第32話 好きな事・興味のある事

 好きな事は仕事にしてはいけない。実際に仕事にしたら、嫌いになってしまう事があるから…。そのような言葉をよく聞いていたので、自分は、一番好きである事(趣味)は仕事にしなかった。

 しかし、興味すらない事を仕事にしてしまったら、やる気も、モチベーションも上がらないと思う。毎日お給金を貰うだけ、そんな生活も良いかもしれないが、私の性格上、何か考えたり、行動していないと、たぶん我慢できない。

 私の、たった一つの譲れない希望は、社員やその家族を大切にしてくれる会社。給料はとりあえず二の次。ただ、それを見極めるのは、実際に面接を受けさせてもらわないと、分からない。


 転職活動は、困難を極めた。コロナ渦中、さらに年齢は40過ぎだ。面接どころか、書類も通らない。年齢と同じくらいの会社へエントリーをした。その中でも、面接をして下さったのはほんの一握り。よほどのことが無い限り、今の会社に限界(肉体的、精神的)を感じない限りは、40過ぎの転職はお勧めしない。

※優秀な方の、ハイクラス転職は年齢は40過ぎでも大丈夫なのでご安心ください…


 そんな中、穀物を扱う会社から面接してもらえることになった。とても小さな会社だ。私は、食の安全や食育、和食の無形文化遺産、モンサントの遺伝子組み換えの作物の危険性、地理的表示(GI)産地偽装問題など、農業に関心があったので、喜んで面接に向かった。漠然と、一次産業への憧れもあった。

 最初から社長面談。「なぜこれだけの経歴が技術スキルがあるのに、全くの異業種異業界であるウチの会社なのか、聞きたい」と言われ、自分の考えを述べた。

 

 まず、統計的に見れば、40代は人生においての折り返し点である。そして、会社員としても、20~60歳までと考えても、40代は折り返し地点。今までやってきた事が、いかにお客様の声として聞こえてこないかを、この20年で知った。メーカーに勤めたのは、お客様に喜んでもらえる製品を作りたかった。しかし、現実は違った。B to Bの仕事よりも、もっとお客様に近いところで、B to Cの仕事がしたい。

 そして、農業に興味があり、日本の食料自給率の異常なまでの低さ(先進国G7で考えても)、そして食の安全に危機感を感じている、そのためには、今まで送ってきた人生の半分はすべて捨て、ゼロからスタートさせていただきたい。

 そのような思いを、述べさせていただいた。重いものを持つ労働であっても、エアコンのない職場であっても、とにかく会社を知るために、試用期間でも良いので、入庫、加工、出荷など、一連の工程をやらせていただきたい、ともお願いした。


 正直、マンパワーで考えたら、若者を雇った方が良いし、ある程度年齢が高ければ、同業種の即戦力を入れた方が良い。

 面接は一生懸命やったつもりだったが、まず無理だろうと感じた。こういう面談の繰り返しをしていたから、何となく雰囲気でわかる。もう、技術者からは足を洗って、全くの異業種・異業界ばかりの求人募集にエントリーしていたのも原因だが。

 

 しかし意外な事に、翌日、その穀物を扱う会社から内定を頂けた。正直、うれしさと、ほっとしたの一言に尽きる。働かなければ、お金が稼げない。お金がなければ生きていけない。

 そして何より、自分の興味のある仕事に就くことが出来た事だ。実家からもクルマで20分くらい。家で何かあっても、すぐに帰る事も出来る。


 自分としては、良い結果となった。この2020年、新型コロナウイルスで、何だかよく分からない抑うつ的な気分であったが、父の完全寝たきり、母の緊急入院などを経て、やはり、家族の重要性、そして自分も適度に労わって、無理せずやれる事をやらないと、精神的にまた参ってしまう、と気づかされた。

 

 会社は、規模や名声ではない。社員を家族のように思ってくれる経営者かどうか。そして社員の家族をも大切にしてくれるか。これが一番、重要なところだと思う。来週から、この会社で、仕事や業界知識などを学びながら、スタートを切る。

 リセットして再出発。人生としても、会社員としても、折り返し地点での決意だ。

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