第31話 やりたい事ってなんだったのか
歳を取るということは、ある意味、良い事でもあり、悪い事でもある。例えば、歳をとってしまうと、文献やら経験やら、それこそテレビやインターネットからも、いろいろと予備知識がついてしまう。知識がつくことは、失敗を重ねずに済むことにも繋がり、成功に導いてくれることもあるだろう。
しかし、新しい事を始めたいと思った場合、この「知識」は無駄な足かせになる。新しい事を、新鮮な目で見る事ができなくなってしまうからだ。
私は今まで、サラリーマンの経験しかない。大学が機械工学科出身だったので、自ずと、機械設計や技術系の会社や仕事しか経験がない。
そもそも、何で機械工学科で学ぼうとしたのだろう?
思い起こせば、小学生の文集で、「水で走る自動車を作りたい」と書いていた事を思い出した。当時の私は水の電気分解など知る訳もなく、なんで水なんだ?と今となっては思うが、子供の頃から、クルマを開発したいという思いがあった。
小学生の前は、何になりたかったのだろう?
やはり、バスの運転手さんになりたかった記憶がある。私の住んでいる所は田舎なので、電車は走っていない。クルマ以外の交通手段を使って、どこかに出掛けたことがない。
当時の友達は、パイロット、や、芸能人、などと、華やかな夢を書いていたのを覚えている。当時の私は、パイロットって何だろう?という感じだった。
大学卒業は2000年の超就職氷河期、クルマ関係の仕事に就く事はできたが、部品メーカーがやっとだった。でも、その時代が一番楽しかったと、振り返ると思う。
私自身も若かった。いろいろな経験をさせて頂いた。同僚も若く、上司も若かった。とてもアットホームな雰囲気の中、何をさせてもらっても、辛いとはあまり思わなかった記憶がある。
その会社も、私が所属していた新規事業部が中国に売却され、他に行きたい部署が無かった事、親も年を取ってきたので、何かあったら困るので、地元企業に転職した訳だが、やはり、自分は技術の人間である、そして、企業が求めている人材も技術者である事、この一致があって、中途採用された。
正直、転職先の製品である印刷機械なんて、何の興味もない。印刷機械が作りたくて技術者になった、という人がいるなら、それは稀有な事だろう。
とりあえず、お給金をもらうため、がむしゃらに働いた。そこでの激務で体調を崩し、最終的には、ピッキング係になってしまった訳だが、自分はそれでいいと思っていた。割り切りだ。
とりあえず仕事ができて、お給金が貰えるならそれでいい。何も期待される事も無く、最低の査定で、最低の年齢給と、最低の能力給を貰えば、暮らせる。
しかし、2020年9月の中間人事異動で、上司が変わった。まず言われたことが、
「先日、葉月は母親が倒れたからって、朝電話してきて、その日休んでたよな?そういうの、今後許さないから。計画有休休暇以外、突発で休むことは絶対に許さない」
新しい上司も、もう何年も前から知っていた人ではある。直接一緒に働いたことはないが、私の家の事情、即ち、父親が要介護である事、高齢の母親が介護している事、私が一人っ子である事、私が精神的に病んだ経歴があってこの職場(倉庫)に飛ばされた事、何もかも承知の上で言っている、と言われた。
(ちなみに、私が難病遺伝子の悩みがあることは、家族と、主治医以外は知らない)
その言葉を聞いて、その日のうちに退職願を書き、翌日、提出した。お前は、この会社じゃなきゃ、やっていけないんだよ。一生、組織の底辺のまま、すがりついて働くしか、金を得る方法は無いんだよ!
そんな事は分かっている。上層部も、誰もまさか、温情で雇ってやっている葉月が辞めるとは思っていなかったようだが、私の核となる唯一の思い、「自分の健康と家族の健康、欲を言えば少し幸せになりたい」が否定されたので、看過できなかった。
残りの人生、どう生きていくか。今、何ができるのか?何がやりたいのか?
退職届は、退職日の一か月前に提出すればよく、また、有給休暇の消化もあるので、ほぼ1ヶ月で、次の仕事を探さなければならない。
ただ、もう、技術者として働く事は絶対にない。私の唯一の経験、スキルではあるが、そんなものは、全てリセットする。
この歳での転職活動は困難を極める。ましてやコロナ不景気。年齢制限・省令3号のイ(長期キャリア形成の為)で、ほとんど35歳以下の募集だ。転職30歳限界説、35歳限界説は、本当の事だ。
管理職経験がある人や、スキルアップ転職(CMでよく見る、ビズ〇ーチなど)は、年齢は高くてもあまり問題にならないが、求められるスキル、能力が半端ではない。無理無理…、そんな能力あったら起業してますよ、レベル。
私は、とにかく地元で働く事、これに主眼を置いているので、地元の求人情報のみ、その中で、自分のやれそうな事、この先、やりたい事は何であるのか、今までの経験や人生の棚卸をしながら、考えている。
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