後編

娘が現れた日から、早くも四年が経った日のこと。おじいさんは少し具合が悪いようで、その日は寝込んでおりました。なので、その日が約束の日だったことをすっかり忘れてしまいまっていました。

そのことを全く知らずに、その日の晩、娘は再びねやに現れました。


「おじいさん、おじいさん」


娘は4年前と同じようにおじいさんに言いました。しかし、おじいさんは何も答えないどころか、目を開けることさえしませんでした。


「おじいさん、なんとまあ、まさかしんでしまったのでしょうか。ああ、私がこの日しか現れることができないために、おじいさんの最期に立ち会う事ができなかったのですね」


娘は、二月二十九日、うるう年しか存在しない日の真夜中にのみ現れる、不思議な子どもでした。しかし、皆が寝静まったときに現れるものですから、誰も娘の相手をしてくれませんでした。うるう年が来るたびに、寂しい思いをしてきた娘にようやくできた、初めての話し相手がおじいさんだったのです。


「おじいさん、おじいさん。私の置いていった花弁は、どこですか。あれがあれば、おじいさんを蘇らせることができます」


娘はおじいさんにききました。もちろん、娘はおじいさんが答えてくれるとは思っていませんでした。おじいさんと出会う前の、片道だけの会話の一つとして言った言葉でした。

しかし、なんということでしょう。おじいさんの手がタンスの方に向いたではありませんか。娘は驚いてタンスを開けると、そこに白い花弁がありました。娘はその花弁を使うことによって、一つ願いを叶えることができるのです。しかし、その願いを叶えたあと、どのようなことが身に起きるのか、娘は何も知りませんでした。それでも、娘はおじいさんを助けるため、願いを捧げました。


「おじいさんを、元気に…………」


娘がそう言うと、娘の体とおじいさんの体がぼわっと光り始めました。そして娘から四つの光が飛び、おじいさんの体に入っていきました。

少し経つと、おじいさんは目を覚ましました。隣を見ると、いつしかの娘が微笑んでいます。


「おお、ひさしいな」


「はい、お久しぶりです。おじいさん」


おじいさんは、ゆっくりと体を起こすと、戸の外に見える朝日に目を細めました。


「おや、あなたは夜のみ現れるのではなかったか?」


「そのはずだったのですが、どうやらおじいさんを元気にする時に、普通の人間になったようです。もう朝に消えることは無いようです」


おじいさんは、その娘を自分の家で養うことにしました。このまま別れてしまっては、娘が心配だったからだ。

おじいさんは、娘が生活に必要なものを一通りそろえ、空いている部屋を娘に与えました。

そして、娘のことを、うるう年に自分の閨に現れたことから、閨の閏ねやのうるうと名付け、幸せに暮らしましたとさ。



おしまい。

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閨の閏 時津彼方 @g2-kurupan

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