第28話 復職とは耐えがたきを耐える事②

 一番怖いのは、無視だ。最大のイジメである。何か言われている方が華だと心底思う。上司が無視すれば、部下も皆、無視する。

 仕事が与えられないと、会社にいる時間は、果てしなく長く感じる。もうお昼頃だろうか?と思って時計を見ても、まだ9時だったりする。

 会社としては、人手不足で猫の手も借りたいほど忙しい。そのような環境で、敢えて仕事を与えない事で、自主的に辞める事を促している訳だ。

 以前、大手企業で、シュレッダー係にされて問題になったり、それこそ何もさせない部署(部屋)に毎日出勤だけさせたりと、上場企業でも、ありとあらゆる悪い事は思いつくものだ。「仕事をさせない事の辛さ」が、一番精神的に厳しい事を熟知した上での、やり口だろう。

 仕事ができるのにさせない。仕事をしたくてもさせてもらえない。一番苦しい。でも、最低限の賃金はもらえる訳なので、法的に(大きな)問題はなく、まわりからは当然、給料泥棒扱いされ、後ろ指差されて生きていくことになる。

 生活の為だ、と、割り切ってしまえば、それも良いかもしれない。しかし、そこに行きつくまでは、かなりの時間と苦悩を伴う。

 もしかしたら、他の会社では仕事ができるのではないだろうか?人間らしい扱いをして貰えるのではないだろうか?毎日が、「出勤」と「転職の夢」の間での、葛藤だ。

 ある程度若くて、精神的に余裕が出来た(自己判断ではなく医師判断)のであれば、行動に移した方が良いかもしれない。しかし、私のように中年になってしまうと、まず、転職の書類を何十件出そうが、通らない。

 雇用対策法が改正され、平成19年10月から、事業主は労働者の募集及び採用について、年齢に関わりなく均等な機会を与えなければならないこととされ、年齢制限の禁止が義務化された。就職氷河期世代(35歳以上55歳未満)に限り、募集や採用することが可能になったとされるが、これは、「原則」である。

 実際は、「省令3号のイ」が発動する。「省令3号のイ」とは、求人を公開するにあたり、採用予定の人に対して雇用期間を定めないことを前提に、新卒者もしくはおおむね35歳未満の人材をターゲットとし、長期勤続によるキャリア形成を目的とする場合に限り、「35歳未満」という条件提示が、例外的に許されている。

 よほど人材不足で、今をしのげれば誰でも良い、というような企業でない限り、この 「省令3号のイ」を設けている。そもそも、今をしのげればよい、という企業であれば、社員ではなく、パートやアルバイト、もしくは人材派遣を雇う。

 

 社員として、最低限暮らせる給料と、社会保障。これをこのまま得るためには、差別に耐える必要がある。これは、ヒエラルキーではなく、カーストのような身分制度、だ。どんなに頑張ろうと、奴隷になる事も適わない。「人に非ず」で、会社に勤務している間は、耐えるしかない。


 そして、会社の思惑としては、再び精神を狂わせ、退職、としたい訳だ。私が復職した際も、人事部から、次回問題行動(休職など)を行った場合、自主的に退社します、という一筆を書かされて、初めて復職許可となった経緯がある。

 精神が壊れるのが先か、他に就職先が見つかるのが先か。特に、今の新型コロナウイルス(COVID-19)のご時世、新卒者でも就職が厳しくなった中、35歳以上の再就職は、かなり厳しい。

 管理職キャリア経験のある人材でもない限り、普通の疲れた中年では、企業としても若者を招き入れてキャリアを積ませた方が、給料も初任給から安く済むし、わざわざ中年を入社させるメリットもない。体力だって、頭の回転だって、劣っているのだから。

 

 しかし、今さらだが、健康が第一だ。また、精神的におかしくなりそうだ、と予兆を感じたなら、やはり会社を辞めた方が良いのだろう。うつ病は、再発を繰り返すほど、再発率は高くなる。そして、抜けられなくなる。

 自分一人生きていくだけなら、社員にこだわる必要もない。非正規労働者であっても、何とかなる。


 しかし、我が家には、寝たきり障害の父と、それを介護する高齢の母がいる。ここで、また自分が精神的におかしくなってしまったら、それこそ、人生詰んでしまう。

 

 いろいろと思案しているが、どうやっても、最適な答えは、出すことができない。そして明らかに、私は着実に病みという闇に、包まれていくのを、現在進行形で実感している。

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