第8話 宣戦布告 前編

 悠奈を部屋まで送り届け自室へと戻りながら颯斗はアスリの話していたことを思い返していた。悠奈を転移させたのはブリカが言っていた事を踏まえるとブリカが悠奈を転移させたのだろう。だが颯斗を転移させた可能性はゼロに近いと言っていい。無理やり命令をきかせるのなら精神支配や魅了系の能力が必要だろうし神と自ら名乗るほどの自信家なのだから以前出会っていたのなら何らかの攻撃を受け支配下にあっても不思議ではないだろう。


 アスリも颯斗が転移したことに関わっていないのなら誰が颯斗を選び転移させたのか本来なら起こりえないことが起きているのはサティナがブリカを倒したことで目の当たりにしている。全ての話をアスリから聞き出した訳ではないため情報が欠如しているところも多々ある。それでも幾つか達成しなければいけない目的が見えたのは大きい。ゲームではなく現実世界なのだから死は最優先事項になる。この戦いが一人の犠牲者も出さずに終わらせることが出来ればこの上ないことだが現実的にそれは無理だろう。そして敵は神だけではない。この世界に元から住んでいる人々とも戦わなければいけなくなるだろう。リュセルフ城はクラレスタ大国領内に転移している。領内に他国の城が出現した訳なのだから常識から考えればクラレスタ大国は軍を動かすことになる。戦いが起きる前に手を打つ必要があるのだが先代の王が崩御してから国内情勢が不安定なのは間違いない。同盟を締結するには不安要素が多すぎることもあり先が全く読めない。そしてその他の国の動向も注意が必要になる。


(クラレスタ大国の内情を調べる必要があるな)


「【コール】 レイス、今から三十分に守護者を玉座の間に集めてくれ。現状と今後の方針を話しておきたい」


「かしこまりました」


 コールでレイスに守護者を玉座の間に集めるように命令を出しベッドに腰かけたまま話す内容を整理していく。創造主や王としての言葉使いに四苦八苦しながらもそれらしく振舞おうとしているが知識を総動員して今の状態なのだから今後の方針を堅苦しい言葉に作り替えるのは無理があると項垂れたまま考える。他国の国王や貴族と話す時までに言葉使いなどは覚えようと思うが四六時中続けていくのはストレスが溜まる。颯斗は胃の辺りを数回さすり頭も数回さすると深いため息をつく。


(それだけはさけなければ)


 何かを決意し気合を入れなおすと悠奈と話をするため悠奈の部屋へ向かう。悠奈の立ち位置を決める必要があるからだ。颯斗の客として扱う場合、優先度が下がり守護者が護る対象としては弱い。絶対に守らなければいけない理由が必要になるだろう。颯斗の部屋と悠奈の部屋は然程離れていない。レイスが気を利かせたのかまでは分からないが行き来する分には都合がいい。コールを使い話しても良いのだろうが会って話すことを選択する。何事にも大義名分が必要だと何かの本で読んだことがあるが会う理由に大義名分なんて存在しない。会いたいから会う。状況が状況だけに「吊り橋効果」って可能性もあるのだが。


「颯斗だけど話があるんだ」


「は、颯斗君? ちょ、ちょっと待って」


 慌てたような口ぶりだったが急に部屋を訪れた自分が悪いことは颯斗自身も理解しているので待つのは苦にならない。暫くすると扉が少しだけ開き扉から顔を目の辺りまでしか出さず話しかけてきた。颯斗の事を直視できないのか少し見ては目をそらしている。


「ど、どうしたの?」


「今後の事で話があるんだ。玉座の間で話をする前に悠奈と話合わせておかなきゃいけにことがあってさ。中に入ってもいいかな?」


 少し考えているようだったが中に入っていいようで扉を開けてくれた。急いで準備してもらったが白を基調とした悠奈にぴったりの女の子らしい部屋になっている。守護者で執事長でもあるオリスが用意したのだが「流石はオリス」と褒めてあげたい気持ちになる。自分には出来なかったなと目を閉じ「うんうん」と頷く。それを不思議そうに悠奈が見つめている。


「話をする前に誰かに聞かれたらマズいからスキル使うね」


 颯斗は盗聴と遠視を阻害するスキルを発動する。


【セプターリジェクション】 【ハイディング】


 セプターリジェクショは盗聴防止スキルでハイディングは遠視防止スキルとしてユリウスでは比較的簡単に覚えられるスキルで通常ならばファーストスキルとして覚えるのだが颯斗は人と話すことが鉄斎と知り合うまで全くと言っていいほど無く誰かに聞かれる心配がなかったのだが鉄斎と知り合ってから覚えたスキルでファーストスキルとして覚えず何故かセカンドスキルとして覚えた。ファーストスキルよりセカンドスキルの方が効果も高く今まで一度も破られたことはない。


「話って言うのはこれからの悠奈についてなんだ。さっきも話した通り悠奈の魂の崩壊をアスリが止めている。そして推測だけど元の世界に帰れる可能性があるとしたら神界遊戯に勝利することだと思う。勝利しても帰れる保証はないけど・・・ だけど悠奈を助けることは出来る。長い戦いになるだろうし俺や悠奈は命を狙われる可能性が高い」


 神を倒して神玉を手にするなら強者より弱者を狙うのがセオリーだろう。そう考えた時、真っ先に狙われる可能性が高いのが神見習いで力もないアスリだろう。悠奈の中にアスリがいると知れ渡れば颯斗より狙われるのは明らかだ。


