第9話 宣戦布告 中編

 悠奈が婚約者だと周知することは悠奈を護る為だけではなくアスリを護る意味も含まれているが現時点で話すべきではないと判断した。それに幾つかの疑問や不安要素がある。神界遊戯において神を倒すことは可能で敗北した神は神玉を失い神界へと帰る。なら敗北した神に仕えているプレーヤーはどうなるのだろうか。アスリが敢えて話をしなかったのか知らなかったか分からないしペナルティ的なことは起きず参加資格を失うだけなのかもしれない。話をした時間は少なく全てを聞けたわけではないが重要な事ならアスリが話をしない訳がないと思う。不安を払拭することできないのなら慎重に行動しなければならないし悠奈とアスリを絶対に護りきらなければならない。アスリが倒されれば敗北が確定し悠奈も死ぬ。それだけは避けなければならないからだ。


「これまでに得た情報から判明したことを話す」


 真剣な表情で守護者達を見渡していく。全員が真剣な眼差しを颯斗に返していく。サティナだけ笑顔なのはブリカとの戦闘経験からくる余裕なのか分からないが今はそこに触れない方が賢明な気がする。その後、ブリカとその目的、悠奈が何故この世界に来たのか説明していくとオルファスが確認するように颯斗に話しかける。


「では我々は何らかの戦いに巻き込まれ攻撃を受ける可能背が高く戦いを回避することは不可能。全員死ぬか悠奈様が殺害されれば敗北になるということでしょうか? ただ颯斗様はこれ以外にも何かお気づきになっていらっしゃるのではないでしょうか?」


 オルファス・インシュガルドはデモンロードで冷静で頭もよく知略に長け守護者最強と言われるレイスを越える強大な魔力を持つと言われている。本来ならばレイスと共に後方で指揮を執ってもらいたいのだがオルファスは最前線で指揮を執りたいようで有事の際は先陣を切らせてほしいと懇願されている。オルファスの問いかけに優秀な部下に隠し通すことの難しさを痛感させられた颯斗は目を閉じ帰す言葉を必死に考える。創造主設定として捕え創造主然として言動には気を付けてきたが剥がれやすいメッキで取り繕うよりメッキを自ら剥ぎ自身を磨くことで輝きを増し創造主として王として認められる。ゲームではない現実の世界として生きていかなければならないなら必要な事なんじゃないかという考えにたどり着く。


「さすがオルファスだな。・・・俺が今から話すことを聞いて自分の意志で決め行動してほしい。結果的にここを離れたいと望むなら受け入れるし罰も与えない」


 突然の事に守護者達は困惑した表情で颯斗を見つめている。全員の表情を見渡しながら颯斗はソロプレーヤーに戻るだけだと自分に言い聞かせ話を続ける。


「俺は創造主でもなければ王でもない。弱い人間で知識も乏しい。何らかの理由で俺の基礎能力が皆に分け与えられているだけなんだ。戦いに巻き込まれたのは本当の事だけど最後まで生き残る可能性は低い。よく考えて自分の進む道を決めてほしいと思ってる」


 話し終えると心が軽くなったような気がする。自分を偽っても遅かれ早かれ全員が気がつき落胆し傷つけてしまうのなら今、離れる方が良い。


「興味深いお話ですがこのレイス・フォルスター。颯斗様のご希望に添えません。真実がどうであれ私達を必要とし暗闇から連れ出し命を与えてくださったのは颯斗雅なのです。これも私達が知る真実でございます。困難で厳しく戦いでこの命尽きようとも御傍に。これまで以上の忠義を心を命を御身に捧げることをお許しください。この場を去ることは死と同義。いっそ自害せよとお命じください」


「ソレイユ・ヴォルグ御身と共に」

「ルーナ・ヴォルグ御身と共に」

「ラミアー・スレイク御身と共に」

「サティナ・フォルス御身と共に」

「オルファス・インシュガルド御身と共に」

「カイ・シュベルザー御身と共に」

「オリス・テインスト」御身と共に」

「ミィー・アルフィス御身と共に」


 全員の視線が颯斗に集まる。その目に迷いは一切感じらない。以前より強く繋がりのようなものを感じたその時、颯斗の剣が眩い光を放ち始めると何処からともなく声が聞こえてくる。守護者達には聞こえていないのか真直ぐに颯斗を見つめたまま颯斗の言葉を待っているようだ。


「私は神剣クラリレイス。貴方の剣であり心」


 その声が鉄斎に製作してもらった剣の声でクラリレイスという名前だと不思議なことに確信できる。颯斗がクラリレイスを鞘から抜くと今までに感じたことのない程に巨大で純粋な力の波動を放っているのが分かる。以前感じた霧に包まれているような感覚はなくなり広い大地に一つの芽が芽吹き急速に育っていく。そしてその芽から延びる根から新たな芽が芽吹き成長していくようなイメージが鮮明に浮かび上がり消えていった。


