失われた記憶

04.01 「たす……けて」

 期末試験の結果が発表され、相変わらず凜愛姫りあらと僕は評議委員のままだった。

 でも、なぜか水無みな武神たけがみさんは順位下げてたんだっけ。お陰で正清まさきよが鬱陶しいことこの上ない。


 「まあ、これが僕の実力さ。思い知ったか猫女」

 「思い知るのは僕より上に成ったときだと思うんだけどさ、何で猫な訳?」

 「そんな事も知らないのか。“猫は傾城の生まれ変わり”と言うだろうが」

 「益々解かんないんだけど……」

 「……まあ、解らなくていい。失言だった」


 もう、一緒に勉強しないからだよ。凜愛姫りあらに教えてもらうと楽しいのに。


 10月には体育祭と会長選挙があり、評議委員もそれなりに忙しくなるんだけど、凜愛姫りあらと一緒だから気にならない。寧ろ、楽しいぐらいだ。学校でも家でもずっと一緒って、なんかいいよね。だって彼女なんだもん。いや、彼氏か?


 会長選挙は天照あまてらす会長が連覇を果たした。ミス高天原たかまがはら以外が会長になったのは初めての事みたいなんだけど、立候補してないんだから僕が会長になるわけないもん。会長ってがらじゃないしね。


 そんな感じで、いろんなことがあって一段落したのは11月になってから。12月早々に中間試験が控えてるから、束の間の休息って感じかな。だから今日は四人でカラオケに来ている。凜愛姫りあら水無みな武神たけがみさんと僕の四人ね。

 得利稼えりか改め裕人ゆうとは色々やらかしてた負い目からか、何かと自粛ぎみなんだよね。なんとなく判ってたことだから、気にしなくてもいいのに。触らないでいてくれればだけど。


 「ちょっとトイレ行ってくるー」


 そう言い残して部屋を出ると、うちの制服の男子と目が合う。ちょうど隣の部屋から出てきたみたいなんだけど。


 「お前は……」


 無視無視。いきなりお前とかちょっと失礼なんじゃないかな。

 でも、トイレはその男子が出てきた部屋の先だ。気持ち悪いけどそっちに行かないともう漏れそうなんだよ。


    バサッ


 「んーんちょっとんんんんんんーなにすんだよー


 できるだけ遠くを歩いたつもりだったけど、急に近づいてきて抱きつかれた。口を塞がれて声にならない。しかも、そのまま部屋に連れ込もうとしてる。


 「んんんーはなせー


 ダメだ、この体は非力だ。抵抗虚しく連れ込まれ、ドアが閉められてしまった。


 「これはこれは。誰かと思えばマイ・プリンセスじゃないか。僕を訪ねてきてくれたのかい?」


 十六夜 いざよい 葉月はづきだ。でも、いつもと感じが違う。


 「んんんんんーんんなわけあるかんんんはなせんんんんーくそやろー

 「そうかい、そうかい。そんなに感激してくれるのかい」


 離しやがれっ、気色悪い。


 「外で見張っててくれるかい?」

 「後で俺にも回してくれよ」


 そう言い残して一人がドアの外に立つ。

 見張り?

 回す?


 「まあ、飽きたら回してやってもいいかな」


 相手にされないからって力ずくでってか、流石にそんな事したら大問題になるだろ?


 「んーっ!」


 ブラウスに手が掛けられ、ボタンが弾け飛ぶ。

 おいおい、冗談じゃないのかよ。もう十分強制猥褻だぞ、これ。


 「ふうー、予想通りいい胸してるねえ。散々コケにしてくれて分、たっぷりと楽しませもらおうじゃないか。あいつとヤリまくってるんだろうけど、僕のが忘れられなくなっちゃうんじゃないかな?」

 「うんうん、綺麗な足だよね」

 「見ろよ、ケツもプリップリッだぜ。たまらねえなあ。さっさと脱がしちまおうぜ」

 「慌てることはないさ。時間はたっぷり有る。じっくり甚振ってからでもいいんじゃないかな?」


 ウザ男に胸を弄られ、取り巻きの奴らに太ももや尻を触られる。

 気持ち悪くてたまらない。

 これがウザ男の、十六夜 いざよい 葉月はづきの正体か。


 でも、このままだと僕は……

 糞、嫌だ、絶対嫌だ。こんな奴らにヤられてたまるかっ。


 「んっ!」


 太ももを触ってた奴の手が段々上がってきてる。


 「音量あげろ。外に漏れたらまずい」


 誰も歌わない曲が大音量で流れ、足にベトッとして嫌な感触が。後ろからは股間を押し付けられ、左耳が噛まれる。


 助けを、助けを呼ばないと……


 「キャア」


    ドカッ


 「痛ってえ、糞アマ、噛みつきやがった」


 背中が痛い。体に力が入らない……


 「ううっ、たす……けて」

 「ふーん、録音してたんだ。でも、残念だったね」


 後々の証拠にと思って録画していたスマホが床に転げ落ち、ウザ男に踏みつけられる。


 「おいおい、どうせなら盛大に塩でも吹いてくれよな。これじゃあ臭っせえだけだろうがよっ」

 「ゴホッ」


 ううっ、腹が……


 「ダメだよ、楽しむ前に潰れたらどうするつもりなんだい?」

 「そうだよ。おいらは気にしないよ。寧ろこれはこれでいいな。今綺麗にしてあげるからね、おいらの舌で。うへっ、うへへへへ」

 「悪い、つい」

 「罰として、君のを突っ込んでみるというのはどうだろう。僕のを喰い千切られたらたまらないからねえ」

 「はあ? 俺のだったらいいってのか――」


 凜愛姫りあら……、嫌だ、こんなの……

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