2013年【西野ナツキ】07 遥というのが朱美の娘の名前。
久我家は神社を下りた駐車場の奥に一軒家だった。
隣接した家もあり
「あちらにも久我家の方が住んでいるんですか?」と尋ねた。
「よその家」
と朱美が口もとを緩めた。
「まぁ、御近所付き合いはよくしているから家族みたいって言えば、そーかもね」
「なるほど?」
玄関に入って、すぐに傘立てが目に止まった。
普段見る傘よりも小さめでピンク色の取っ手の可愛らしい傘を前に、とくに考えもなく口を開いた。
「お子さんがいらっしゃるんですね」
「そーだよ。私の子」
朱美があっさりと答えた。
人は見かけによらないなぁ、と思いつつ靴を脱いだ。
居間に通されると中央に大き目のテーブルがあった。
その周囲には座布団が綺麗に並べられていて、そこにぼくと紗雪は並んで座った。
朱美がお茶を取りにキッチンへ引っ込んだ。
「ちなみにですけど」
と紗雪が言った。「朱美さんの年齢で、遥ちゃんくらい大きな子がいるのは、普通じゃないですから。特別です」
「そうなの?」
遥というのが朱美の娘の名前らしい。
「はい」
と紗雪がしっかりと頷くので、ぼくはよく分からず頷き返した。
ふと、戸棚等に目を走らせると、そこには家族写真があった。
朱美はすぐに見つかった。
そして、その隣に十歳に届かないくらいの女の子がピースサインをしているのが分かった。
朱美の見た目は大学生か二十代前半だ。
その彼女に十歳くらいの娘がいる。
紗雪の言う通り、それは普通ではないことなのだろうが、深く事情を尋ねる前に朱美が戻ってきた。
手には紅茶のポットと人数分のカップ、クッキーやチョコレートの入った菓子器の乗ったお盆があった。
「常備しているお菓子で悪いんだけど、お茶請けにして」
「ありがとうございます」
とぼくは頭を下げた。
それから紗雪と朱美の他愛のない会話を聞きつつ、ぼくは出された紅茶を飲んだ。
紅茶とクッキーは町を歩き回って疲れた体には染み込むような美味さがあった。
十五分ほどが経って、話が一段落して紗雪が本題を口にした。
「それで、朱美ちゃんが『見て』ほしいって言うのは珍しいよね。というか、初めてじゃない?」
「うん。正直、紗雪ちゃんに頼るのには抵抗があるんだけど。でも、そうも言ってられない状況っぽくてね」
「その状況って?」
紗雪が言った時、ふと隣のぼくを見た。
その視線に釣られて朱美もぼくを見た。
「あ、西野くん。紗雪ちゃんの力、知らないの?」
朱美に言われて、ぼくは首を傾げる。
「紗雪、さん、のちから?」
そこで、ぼくと紗雪の視線がぶつかった。
紗雪の表情には間違いようのない困惑の色が混ざっていた。
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