05.08 「いや、君も女の子だよね?」

 「せんぱーい。一緒にランチしましょっ。透子とおるこ、先輩の分まで作ってきた……、えーっと、それは?」

 「ん? 僕の手作り弁当」

 「そっちも?」

 「勿論僕の手作り弁当」

 「むむむー、何故なんですか。何故私のは無いのですかー」


 妹騒ぎで忘れてたけど、こっちの件もあったんだ。


 「あるわけないじゃん。赤の他人なのに」

 「そんな、酷いのです、先輩。こんなに慕ってるのに……」

 「どんなか全然わかんないけどさ、君は僕とどうなりたいわけ?」

 「そんなの決まってるのです。先輩と相思相愛なのです」

 「つまり、恋人って事?」

 「ストレートに言われると恥ずかしいのですが……、はい、そういう事なのです」


 まあ、そうよね。新入生代表挨拶で『追いかけてきちゃった』なんて言っちゃうぐらいなんだから。


 「それは残念だったね。僕には恋人が居るから、君からの申し出は受けらないな。他をあたってくれるかな」

 「そんなー、この人なのですね、この人が先輩を誑かして……」


 私を指差して、今にも掴みかかろうとする蔦原つたはらさん。とおるが間に入ってくれたから良かったんだけど。


 「誑かしたわけじゃ無いんだけど……」

 「否定しないのですね。恋人ってところ、否定しないのですねっ」


 今更否定したところで、知らない人の方が少ないと思うんだけどな。私が元に戻ってからも、っていうか、元に戻ってからの方がこうして一緒に居ることが多いし。


 「しかも女の子同士でなんて……、不潔なのです」

 「いや、君も女の子だよね?」

 「私はいいのです。世の中、複雑な事情が多々あるのです」


 複雑な事情ね。後輩だっていうんだから、とおるが男の子だったってのも知ってるんだろうし。確かに複雑な事情だよね。私にとっても。


 「うーん、まあ君がどっちを好きになろうと君の自由なんだけどさあ、僕が誰と付き合うかも僕の自由なんじゃないかなあ」

 「ダメなのです。先輩は私とお付き合いするのですっ」

 「無理だって。僕達の邪魔しないでくれるかなあ」

 「むむむむー、だったら私もここでお弁当食べるのです。どこで食べるかは私が決めてもいいことなのです」

 「確かにそうだけどさぁ。普通しないよね、恋人同士がイチャコラしてる現場に踏み込んで堂々と弁当食べるとか」

 「何のことなのですか? 私には先輩しか見えてませんのです。あっ、先輩の卵焼き美味しそうなのです。私の唐揚げと交換するのです」

 「ちょっと……、もう、何なんだよ、君は」


 こんな感じで、とおると二人きりになる時間がすっかり無くなってしまった。二人で居ると何処からとも無く彼女が現れる。


 「せんぱーい。わからない所があるのです。教えてほしいのですー」


 授業と授業の間の休憩時間もこんな感じで押しかけてくる。


 「やだ」

 「何で私に……、しずか先輩?」

 「止めてくれるかな、その呼び方」

 「そうじゃないのです、あの人、静先輩なのですよね?」

 「あの人って、誰だっけ?」

 「とどろきさんの事? 確かにしずかって名前だったけど」

 「何で居るのですか、やっと呪縛から逃れられたと思ったのに」

 「「ええーっ!」」


 とおると二人で彼を見つめると、恥ずかしそうに下を向いてしまった。

 彼がそうだったの? とおると噂になってたっていう……。 でも、男の子、だよね……

 今までとおるに話しかけてくる事も無かったし、とおる本人も驚いてるみたいだから何も無かったって思っていいんだよね。ねえ、いいんだよね、とおる


    ◇◇◇


 それから、学年首位という事は、当然、評議委員会にも出てくるわけで……


 「今日は新入生を迎えて初めての――」

 「はーいっ、私、風紀委員になりたいのですっ!」

 「発言を認めた覚えは無いのだけれど、確か蔦原つたはらさんだったかしら」

 「そうなのです。姫神ひめがみ先輩を追いかけてこんな所までやって来た、蔦原つたはら 透子とおるこなのです。せんぱーい、私も風紀委員にいれてくださーい」


 こんな所、なんて言ったら会長の機嫌が……


 「だそうなのだけれど、どうなのかしら? 風紀委員長としては」

 「却下します」


 まあ、これ以上邪魔されたくないもんね。私も拒否かな。


 「だそうよ」

 「何ですか、先輩。私も――」

 「これ以上議事の進行を妨げるというならこんな所とやらから出ていってもうらうことになるのだけれど、私はどちらでも構わないわよ?」

 「えっと、大人しくするのです……」


 とまあ、風紀委員に立候補してとおるに却下され、おまけに会長の不評を買ってみたり。


 更には放課後も待ち伏せしてて一緒に帰ろうとするし。

 とおる十六夜 いざよい対策と同じ方法で彼女が接近すると警報が鳴るようにしたみたいなんだけど……


 「ダメだね、これ」

 「何でだろう……、何で僕達の居場所がわかるんだろう……」


 本人が現れる前から鳴り始めちゃうから余計に落ち着けなくなっちゃうし。


 そんな感じで、学校ではなかなか二人きりになれないから、家でとおるに迫られると断れない、というか、断りたくないというか……


 「凜愛姫りあら〜、やっと二人きりになれたね〜」

 「えっと、お母さん、居るけど?」

 「あら、私のことは気にしなくていいのよ?」


 いや、気になるから。そんなに凝視されてたら。お義父とうさんはいつも遅いんだけどね。


 「そうだ、一緒にお風呂入ってきたら? そしたら二人きりになれるでしょ? さすがに覗きには行かないと思うわよ、私も」

 「そうしようか、凜愛姫りあら

 「ダメよ。節度あるお付き合いを……」

 「だって、義母かあさんがいいて言ってるんだよ? それに、女の子同士なんだし〜、間違いは起こらないんじゃない?」

 「それは……、そうかもしれないけど……」


 水無みなさんとは入ってるのよね、とおる。私もとおるに……


 「じゃあ、準備してくるねっ」

 「あっ、ちょっと、やっぱりダメーっ」


 お風呂はまだちょっと早いよ。

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