第17話 働きたい病

 休職を経て、言い方は悪いが、「窓際」として定番の部署に行くものと思っていた。当時の勤務先の「鉄板窓際部署」は庶務課の中でも、工場や事務所の設備が壊れたら修理に行く係、もうひとつは、知的財産係だった。

 もともと技術者の人間が活躍できるとすれば、事務方で、尚且つ機械や電気の知識を持ち、新しい技術であるか判断する、設計開発のような過酷な仕事ではない特許係。設計開発者の技術が特許になるかどうか、競合他社の特許調査や、自社の特許管理をする。

 特許は前職で私も数件出願しており、全く知的財産の知識が無かった訳でも無いので、こっちの部署に行きたいな…。何かやりがいが見つかるかも知れない。そう思っていた。

 

 しかし、総務人事からの私の異動先は、別の部署での、設計開発、だった。


 リーマンショック以降、私の勤務先は創業以来の赤字に転落、2回の早期退職を行い、400名ほどが退職していた。優秀な技術者ほど、我先にと、この業界の未来は無い事を悟って希望退職。うつ病人でも猫の手も借りたい。人財(人材)ではなく人員が足りなかった、という事だろう。

 配属された職場は、新規事業部だった。既存の機械が時代遅れで市場にマッチせず、売れない事はさすがに誰の目にも分かっていたので、新規事業として、全く新しいタイプの機械を開発するチームだった。

 尋常ではない忙しさと、全くの門外漢である「化学」や「電気」プラス機械の知識、超有名企業との共同開発だったので打ち合わせや出張も度々。

 途中からの参加なので用語も知識も分からず、どうしようかと途方に迷うとともに、やはり連日、いつもに増しての深夜までの残業。

 全国への出張も多く、約3か月、冬の東北で、地方拠点で缶詰になっていたり。その時は、辛さ半分、楽しさ1/4、残り1/4は生きていくために仕方ない、と諦め。


 でもその頃は、まだ働けることのうれしさの方が大きかったか…。むしろ、辛いけど新しい事を学びたい、休んでいた期間を取り戻したかったのかもしれない。冷静に考えれば、やはり、焦っていたのだと思う。

 働き盛りと言われる年代に働けない辛さを味わったので、働きたい。その気持ちの方が大きかった。

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