大魔導士シファには必殺技がある!

kumapom

4年に1度のすぺしゃるお得デー

「あんた、シファだろ?」


 場末の酒場兼食堂「ゼリ庵」で「炭焼きウールー定食」が運ばれてくるのを待っていたシファに声をかけてきたのは、背中に剣を背負った浅黒い長身の男だった。


 ここは惑星デッドストックのテラー帝国の酒場。賞金目当ての有象無象がたむろっている場所。


「ん、ああ、なんだっけ?」

「シファだろ?大魔導士の?分かるぜ?銀色の髪に紫の瞳。純度99%のオリハルコンの胸当てに漆黒のマント。噂のシファそのものだ」


 男がそう言うと、周りのテーブルにいた野郎共がピタリと会話を止め、ウェイトレスのおねいちゃんを呼んで会計を始めた。


 シファはしばらくボーッと考えた後にこう言った。


「ああ、シファ……あ、そうね。私のことだわ」

「姉ちゃん大丈夫か?かなりボーッとしているぞ?」

「ああ、ごめんごめん。何だかね。どうしたんだろ私?」


 シファは男を見つめた。不思議そうな顔をしている。


「前に会った?」

「いや、初めてだよ?」

「あれ?そうか。おかしいなー……」


 男はシファの座るテーブルに腰掛けるとこう切り出した。


「儲け話があるんだが?乗らないか?」

「……大魔導士だと知っての依頼?」

「ああ。そうだな……100万クルガでどうだ?」

「100万……!」


 シファの口元に何かが光った。


「そうね……うん、まあ……スケジュールはどうだったかなー……」


 シファはそう言うと男に見えないように手帳をパラパラとめくった。


「あー、ちょっと忙しいかなー。そうねー。うーん」

「じゃあ、成功報酬であと50万つける。どうだ?」


 シファはゴクリと息を飲み込んだ。


「依頼内容は?」


 男はシファにそっと耳打ちした。


「ゴルドバ裏ダンジョンの攻略。その奥のボスを倒す」


 シファは意外そうな顔をした。


「それだけ?」

「ああ。出来るか?」

「……出来るよ?あそこ初心者用じゃん」

「隠しの方だよ。誰も知らないやつ」

「いけるっしょ」

「おう、それじゃオーケーか?」


 シファは男の手をはっしと握ると目を輝かせてこう言った。


「おーけー!」


 ◇


火焔竜サラマンドラ!」


 シファの呪文がゴルドバ裏ダンジョンに響き渡った。青色の鉱石で出来ている空間に真紅の光が放たれた。

 火焔魔法の竜が出現し、六本足の黒いモンスターたちの群れを襲った。竜は縦横無尽に暴れまわりモンスターたちを燃やし尽くした。一瞬の出来事だった。

 シファは男に話しかけた。


「ちょっと数多くない?それに……こいつらちょっとレベル高くない?ここゴルドバだよね?」

「だから言ったろ。隠しの方だって。無理ならやめるか?」

「だ、大丈夫よ。大魔導士シファ様を何だと思っているの!酸性の体液を持ったモンスターの集団とか、大した障害じゃないし!ちょーっとマントの端が溶けたけど!」

「ならいいけどよ……この先のボスは超強いらしいぜ?」


 一瞬シファは考えた。


「……あ!」

「ん?どうした?」

「今日何日?」

「テラー歴256年122日だが?」

「そうよね!うひょー!過ぎてるー!」

「お?狂ったか?」

「狂ってないし!今日はスペシャルな日なの!」

「あ、おめでとう?」

「いや、そうじゃない」

「……何?」


 シファは一歩歩くと振り返り、不敵に笑った。


「スペシャル魔力が溜まったのよ!」

「……ああ、紫目族は何か特別な能力があるんだっけ?」

「そう!それが紫目族が超魔法族と呼ばれる理由!」

「何か凄いのか?」

「4年に1回使える!効果は絶大!神レベル!」

「ほう」

「でも効果はランダム。何が起こるか分からない」

「ランダム?」

「前に発動した時はティナ山が吹っ飛んだ!」

「……あれ、あんただったのかよ……」

「あ、今の無し。聞かなかったことにして。秘密ね秘密。あとは、その前はマインドデッドダンジョンが崩壊した!」

「あんた……」

「しょうがなかったの!ピンチだったんだから!緊急回避!」

「まあ、いいけどよ。そうなってもダンジョンからちゃんと逃げられるんだろうな?」

「そりゃもう転移の魔法でちょちょいだから大丈夫」