「皆の気持ちはよく分かった。俺は・・・」


 颯斗の話を遮るようにソレイユが颯斗に発言する許可を願い出る。その表情から何か問題が起きたと推測できるがレイスは宰相であり守護者の長であることもあり颯斗が発言する前にソレイユを叱責した。何か起きたことはレイスも感じただろうが立場上どうしても言わなければいけないのだろう。


「ソレイユ。不敬ですよ。だが何か問題が発生したようですね。颯斗様、問題が発生したようです。ソレイユの発言の許可とソレイユの処遇はこのレイスにお預け願えないでしょうか」


「発言を許可するし気にしてないから許してあげてほしい」


「分かりました。ですが罰を与えなければ示しがつきません。颯斗様の意見を考慮して罰を決めたいと思います。ソレイユ話しなさい」


 どうもレイスは仕事のできる超真面目タイプのようで、そのうち言葉遣いが悪いと叱られるんじゃないかと思うと憂鬱になってくる。


「パレムの守護を命じましたシュリスより火急の知らせが。騎士とみられる者達がパレムの村に接近しております。その中に高貴な身分ではないかと思われる者も存在しているそうです」


「王国騎士か」


「確定ではありませんがほぼ間違いないかと」


 村長のグーリットから聞いた話を元に推測するなら放置することも考えられなくもなかった。それでもこれだけ早急に対応したということは腐っているのは王だけの可能性を示唆していることにもなる。平和的交渉で終われば良いのだが王命で動いたのなら過度な期待はできないだろう。


「話し合いで済めばいいけど。村の決断を聞かなければいけないし話し合いなら俺一人で問題ないだろう」


 レイスが軽くため息をつき意味が分からないと言いたげな顔をしているのが颯斗の視界に入る。一人で動こうとするのは長年ソロでプレイしてきた癖みたいなものなのかもしれないが今は違うのだからレイスの気持ちも理解できる。


「申し訳ありませんが却下させていただきます。未知のスキルやアイテム、強さなど不明な点が多く単独行動は危険極まりない事が一点。サティナに結界の解除をしてもらわなければ騎士達は村に近寄ることもできず話し合いになりません」


「じゃあサティナを連れていく。レイス達は不測の事態に備えてくれ」


「ソレイユも同行させます。村に居るシュリスはソレイユが召喚した精霊ですし先程の罰の事もあります。颯斗様が軽い罰にとお望みでしたので今回の警備を申し付けたいのです。これが認められないのであれば軽い罰が思い当たらないので」


(やられた!単独行動させないために狙ってたな)


 今回はレイスの完勝のようだと颯斗はため息つきレイスを見ると爽やかな笑顔を返してくる。男前な上に頭も切れるなんて不公平だと心の中で叫んでみても完全な負け犬の遠吠えにしかならない。いつか越えてやると密かに誓う颯斗だった。


「わ、分かった。サティナとソレイユは俺とパレムへ向かう。その他の者はリュセルフ城にて待機、襲撃された場合の指揮はレイスに任せる。こちらからの攻撃は敵対行動の確認時、リュセルフ城への侵入者の排除に限定する」


 クラレスタ王国との衝突はパレムの村に二択を迫った時点で回避できなかっただろう。それでも戦争へと発展することを極力回避したいと颯斗は考えているがワーカード伯爵の独断なのかクラレスタ王国が派遣したのか現時点では分からない。悪名高いワーカード伯爵でなく王国から派遣されていたほうが何かと都合がいいのだが。






 パレムの村 東の大樹


「これが前伯爵の張った結界ですか。思ったより頑丈そうですね」

「こんな結界とっとと破壊してさ全員殺しちゃおうよ」

「おいおい若い女は残しておけよ」


 結界はパレムの村を中心に東西南北にある大樹を起点に展開されている。前伯爵が村を護るために張った結界は悠奈を追ってきた魔物により破壊され今張られている結界はサティナが張り直した。結界前でフードを被った三人組が強引に結界を破ろうか思案している。サティナが結界を張り直したことを知らない三人は何度か攻撃を繰り返していたが魔法攻撃だけでなく物理攻撃ですら全く効果がないことに焦り始めていた。


「なんなのよ。話と全然違うじゃん」


 前伯爵の結界の強度はパレムの村周辺に出没する魔物の侵入を防ぐ程度だと聞いていただけに苛立ちを隠せないでいた。


「ねぇ。どうするのぉ?」


「俺に考えがある。ついてこい」


 その声に合わせるかのように三人の姿は音もなく消えてしまう。その直後、隊列を組んだ二十人程の騎士達が大樹に到着する。白銀の鎧を装着した者を中心にしその周りを護衛と思われる騎士が取り囲んでいる。到着すると白銀の鎧を着た騎士が馬を降り大樹に手をつき詠唱を始める。


「血の盟約により我フィーネ・クラレスタが命ずる」


 そう言ったまま身動き一つ取らない騎士は大樹から手を離すと手のひらをじっと見つめている。暫く見つめた後、前回と同じように大樹に手をつき詠唱を始めるが何の変化も起きず静かに時間だけが過ぎていく。