「悠奈とアスリを護るためには守護者の力が絶対に必要だと思う。守護者達は俺と悠奈が同時に危険な状態になれば正直言って悠奈を見捨てかねない。元々NPCというノンプレーキャラクターだったから設定を引き継いでいるみたいで俺や守護者とその眷属や配下に対してとその他に対しての接し方に差がある。だから悠奈を護るべき対象にしなきゃならないんだ。最低でも俺と同等にしておきたい」


「でも私のために誰か傷ついたりするの見たくないよ」


 そう言うと目に涙をため泣かないように我慢しながら真直ぐに颯斗を見つめている。


「俺だって自分のために誰かを犠牲になんてしたくない。だからこそ全員が目的や何をすべきか知る必要があると思うんだ。レイスやサティナ達は俺に危険が及べば命を捨ててでも助けようとすると思う。でも誰かのために生き残らなければいけない選択肢が増えれば命を投げ出さず助かる方法を考えてくれるんじゃないかと思うんだ」


 軽くため息をつき仕方ないといった表情で颯斗を見つめ微笑む。


「分かった。仕方ないよね。時間もなさそうだしね。颯斗君はどんな設定が良いと思う?」


「年が離れてたら子供設定が使えたんだけど二歳差じゃ無理があるだろし妹か妃が無難なところだと思うんだ」


「き、き、き、きさ、妃? 颯斗君の奥さんってこと?」


 悠奈の目が泳ぎまくっている。今にも目を回して倒れそうな感じすらする。


「流石に妃は嫌だよね。妹にするか」


「だ、だ、だ、大丈夫。私は大丈夫」


 手を広げて振り大丈夫だと言っているが全く大丈夫に見てないが悠奈が大丈夫と言いはるならと話を進めることにする。


「じゃあ妃はいきなり過ぎるから婚約者にしよう。婚約者なら同じ部屋にする必要もないし悠奈に好きな人が出来た時には婚約解消すればいいしね」


「そ、そうだね・・・」


 先程までの元気が急になくなったが気にはなったが玉座の間に守護者を招集していることもあり時間は然程残されていない。できるだけ手短に話をする予定だったが話してみると婚約者というフレーズは照れと恥ずかしさが凄まじい。何とか冷静な素振りが出来たんじゃないかと胸をなでおろす。


「この後、玉座の間で守護者達に悠奈を紹介する。その時に婚約者だと全員に伝えようと思うんだ。だから悠奈も一緒に来てほしい」


 悠奈は恥ずかしそうに微笑んだ。正直、妹でも良かったのだけど婚約者の方が変な虫が近づかないだろうと思ったことを颯斗は胸の奥にしまい込むと悠奈の手を取り玉座の間に転移する。玉座の間にはレイスをはじめ守護者全員が揃い跪き首を垂れている。


「守護者九名揃っております」


「パルムの村で得た情報と私個人が得た情報を照らし合わせた結果、早急に周知徹底するべきだという考えに至った。だがその前に皆に感謝を伝えたい。ここに居る悠奈は私の婚約者であり同じ世界に住んでいた」


 執事長のオリスは驚きを隠せないようで目を見開き肩を震わせている。ラミアやソレイユといった女性守護者達は驚きというよりこの世の終わりとでも言いたそうな顔で颯斗を見ている。そんな中、オリスが発言を求めてきた。


「颯斗様、発言をお許しください」


「許可する」


「では悠奈様も創造神なのですか?」


(えっ? 悠奈様もってことは俺も? どこでそうなったんだぁぁぁ)


「そ、そうだな。近い存在と言えるだろう」


 すると今度はソレイユの妹でもあるルーナが発言を求めてきた。


「あのあの。颯斗様にお聞きしたいのですが悠奈様が婚約者という事でしたら正妃にあたるのですよね?本で読んだのですが王は側室も必要だと記述されていましたが颯斗様は側室がいらっしゃるのですか?」


 こんな幼い子になんて本を読ませるんだと叫びたい気持ちをぐっと抑え優しくルーナに返事をする。


「側室は居ないし候補者も存在しない。もし必要となるのならまだまだ先の話だろうな」


 側室という言葉を聞きギラギラした目で颯斗を見つめるソレイユ達を呆れ顔で見ていたレイスがルーナ達を窘める。


「ルーナ。そこまでにしなさい。颯斗様がお困りになられますよ」


「颯斗様、申し訳ありません」


 ソレイユやルーナはハイエルフの姉妹で見た目は小学校高学年といった感じなのだが長寿でしられるハイエルフの成長は緩やかで百歳を過ぎても子供にしか見えない者もいる。ルーナは七十二歳になるが見た目は子供なだけに肩を落とし落ち込む姿を見ると何とも言えない罪悪感を感じてしまう。


「良いんだ。では話を続けるとしよう」


 話が多少脱線したが本題はこの後話すことになる。むしろ婚約者としての紹介より遥かに重要で悠奈を守護する意味を知りレイス達がどのような反応を示すのかが気になる。颯斗に対して持つ忠誠心と悠奈に感じることはプログラムで動くNPCと違いそれぞれに心がある。先程の婚約者の話で見たように驚き感動し疑問や・・・よく分からない感情も芽生えている。それは生きていることの証。全員が望む答えにならなくても責めることも責任を取らせることもしないと心に誓い話を進めることにした。



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