第19話 意図せずして、再犯へ

 救急車で運ばれてしまったことは、致命的だった。会社に救急車が来ることは、基本的にタブーだ。ホワイト企業なら問題にならないだろうが、大体の昔ながらの体質の企業は、業務課が病院まで連れて行くケースが多い。

 会社に救急車が来たとなれば、近隣からも、何があったのか?会社の上層部も、何が起こった?と騒ぎになるからだ。労災も場合も、私が勤めている会社の場合、命に別条がない限り、救急車が呼ばれることは無く、業務課カーが病院へ連れて行く。

 

 指を第二間接まで切断してしまった人でさえ、だ。


 私は、救急車で、都内の大学病院救急外来に運ばれた。そこでは、精神科医が、いろいろと厳しい口調で聞いてくる。「ココどこだかわかる?」「あなたな何でここに来たの?」「何でここにいるのか分かってるの?」

 気絶から覚めた私は、淡々と答えた。多分気絶して、救急車で運ばれて、ここに来ている。

 そう答えると、その精神科医は、「この人は精神疾患で運ばれてきた訳じゃないから、とっとと帰らせて。救急外来忙しいんだぞ!早く早く。」

 その態度にイラっともしたが、冷静に見てみると、鼻水や涙でぐちゃぐちゃ、泡だかよだれも出たのだろう、服も汚い。

 救急車に同乗してくれた会社の方に連れられて、主治医のいる精神科に、その足で向かった。電車で2時間ほどの長旅になった。その間、私はずっと会社の不満を口にしていた記憶がある。

 

 主治医に事の発端と事情を話した。主治医曰く、これは「自己拡散状態」で、極度のストレスでパニックになったのだろう、と。この症状と、うつ病は関係ないので、会社に出社しても良い、と言われた。

 そして翌日、会社に出社すると、本社総務人事部の人間3人が私を取り囲み、誰も居ない会議室に連れ込んだ。

 「何で会社に来た?お前は救急車で運ばれたんだぞ?会社が出社しても良いと言うまで、会社に来るな」との事だった。

 しかし、主治医には出社してよいと言われたし、自分も、今は大丈夫です、と説明しても、

 ・会社に救急車

 ・会社の面汚し

 ・上層部に責任説明しなければならない

 ・懲罰会議もありうる

など、とにかく会社に来るな!との事だった。

 予想外の再犯。また長期欠勤となった。理由は、よく分からない。私が気絶したから。救急車で運ばれてしまったから。そうとしか考えられなかった。

 

 会社にも、なぜ私だけが休まなければならないのか?いつまで休めばよいのか?休職している間の給料は無く、どうやって暮らしていけばよいのか?

 

 どの質問に対しても、総務人事部から回答は無かった。

 

 とにかく、お前のやった事は、会社にとって重大な汚点となった。また、これ以上会社に状況説明の連絡を入れると、本当に復職させずに解雇するから、とにかく黙っていろ。

 そして、このいつ終わるか分からない長期の休職は、私の人生史上、最大のうつ状態と、家庭への悪影響を及ぼす事となった。

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