「あー、ならまあいいか」


 と、先ほどの六本足の大群がまたワサワサとダンジョンを進む音が聞こえてきた。

 男はその音を聞いて振り返った。


「次が来たぜ。んじゃ前に進むか?」

「まかせなさーい!」


 シファは杖をくるりと一回転させると爆炎魔法を唱え始めた。


 ◇


 たどり着いたのは巨大な縦穴だった。二人は外周の道を進んだ。あちこちにクモの巣のようなものがべたりとひっついている。ティファは炎で巣を焼き払いながら進んでいる。


「あー、もうベタベタする。えぃ!えぃ!」

「情報によるとこの縦穴の底にボスがいるらしいんだが……」


 男は縦穴の底を覗き込んでいる。真っ暗だ。


「そこに500万クルガのお宝があるのね?」

「ああ」

「……分け前少なくない?」

「『おーけー』って言ってたじゃないかよ」

「そうだけどさ……後からお宝の情報聞いたんだもの」


 と、男が少し動いた瞬間、足元の石ころが下へ落ちた。巨大な空間に音が響く。


「おっと。慎重に行かないと。落ちちまう。それにしてもここでかすぎだよなぁ。降りるの時間かかるな」

「……んじゃ飛びますか!」


 シファはそう言うと男の首根っこを引っつかんで縦穴にダイブした。


「ちょとぉー!!!!シファーーーー!!!落ちてるーーー!!!」

浮遊レビテーション!」


 シファと男は暗闇の底へと消えて行った。


 ◇


 黄金色に輝くお宝を守っていたのは巨大なクモのような生物だった。その長く巨大な足は100メートルはありそうだった。


「行くよ!超電磁雨ギガンディック・サンダー!」


 姿をみるやいなやシファは呪文を唱えた。

 空中に雷雲が現れ、クモ野郎に無数のドコドコと電撃が降り注いで行く。強力な電撃はその巨体を切り刻んだ。足が分断されクモ野郎は崩れ落ちた。


「へへーん!大したことないじゃない?まあ、大魔導士シファ様だからね!」

「おい、見ろよ」


 見ると、切り刻まれたクモ野郎の切り口から小さなクモ野郎が発生している。そしてそれはどんどん増えて行く。


「いっ?もしかして切ると増える系?」

「そうみたいだな……しかも……」


 さらにクモ野郎の体がくっついて再生していく。みるみるうちに元の大きさのクモ野郎に戻っていく。


「うっそーん!どうすんの?焼けばいい?焼いちゃう?——火焔壁ファイヤーウォール!」


 シファの放った炎の壁がクモ共を焼いたが、消し炭からまたクモが発生した。そのクモたちはどんどん大きくなっていく。


 男が言った。


「もしや焼くとエネルギー吸収して巨大化するんじゃ……」


 その後も水流で責めたり、風魔法で切り刻んでみたが、いっこうに止まる気配はなく、最初に一匹だったクモ野郎は巨大なクモ野郎一行様になっていた。


 シファは一瞬考え、こう言った。


「撤退!」


 シファと男は一目散に走った。走ったが追い詰められた。


「シファ、転移!転移の魔法を!」

「そ、そうね……あっ!」

「何?」

「4年に1度のすぺしゃるお得デー!」

「あ」

「使っちゃおう!」


 シファはポーズをとると詠唱を始めた。光が渦巻きシファに集まっていく。

 シファは黄金色に輝きだした。


「行くよ!すぺしゃる!超極意乱数秘密魔法ギガンティック・ランダム・マジックーーー!


 シファの杖の先から光が放たれ……そして……。


 ◇


「なあ、お前、シファだろ?」

「……ああ、何だっけ?」


 シファが辺りを見渡すと居酒屋の店内が見えた。


「ああ、炭焼きウールー定食を待っていたんだった」

「なあ、シファだろ?」


 シファは男の顔をまじまじと見た。


「前に会った?」

「いや、初めてだよ」

「……そう?おかしいなー。気のせいか。で、何?」

「いい儲け話があるんだが……」


 シファが4年に1度の今回の呪文の効果に気付いたのはあと5回繰り返した後だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大魔導士シファには必殺技がある! kumapom @kumapom

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