第7話 自分の夢とは

 大学3年生の時だ。一番の友人が、大学を退学した。理由は、旅客機のパイロットになるために、講義以外にも英語なども英会話教室に通って頑張り、航空大学校に合格、そこで学ぶことにしたという事だった。私も同じ航空工学専攻ではあったが、そこまでの頑張りが無かった。

 自分の夢は、何であったのか。最初は自動車のエンジン設計者になりたいというのが根本にあったが、正直、夢は、難病遺伝子に蝕まれずに、平穏に暮らしたい、というのが、意識はしていなくても、根底にはあったのだと思う。

 なれる自分と、なりたい自分。似て非なるものだ。頑張って勝ち取れる未来もあれば、人生にあらがえない未来もある。

 忙しく勉学とアルバイトをしていたら、そんなことも考えている時間もなかったが、ふっと、そう思ってしまう日もあった。

 幸い、私は朝5時には学校に出発、アルバイトが終わって23時帰宅。4年生になってからは、卒業研究と論文執筆もあったので、友人宅に泊まって、自宅に帰らない(帰れない)事も多かったので、父と生活時間がすれ違う事となり、自分的には精神衛生上、気分が楽だった。本当は現実を直視しなければならないのだが、見なくて良いのであれば、正直見たくないし、話せば喧嘩になるのがオチであったので。

 その分、母には負担をかけた。母は口は悪いが、きちんとやる事はやる人だ。どんなに悪態を父から言われようと、言い返す母ではあったが、しっかりと面倒を見ていた。その当時も、昼間はパートに出ていたが、食事は父の分を作って、働きに出ていた。その時はまだ、父は杖や伝い歩き程度は出来ていた。

 

 夢。普通に企業で働いて、結婚して、家庭を築いて、定年まで働き、余生は趣味を充実させる。当たり前の様で、当たり前ではない。正直、それが私の夢であった。そして、実現することのできない夢でもあった。

 

 余談だが、大学を中退した一番の学友であるが、航空大学校を卒業後、日本の大手航空会社にパイロットとして採用され、副操縦士を経て、30代でボーイングのジャンボジェット747や777の機長となり、世界を飛び回っている。

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