第20話 父との会話

 あれだけ私が嫌っていた父親。お前が家庭を持たなければ、自分は産まれる事も無かったし、母も、自分も、不幸にならずに済んだのに!難病の遺伝子家系であると知って、家庭を持ちやがって!今までは怒りしかなかった。

 私が長期欠勤で深刻なうつ状態になり、不眠や徘徊を繰り返す状態になっても、我、関せず、な姿勢であることは分かった。

 

 しかし、私は自分一人になると、自死感情が出るまでに最悪な状態になっていた。自死というより、このまま動けない父親、老々介護で疲労困憊の母親を残して死ぬのか?いっそ、一家心中か?でも、そんな気力もない。

 テレビも見る事が出来ない、インターネットもできない、本も読むことができない。とにかく何もできない。寝ることもできない。何もかもが煩わしい。耳に入ってくるもの、目に飛び込んでくるもの、全てが、鬱陶しい。

 うつ病が、本格化すると、こんなにもひどい症状となり、こんなにも辛い病であるとは、正直、思っていなかった。

 不安で車も運転できない。でも、病院に行かないと、症状はどんどん悪くなる。負のスパイラルに陥っていた。

 

 冬。自室にもコタツはあったが、こういった状態だ。電気代すら勿体ない。こんな自分が、電気を使って暖を取るなんて贅沢だ…。

 仕方なく、居間にあるコタツで暖をとった。そこには、忌まわしき父親も、毎日暖をとっていた。父は何をするでもなく、将棋の本を読んでいた。自分は、ただ、横になっていた。思考回路はぐちゃぐちゃで、横になっているのも厳しかった。

 そんな中、突然、父が話しかけてきた。異例な事だ。


「俺は、お前みたいに頭が良くないから、何も考えた事が無い。うつ病がどういうものかもわからない。ただ、もう無理はするな。」

 呂律の回らない言葉で、一生懸命に声を出してくれた。


 ああ、やっぱり父親なんだな、と思えた。何も言わなくても、自分が訳も分からずもがき苦しんでいるのは、家にいるから見えていたのだと思う。

 それからは、ちょくちょく、父と居間のコタツで、たまに話すようになった。


 「父親なんていなくなればよい!」ずっとそう思ってきたが、やっぱり、居ないとと寂しい。一人だったら、誰とも話せず、もっと精神的に厳しかっただろう。

 会社は、一切話を聞いてくれない。会社からも、私の同僚に対して、奴からメールやLINEが来ても無視しろ、という厳戒令も敷かれていたそうだ。

 

 見通しの見えない冬。とうとう冬になってしまった。その年は、関東平野部でも雪かきをしなければならないほど、雪が多かった。

 今でも、雪を見ると、その辛かった時を思い出してしまう。冬は嫌いだ。


 

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