「いががなさいました?」


 隊列の先頭で白銀の鎧と比べれば若干見劣りするが他の騎士達と違い胸の部分に紋章のような刻印がされた鎧を装備した男がフィーネに近づくと跪き話しかけると意味が分からないといった表情で返事を返す。


「ゲートレスが展開されない。結界を何者かが書き換えたのかもしれん」


「そのような事が可能なのですか?」


「わからん。だがゲートレスが展開されないのであれば信じ難いが間違いないだろう。単独で調査に向かったのだから増援は望めん。むしろ増援要請は悪手だろうな。魔物に襲われたことにすれば・・・」


 結界を解除することもできず破壊してしまえば再展開ができない。進むことも引くこともできず他の騎士達にも動揺の色が見え始めている。長考したとして有効的な打開案を考えられなければ士気は落ち危険度が増していくことは全員が理解している。指揮を執る者への信頼と忠誠心の高さが士気の降下を抑えていた。部下を危険にさらせないとフィーネが退却命令を発しようとしたその時、突然何者かの声が聞こえてきた。フィーネをはじめ騎士達が周りを見渡すが人の姿が全く見えない。だが声だけははっきりと聞こえてくる。


「失礼な奴らだニャ。だから人間は嫌いニャンだ」


 フィーネが耳を澄まし声のする方へ視線を移すと人間の様に立て腰に剣を刺した猫の姿を見つけた。


「かわ・・・」


 言いかけた言葉を飲み込むと咳払いをすると距離をとり抜剣し騎士達に指示を飛ばす」


「全員抜剣し攻撃準備せよ。・・・お前は何者だ?」


「礼儀がなってにゃいけど今回だけは許してやるにゃん」


「まさか魔物に礼節を教わるとは笑えないな」


「シュリスは精霊で魔物じゃにゃい!そんなことはどうでも良いからちゃんと聞くように」


 そんなシュリスに騎士達から罵声が次々と放たれる。中には打ち倒すべきだと今にも斬りかかろうとする者すら居る。


「二度目はないと言っただろう」


 突然シュリスの魔力が膨れ上がる。全身の毛を逆立させ騎士達を威嚇すると震えながら力なくその場に座り込む者や即倒する者で半数が戦闘不能状態に陥る。辛うじて耐えている者も顔色は悪く今にも膝をつきそうに見える。


「今から話すことはお願いじゃにゃくて命令にゃ。今から颯斗様がそちらの代表者の謁見を許された。大変名誉なことなので絶対に失礼のないように。今立っている者を代表者と認めその他の者はここに居ても構わにゃいけど動くのは禁止ニャから注意することニャ」


 フィーネは胃からこみ上げてくる者を必死に飲み込む。騎士達を率いる者として醜態は見せられないと気力だけで立っている。退却も考えたがこれ程に力の差があれば逃げきる可能性は低くシュリスがその気になれば全員殺すことは容易いと判断した。そしてシュリスは命令を受け行動していてシュリスの主と思われる人物は対話を望んでいるのではないか。ならば対話こそが生きて帰れる唯一の可能性でその可能性にかけるしか選択肢がない。


「わかった。その申し入れ受けよう」


 フィーネが申し入れを受けると一瞬視界が暗闇に変わるがすぐに視界が開ける。騎士達が辺りを見渡すと大樹も倒れたり座り込んだ騎士達の姿も見えなくなっていて先程までいた場所ではなく古びた建物の中に居てシュリスが跪いている姿が見える。


「シュリスご苦労だった」


 颯斗はシュリスを労うと傍に控えさせる。少し離れて左手にサティナ、右手にはソレイユが控えシュリスの後方にパレムの村長でもあるグーリットが跪く。


「私は早乙女颯斗と言います。パレムの西にあるリュセルフ城の城主をしているんだが貴方達が何者か目的が何なのか教えてくれませんか? こちらとしては事を荒立てる気はありませんので正直に話していただければ手荒なことはしないと約束しますよ」


 フィーネは軽く息をのむ。あれ程の力を有していたシュリスが跪き傍に控えサティナやソレイユから感じる圧迫感に生きた心地が全くしない。見た目だけなら聖女と子供にしか見えないのだが圧倒的なまでの差を感じとるとフィーネはその場に跪く。


「失礼いたします。私はクラレスタ王国」


 フィーネが話し始めた時、フィーネの背後から短剣が投げられた。三本の短剣は黒い霧の様のものを纏い真直ぐに颯斗に向かい飛んでいく。一瞬の出来事とスピードからフィーネ達は気がついていない。三本の短剣が迫るが颯斗だけではなくサティナやソレイユも全く動かない。


「死んじゃえ!」


 フィーネの背後から女の叫び声が聞こえる。その叫び声を聞いてもなお颯斗達に動きはない。



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神界遊戯 最強ソロプレイヤーと星の女神 杜乃真樹 @makimorino

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