05.09 「ふぇん……、ふぇぇん、ふええええん」

 姫花ひめかが生まれて一ヶ月と少し経ったある日のこと。

 とおるは朝から念入りにお風呂掃除をしている。風呂釜洗浄剤に、漂白剤、高圧洗浄機まで持ち出して徹底的に綺麗にするつもりらしい。

 何故って、今日の検診次第で姫花ひめかと一緒にお風呂に入れるんだって。


 とおるが退院してきてからは、おむつを替えるのも、お風呂に入れるのも、日中家に居るときは殆どとおるがお世話をしてる。流石に母乳は出ないし、夜中は母さんが面倒見てるんだけどね。昼間手伝ってくれるだけでも大分助かってるみたい。手際も良くて、「良いお母さんになりそうね」なんて言われちゃってるんだけど。


 「ただいまー」

 「お帰りなさい、義母かあさん。どうだった?」

 「OK出たわよっ」

 「うううううう、やったー。お風呂の準備してくるねっ」


 まだ昼過ぎなんだけど、待ちきれなかったんだね。


 「お姉ちゃんとお風呂に入ろうね〜」


 なんて、お湯張りボタンをおして、ご機嫌に姫花ひめかを抱っこしてる。

 そういえば、私が「姫花ひめかが混乱するから」って言った所為か、自分の事をお姉ちゃんだなんて言ってるのよね。


 「あーうー」


 姫花ひめかとおるに抱っこしてもらって、機嫌よさそうだ。


 「うんうん。でも、ちょっと待っててね。先に体洗っちゃうからね〜。凜愛姫りあら、ちょっと姫花ひめかお願い」


 姫花ひめかを私に預けて服を脱ぎ始めるとおる


 「ちょっと、いきなり脱ぎ始めないでよ」

 「見られて困るものは付いてないから平気だよ」

 「そうかも知れないけど……」


 女の子なんだし?


 「直ぐに呼ぶからここで待っててね」

 「……うん」


 そう、女の子なんだけど、そんなの解ってるんだけど、心の準備が……、というか、そんな姿を見せられたらドキドキしちゃうよ……


 「おいで〜、姫花ひめか〜」

 「あうー」


 姫花ひめかを裸にしてとおるに渡そうと……、目のやり場に困るよ、もう。

 でも、姫花ひめかと一緒にお風呂に入れるのがよっぽど嬉しいのか、私の目が泳いでるのなんて全然気にしてない様子のとおる姫花ひめかを受け取ると、手際よくお尻周りをシャワーで流してそのまま湯船へ。ちょっと嫉妬しちゃうぐらいデレデレだ。

 安心してるのか、とおるだと泣かないのよね、姫花ひめか。私が沐浴させようとした時には大泣きされて大変だったんだけど。ほんと、いいお母さん、ううん、お父さんよね。いいお父さんになりそうよね、とおる


 私が……、今は考えるの止めよう。


 とおるに抱っこされて、姫花ひめかも気持ちよさそう。入浴中のとおるにはドキドキするけど……、可愛い姫花ひめかの姿も見ておきたいもん。そう、姫花ひめかの姿を……、ね。


 「ひゃん」


 突然可愛い悲鳴を上げるとおる


 「どうしたの? とおる

 「姫花ひめかが……。凄い吸引力なんだね。ちょっと痛いかも……」


 姫花ひめかが……、姫花ひめかとおるのおっぱいを……


 「ふぇん……、ふぇぇん、ふええええん」


 ふわあ、また……、またとおるのおっぱいを……


 「お腹減ったのかな? でも、そんなに頑張っても僕のは出ないんだよ~。義母かあさんにお願いしようね~」

 「えっ、う、うん。そうだね。そういうのはお母さんじゃないとね」


 姫花ひめかとおるのおっぱいを……

 ちゅうちゅう吸ってる……


 「凜愛姫りあら?」

 「んああ、何?」

 「顔赤いんだけど、平気?」

 「う、うん、平気よ」


 ああ、もう。私、女の子に戻ったのに。まだ影響が残ってるのかなぁ。


 「そう。じゃあ、姫花ひめかを受け取ってもらえる?」

 「姫花ひめか……、そう姫花ひめかね。今バスタオル用意するから」


 姫花ひめか用のバスタオルを両腕に広げ、とおるから受け取るべく浴室へと向き直る。そこには湯船から上がったとおる姫花ひめかを渡そうとこっちを向いているわけで……

 温まってほんのり桜色に染まったとおるの肌が……

 ゆで卵みたいにつるつるなのに、姫花ひめかが動く度にプルンって震えて……

 あー、もう、ドキドキが止まらないっ!


 「そんなに見つめられるとドキドキしちゃうんだけど?」

 「えっ、ああ、ごめん」


 とおるもドキドキ……


 「とおる……」

 「ふえええええん、ふぇぇん、ふえ゛え゛え゛え゛え゛ん」

 「は、ごめん、姫花ひめか。お母さんにおっぱいもらおうね」

 「宜しくね、凜愛姫りあら


 姫花ひめかを受け取るときに、火照ったとおるの体に手が触れてしまう。もちっとして、吸い付くみたいなとおるの肌……

 だめだよ、私、ちゃんと戻れてない。私だって女の子なのに、女の子のとおるにこんなにドキドキしちゃう。もうこのまま女の子でもいいかも……

 そしたら私も気にしなくてもいいもん……


 「ふ゛え゛え゛え゛え゛え゛ーん、ふ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛」

 「うん、うん、わかった、わかった。今行くからねー」


 ダメだよね、そんなの。とおるは赤ちゃん欲しいよね、きっと……

 治療なんか受けなきゃよかったな……

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