不適切な関係?

03.01 「ぼくなりに覚悟が必要なのでね」

 嫌なこともいろいろあったけど、凜愛姫りあらとは前みたいに仲良くなれたし、他にも友達が2人も出来たんだ。


 「ねえねえ、姫ちゃーん。次、体育だよ? 着替えに行こうよー」

 「う、うん」


 んー、3人? なのかな。彼女は大金おおがね 得利稼えりか。彼女というか、多分、僕と同じ性徴期性反転症候群の発症者かな。

 僕達が感染した奇病は、発症状況が人によって違うみたいなんだよね。僕なんかは重度みたいで骨格も変形しちゃってるんだけど、得利稼えりかの骨格は男そのものだ。肩幅は広いし、骨盤は小さい、全然女の子っぽくみえない。顔もね。それに筋肉質で、薄っすらと髭も生えてるもん。女装した男子って感じ。それに、いくら苗字が大金だからって子供に得利稼えりかなんて名前着けないと思うんだよ。自分で着けたに違いない。って、本当に女の子で、元々そんな名前だったとしたらごめんね。確かに胸は膨らんでるし、シンボルはなさそうなんだよね、更衣室で押し付けられた感じだと。


 彼より軽度になると、って発症者前提なのは置いといて、軽度な人はシンボルがちょっと縮んだとか、逆に少し伸びたりとかって程度で、体にそこまで変化は起きないみたいなんだ。そういう人たちは2、3週で元に戻ったみたい。でも、少し伸びたとかって、男の僕が想像しただけでもショックだよね。アレが伸びるのか……


 「ほら、早く行こうよー」

 「わかったよ、そんなに引っ張らないでよ」


 こうしてブートキャンプ明けぐらいから何かと体に触ってくる。必要以上に密着してくるんだよなぁ。僕や君みたいに元々は男だった人だって居るのに、そこは気にしないのかなぁ。


 まあそんな感じで友達もできて、っていうか凜愛姫りあらと仲良く慣れたのが大きいんだけど、GWも近いから少し稼いでおくことにした。といっても、接客とか苦手だし、肉体労働もちょっとなぁ、ということで、ネットで募集してるの探してちゃちゃっとやっちゃうことにしたんだ。

 お金を溜めて凜愛姫りあらと遊びに行こう♪


 「とおるさん、放課後少しいいかな」

 「別に構わないよ?」


 今日のノルマもあるんだけど、まあちょっとぐらいならいいか。武神たけがみさんも大事な友達だからね。


 「じゃあ、体育館裏で待ってるから」

 「同じクラスなんだから態々そんな所に行かなくても。それに、体育館って4つあるよ?」

 「確かにそうだね。じゃあ、第2体育館裏で」

 「まあ、いいけど」


 人に聞かれたくない話なのかなぁ。だったら僕のあげたアプリ使えばいいのに。

 ちゃんと暗号化してるし、そもそも自作アプリだからメンバーも4人限定なんだけど。サーバも僕が管理してるから運営サイドに覗かれる心配もないよ?


 とか思いつつ、得利稼えりかに腕を引っ張られて女子更衣室へと入る。得利稼えりかにもアカウントあげたほうがいいのかなぁ。


 「第2体育館裏って、あれよね。告られちゃうのかなぁ、姫ちゃん」

 「えぇ、まさか」


 だって、武神たけがみさんて刃瑠香はるかだよ? 女の子だったんだよ? たぶん。もしかして、お父さんの意地悪で女の子の名前をなんて……

 まあどちらにしても、現時点で男って事は恋愛対象にはならないかな。


 「って、あんまり密着しないでくれるかなぁ」

 「えー、誰も見てないんだからいいでしょー」

 「そういう問題じゃなくてさぁ……」

 「こんな体してる姫ちゃんが悪いんだよー。くびれた腰からプリっとしたお尻のラインが堪らないんだよー」

 「嫌だって。止めてよー」


 やっぱり男だよね、得利稼えりか。アカウントはあげるの止めよう。うん。


 「気持ちはわかりますけれど、そのくらいにしてさしあげたら? 着替えられなくて困ってるんじゃないかしら、とおるさん」

 「水無みなのいう通りだよ。授業に遅れちゃうじゃないかぁ」

 「仕方ないなー。じゃあ代わりに水無みなちゃんのおっぱい触らせて貰おうかなーって、痛い、痛いってば、水無みなちゃーん」


 得利稼えりかの手首が容赦なく捻り上げられる。


 「女の子だからって触れていいと思ったら大間違いですわ、ねえ、とおるさん」

 「う、うん」


 あの時は水無みなが洗えって……


    ◇◇◇


 そして、放課後。

 授業が終わって直ぐに準備したつもりなのに、武神たけがみさんの姿は既になかった。言われた通り第2体育館裏に行ってみると、武神たけがみさんが待っていた。呼び出したんだから当たり前か。

 でも、なんだか苦しそう。顔も青ざめてるし。


 「武神たけがみさん、大丈夫?」

 「ああ、大したこと無い。少し息苦しいだけだから。きつく締めすぎてしまったようだ」

 「締める?」

 「気にしないでほしい」

 「うん。でも、顔色悪いよ? 保健室行く? 話なら別の日でも――」

 「いや、今聞いて欲しい。ぼくなりに覚悟が必要なのでね。今聞いてもらえなければ二度と決心できないかもしれない」

 「そう、じゃあ聞くけど」


 決心ってなに、嫌な予感しかしないなあ……


 「とおるさん」

 「う、うん」

 「ぼくは……」


 えーっと、長いな……。決心は何処行ったの?


 「ぼくは……」

 「ちょっと、武神たけがみさんっ」


 そのまま僕の方に倒れてきた。

 押し倒されちゃうのかと思ったけど、単に意識を失ってしまっただけのようだった。顔色悪かったからね。


 「しかたないなー、放ってもおけないから保健室まで運んであげるよ。もう、態々こんな誰もいない所で倒れなくてもいいのにさー」


 初めて来たけど、2体裏には全く人気がない。得利稼えりかが言ってたように、告白するならここってのも肯ける。それに、先約が居たら遠慮するっていう暗黙のルールも存在するみたいだから、待ってても誰も来ないんだろうな。

 仕方なく、非力な体で武神たけがみさんを背負っていく。

 まあ、非力なのはこの体になる前からなんだけど、僕でも背負えるほど軽いんだね、武神たけがみさんは。とはいえ、保健室までというのはちょっと辛いかも。


 「姫ちゃん、気絶するまでって、激しすぎない?」

 「得利稼えりか、それに水無みなまで、いつから此処に?」

 「んー、『二度と決心できない』あたりからかな?」

 「得利稼えりかさんが面白いものが見られると言うものですから何かと思ったのですが、まさかとおるさんがこれ程情熱的な方だとは」

 「割と最初から居たんだね……。だったら馬鹿な事言ってないで手伝ってよ。取り敢えず保健室まで運ばない?」

 「確かにこんな姿を見られてはまた変な噂が立ってしまいますわね」


 下衆い得利稼えりかのお陰で無事に保健室まで運ぶことはできたんだけど、暗黙のルールは何処行った?


 「あとは私が看ておきますから、とおるさんと得利稼えりかさんはお先にどうぞ」

 「あー、でも」


 意識が戻るまで待ってないとダメだよね、僕。


 「武神たけがみさんも女の子にこれ以上恥ずかしい姿を見られたくないのではないかしら?」

 「水無みなだって女の子だけど?」

 「私達は幼馴染ですから。そういった事は気にしませんの」

 「そういうものなんだ」

 「ええ、そういうものなのです。ですから」


 折角そう言ってくれてるし、帰って仕事しよっかな。


 「じゃあ、後はお願いね」

 「はい。お願いされました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る