第33話 感謝を忘れた自分への戒め

 転職して早半年となった。必死に仕事を覚えようと、執筆もこの半年間、全くできなかった。この会社も、結局は、社員を大切にしない企業であると感じた。

 中小企業。面接では親身に、現場や社員を大切にするお話を聞き、また、他社との差別化を図るべく、国産食品、有機JAS認証を取得するなど、未来ある会社に感じた。しかし今思えば、面接の際に、現場見学をさせてもらえばよかったと、今さらながらの後悔だ。

 この歳で正社員として雇ってもらえたことは、大変うれしかった。しかし、この会社の定着率の悪さは異常なものだった。私はまだ半年間しか務めていないのに、上司と喧嘩したなどとの理由で、3人ほど自主的に辞めたり、会社から解雇通知されていた。ほんの数十名の会社で、この離職率は異常だ。労働組合の無い、個人商店の延長である中小企業ならではの不当解雇も、平然と行われている。

 後から知ったことだが、社長は婿養子、社会人経験を積む事も無く経営者として君臨している。社長の奥さん(つまり先代の娘)も、お嬢様育ちで、気に入らない事があればすぐ社員の首を切る。

 もちろん、商品を作る職人さん達には経営陣も逆らえないので、工場長や課長には強大な力が与えられ、毎日部下には罵声や暴力の日々。未だに、中小企業(個人商店)はこういうものなのだ、と衝撃を受けた。

 私は、「大卒」であることを、私がまだ着任前に社長が社員に朝礼で公言し、ゆくゆくは国際認証や品質管理、Web販売、とにかく何でもできる、と言ったそうだ。そのため、初めて会社に出勤した日から、特に管理職の方達の、私への扱いは、かなりパワハラ的なものであった。

 何も指導されない、何かすれば「素人は手を出すな!」と叱られ、汚い職場の掃除すらさせてもらえない状態だった。倉庫に異動になったと思えば、30㎏の袋を毎日何百袋も手で積む仕事。倉庫の部長は指示を出す事も無く、今日出荷の紙だけ渡し、パートのお姉さん方と談笑。

 「葉月、できたのか?」罵声しか飛んでこないが、こちらとしても息も絶え絶え一生懸命やっているので、声も出せない。もともと腰痛(腰椎椎間板ヘルニア手術後の予後も悪い)ことは、入社前にも伝えていたが、腰をかばうあまり、腕を痛めてしまった。上腕骨外側上顆炎。通称テニス肘。整形外科での診断は典型的なテニス肘で、暫く重いものは持たないように、と診断書を渡された。

 会社に診断書を提出するも、直接業務で使えない奴、のレッテルが貼られた。間接業務は売り上げに貢献しないので、人材として必要ない、との見解だった。

 でも、ここで辞める訳にはいかなかった。一生この会社に居る訳ではないかも知れないが、何も成していない。自分が許せなかった。とにかく、どんな仕事でも、毎日、何か仕事はありませんか?と、現場を歩く毎日だった。一応、Web販売の店長が、箱詰めの仕事をする人手が足りないので、との事で、暫くの間、商品の箱詰めを必死にした。

 商品についても、自分で商品を見て、覚えるようにした。この会社では、誰も何も教えてくれることは無い。もちろん手順書や資料もない。そのようなやり方で、今までずっとやってきた会社なのだと思う。自宅に帰って、メモをまとめ、自分なりに、この会社の商品についてや、何が良くて、何がダメなのか、どうしたらよいのか、自分には何の権限も無いし、部署も与えられていなかったが、考えていた。

 定時で帰らないと、社長からは、「君に残業するような仕事はさせていない」と嫌味を言われるので、定時で帰って自宅で復習や資料作り。その毎日だ。

 そのうちチャンスが来るかもしれない…。そう思って毎日を、自分の精一杯で仕事をしている。

 結局、現状の不満を言って雇用して頂いている「感謝」を忘れている私は、どこの環境に行っても感謝を忘れ、不満を言い続けるのだろう。仕事とは、ただただ、労働の対価としてお給金を頂くためのもの。それ以上でもそれ以下でもない。

 そう気づいたからだ。

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