私はその死者を『見る』ことができます」と言った。
「例えば、小学三年生の時に担任のを池田先生、とかだね」
からかうような声で朱美が言った。
「下の名前は?」
「え?」
「フルネームじゃないと私、見れないからね」
「えーと、しんぞう? しんざぶろう? そんな古めかしい感じだった気が、」
朱美が誤魔化すように笑った。
「それだと、ほんのちょっと見えるかどうかかな」
紗雪も釣られるように笑って「それと、もう一つ」と続ける。
「私は死者と『会う』こともできるんです」
「会う?」
「もちろん、こちらも他人を通してです。そして、会える死者は限られています。その死者が生前深く関わり合っていた人物。背後霊、守護霊とニュアンスは一緒だと思ってもらって構いません。死者が憑いている人は『見る』んじゃなく『会う』ことが私にはできるんです」
浮かんだ疑問をとくに考えもなく口にした。
「会うって言うのは、どういうことなんだろ? 触れ合ったり、話をしたりすることができるってこと?」
「できます。時間にリミットはありますし、触れ合う感触も現実とは違いますけど」
「すごい」
素直な感想だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます